上半期の洋画ベスト3はコレ! 評論家による映画鼎談
「ディズニーやマーベルは良い映像作家をちゃんと評価する」(斉藤)
田辺:個人的にちょっと触れておきたい作品が、Netflixのオリジナルアニメ作品『ミッチェル家とマシンの反乱』。オープニングのアクションシーンから「はい、おもしろいです!」と。AIが暴走する世界で生き残った家族のサバイバルってところで、映画版『クレヨンしんちゃん』っぽさがあったり。
あと、モロに『スター・ウォーズ』シリーズや数々のホラー映画などのオマージュとか。映画を観てもらったら分かるんですけど、主人公のとある設定も「現在ではこれは当たり前のこと」として普通に描いていることが良かったです。
※編集部注/『ミッチェル家とマシンの反乱』:ひょんなことからロボットの反乱に巻き込まれた変わり者揃いミッチェル家が人類の危機を救う
斉藤:個人的に好きなものを挙げるなら、女子高生が、連続殺人鬼に刺されたことがきっかけで中身が入れ替わっちゃうっていう『ザ・スイッチ』だな。中年男の連続殺人犯と女の子の人格が入れ替わる映画。だから、あのヴィンス・ヴォーンがほぼ全編、女子高生の仕草と声音で演技してて、これは異次元級だった。で、大スプラッターで面白すぎる!
田辺:実在のロックバンド・メイヘムの過激で狂乱的なブームを描いた音楽映画『ロード・オブ・カオス』も個人的にはベストです。本気で狂った人間のなかに、狂ったフリをしていた人間が入っちゃったこうなってしまうという惨劇。しかも狂ったフリをしているヤツが売り上げを搾取したり。周りは薄々「こいつフェイクだよな」と気付いているけど、言わないでおいてあげようと。そういうところが痛いんですよね。元ネタは悪魔崇拝主義のブラックメタルバンド、メイヘムの実話。
斉藤:「メイヘム事件」と言われていて、協会を焼き討ちしたり、メンバーが自殺したところの脳髄が飛び散ってる写真をジャケットにしたり。ヨナス・アカーランド監督は当時、その周辺にいた人なんだよね。ただただバカなヤツがバカをやっているだけの話じゃなくて、ちゃんと切なさがある。それが滑稽という意味でのコメディになったり、青春映画になっていく。
春岡:あと、『101匹わんちゃん』のヴィラン(悪役)・クルエラが悪役に変貌した経緯を描く『クルエラ』が良かったよな。『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年)のクレイグ・ガレスピーが監督で、許容量や懐の深さがあった。
斉藤:ディズニーやマーベルは、インディペンデントでも良い映像作家をちゃんと評価して起用する。それが今のブロックバスターなアメリカ映画の原動力になっている。クレイグ・ガレスピーはアウトサイダーの気持ちが分かる人だしね。ディズニーはそういう部分に目をつけて起用したに違いない。
田辺:クルエラと行動をともにするジャスパー役のジョエル・フライも、まだメジャー出演作は少ないけどコメディ系の俳優として頭角をあらわしていて、ディズニーはちゃんと目をつけてきた。Netflixオリジナル作品『ラブ、ウェディング、リピート』(2020年)や『イエスタデイ』(2019年)は映画の内容はイマイチだったけど、ジョエル・フライはめちゃくちゃうまかったですから。
斉藤:ハリウッド映画はそういう新人に対して門戸が広い。20年くらい前の東宝の映画って、インディペンデントの監督を起用したことがよくあったけど、そういうチャレンジ性がやっぱり大事だよね。
春岡:ハリウッド映画は移民がつくった文化だからね。宗教などもバラバラで。さらにハリウッドはアウトサイダーが築き上げていったとも言える。だから新しいものを取りいれることを怖れず、良いものはどんどん取り入れようとしている。その傾向が、ディズニーやマーベルで顕著になってきた。
そもそも映画ってのは保守的になっちゃダメなんだよ。伝統ってのはどうしても保守的なところがあるから、そんなのに縛られているとどんどん門戸が狭くなって閉塞していき、そして寂れていくしかなくなるんだ。
田辺:内容的なところだとクルエラがバロネスにゲリラアートを仕掛けるなど、お互いがファッションの価値観で殴り合いをするところが斬新でした。
斉藤:『クルエラ』はファッション史をちゃんと押さえているところが素晴らしい。あのパンクな要素は、おそらくヴィヴィアン・ウエストウッドをイメージしているはず。挑発的なところや既存のファッションに対する関係性をきっちり織り込んでいる。
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