細田守監督「美というものが現代にアップデートされたら」

インタビューに応える細田守監督
「これは『美女と野獣』の現代版」
──そして本編でいえば、英題では『Belle(ベル)』ってタイトルですよね。これだけで潔いほどに『美女と野獣』オマージュという。
そうです、これは「『美女と野獣』の現代版」だとわかる感じにわざとしたんです。日本の場合は、案外「ベル」っていってもそれがわからない。だからニュアンスは違いますけれど、こうなったんですよね。でも、日本は日本で「そばかすの姫」って新鮮だとみんなに言ってもらって。
──確かにそうかも。「そばかす」という言葉自体も。
僕らの世代だと馴染みがあるんですけど。(細田監督・ミルクマン2人同時に歌い)「そばかすなんて気にしないわ〜♪」ですからね(笑)。

──昔から細田監督は『美女と野獣』が大好きだと公言されてるし。
そうなんです。『おおかみこどもの雨と雪』を作ったときに、ミルクマンさんとジャン・コクトーの話になって。見る人が見たらわかるよね、ってなもんですから。
※編集部注/ジャン・コクトー:フランスの芸術家・映画監督。実写映画『美女と野獣』(1946年)を手がける
──ことに野獣・・・というか竜の城の設計もコクトー的であり、いや、それよりむしろディズニー的か。
城をデザインしたのは上国料 勇(かみこくりょう・いさむ)さんというゲームソフト『ファイナルファンタジー』とかのアートディレクターの人で。上国料さんはディズニーとかコクトーとかにあまり影響されないで、むしろゲーム世界、デジタル世界の人としてデザインしたみたいですね。それでもやっぱり出来たものを見ればディズニー的に見る人もいれば、ジャン・コクトー的に見る人もいますよ。
──そもそもは古いゴシック的な西洋的モードが導入されているんだけれども、なんかちょっとバグったような、3Dを眼鏡外してみているような感じに処理されてるのが面白い。
どういう風にデジタル世界である〈U〉のなかの城だってことを表現するか、そこを上国料さんのゲームチックなところで出せませんかね、とお願いしました。デジタル感があるからこそむしろ元々のデザインは古典的にして差を作ろうとか、いろいろ言いながら作っていった感じです。
──そもそも野獣が竜になったのには理由があるんですか?
「竜」というのは一応名前で、竜を排除しようとするジャスティス軍団がプロパガンダ(主義・思想の誘導行為)で「ビースト」と呼んでいて。ビーストという言葉にされた瞬間に「美女と野獣」=「ベルと野獣(La Belle et la Bete)」になる。
最初は「野獣」でデザインを進めてたんですけど、なんかしっくりこなかった。そんなとき(キャラクターデザイナーの)秋屋蜻一さんが竜を描いてきて。「野獣って言ったやないか!」って言ったんだけど、それがすごく説得力があって魅力的で。「あぁ、これが正解かも」と思ったんです。

──当初はもっとストレートに野獣のイメージだったんですね。
ストレートにやってましたが、秋屋さんが描いた絵を見て変わった。アザをあんな風に表現するのもすごい、マントで、しかも模様になってる。ほかの人は普通素肌に描くわけ、常識的に考えたらそうなるでしょ。そこが飛躍してて、すごいなと。
──ボディシェアリングの世界では、そういう傷の表れ方もアリですもんね。
僕らがアザの服を着てたらそれまでのことだけど、要するにデータの世界だから、着替えてもアザは残るみたいな感じ。デジタル的というところも踏まえてデザインしてる。
──『美女と野獣』みたいな誰でも知ってる大ネタを扱ってもオマージュに留まっていない。そこまで発展させるのが流石。観客のほぼ全員が『美女と野獣』を思い浮かべますよね。と思ってると、あのアザの意味合いがとてつもなく重いところに行き着くんで、みんな驚愕すると思うんです。
心の傷だったっていうね。最終的にそんな状況のなかで少年たちを助け出すとき、言葉だけじゃなくて、実際にちゃんと身体を張ることが出来るっていう結末に辿り着いたのは良かったなぁ、と描いてて思いましたね。
──しかも、すずにすがる兄弟を引きはがそうとして、お父さんがすずの頬をえぐり取るような描写がされる生々しさ。ただ傷つけるだけじゃなくて、明らかに力入りすぎて肉をえぐるような。
逆にそうやって傷を作って、土砂降りでずぶ濡れで頬から血を流して、それでも守るっていうところに人物の凜々しさ、美しさが立ち現れる。
──ある意味、あの傷は聖痕=スティグマみたいなものでもありますしね。
そうです、かたち上の「美」というものがこれで現代にアップデートされたらいいな、と思いました。やっぱりこのテーマをやるからにはね。
外面的には醜いとされる傷には実は内面的な美しさがあり、逆もまた然りです。すずは顔に傷をつけられても、それを跳ね返すほどの強い魂が、彼女を美しくしている。すずを通して現代における「美女」とは何か、というのを感じてもらえたらうれしいです。
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