蒔田彩珠や前田航基…若手ホープの名演引き出す「おかえりモネ」

2021.10.16 19:45

未知の隣に寄り添い、亮を見つめる百音(清原果耶)(C)NHK

(写真5枚)

本サイト『Lmaga.jp』の映画ブレーンで、NHK連続テレビ小説にも造詣が深いという映画評論家・ミルクマン斉藤。今回、朝ドラに関する記事を度々執筆するライター・つちだ四郎がミルクマン斉藤と対談。『おかえりモネ』を演出・俳優・音楽などさまざまな側面から振りかえりました。

■ 音楽がドラマを乗せている瞬間も

つちだ「まずは自然をふんだんに盛り込んだオープニング。第1回目でその内容が公開されたときは、『さわやかで朝にぴったり』『登米や気仙沼の景色が美しすぎる』など絶賛の声が多かったですよね」

斉藤「キラキラしたタイトルバックに象徴されるように、『おかえりモネ』は美しい光の取り入れ方をしてるね。朝ドラにはまったくカメラに凝らないタイプの作品もあるけど、今作は撮り方にもこだわりを感じる。朝ドラらしいかはともかく、映像も含めて朝にぴったりなドラマだと思う」

つちだ「そうですよね。でも登米編では当初、『展開があまりなくてどう捉えたらいいかわからない』『離脱しそう』という声も多かったように思います。確かに前作の『おちょやん』が波乱万丈だったから・・・」

斉藤「最初はそう感じる人も多かったんだろうけど、人間関係が濃くなるにつれ話も展開もドライブ全開になって来たよな。15分という放送時間の使い方も冒険してる。普通はもっと波乱万丈にしたいところを抑えて、どんどんテーマの深いところにシフトしてる」

つちだ「はい。初期で登場したテーマや言葉が、後になって伏線のように効いてくる展開もうまいなと感じました」

斉藤「テーマのひとつとしては登米編で出てきた『山と海のつながり』が大きいと思うけど、これが東京編になっても活きてくるんだよね。全体的に、根幹となるテーマをうまく回してるなぁと」

つちだ「そう思います。今作では、高木正勝さんが手掛ける音楽も良い味を出していますよね」

斉藤「高木さんの音楽は、細田守監督の作品や伊右衛門のCMに代表されるように、キラキラしたイメージが強い。自ら演奏するピアノや弦楽器の音がいちいちドラマの脈拍に合いすぎて、ときには饒舌すぎるとは思うんだけど、逆にメロディーがドラマの進行を促してる瞬間もあるのが、さすが。劇伴としては目立ちすぎるほど目立ってるんだけど、ここまでやると作品のトーンを仕切ってる感さえあるよね」

つちだ「登場人物が前に進むようなシーンで特に、音楽が目立つような気がします。BUMP OF CHICKENによる主題歌『なないろ』もドラマのテイストにぴったりで、毎朝爽やかな気持ちになれますね」

斉藤「BUMPの主題歌、良いよなぁ〜。主題歌が合う・合わないはやっぱり朝ドラには大きいけど、その点、今作はうまいことマッチしてる。ドラマの話数が進むごとに、歌詞とドラマのテーマがリンクしていることに気づいたり、作品に合った曲作りをしているように感じたな」

■ 口数の少ない百音だから、表情が際立つ

つちだ「キャストの話をしたいのですが、やっぱり主演の清原果耶さんはさすがの演技力ですよね。最近でいうと、第92回で、心配して実家に駆け付けたのにお祭り騒ぎだった様子を見たときの表情。あれは何とも言えない気持ちになりました」

斉藤「2015年の朝ドラ『あさが来た』で、演技デビュー作にもかかわらずあれだけの存在感を見せたことからも、清原果耶さんが本物の実力派というのは分かっていたけど、表情を使った演技が本当にうまくて、画面に強烈な印象を与えてくれるね」

つちだ「百音は、快活で周りを引っ張っていくような『朝ドラヒロイン』というイメージから離れ、かなり口数が少ないキャラクターですよね」

未知を心配そうに見つめる百音(清原果耶)(C)NHK

斉藤「だからこそ、より清原さんの表情の凄味が際立っていて。これもまぁ、安達奈緒子さんの脚本がうまいなぁと。ドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)でも、シロさんとケンジの会話は激しい討論みたいなものはできるだけ避けて、台詞は少なめに抑えつつも2人が愛し合ってることが伝わってくるような作りになってる。『おかえりモネ』もそれは同じで、対話でストーリーを進めていっているのが伝わる。肝心なところでは結構胸に刺さりまくる台詞をきっちり入れるんだけど」

つちだ「ツイッターのトレンドにもセリフがよく入っていますよね。トレンドといえば、今作は恋愛模様にも注目が集まっていて、特に坂口健太郎さん演じる菅波は『#俺たちの菅波』というハッシュタグができるほどの人気です。坂口さんの、不器用だけど温かみのある演技ががっちりハマっているなと感じました」

百音と電話で話す菅波(坂口健太郎)(C)NHK

斉藤「坂口さんは行定勲監督の『ナラタージュ』(2017年)で主人公に思いを募らせるあまり暴走する、いわば悪役に近い役を演じていたんだけど。あれは純粋すぎるがゆえの悪役という感じで、菅波はそこから悪の部分を抜いたようなバージョンの演技をしてるのかな、と。それにしてもあの処女/童貞感はちょっと浮世離れしすぎていて、でもさほど違和感ないのがモノ凄い(笑)」

つちだ「確かに・・・。2人の関係性もこれからどうなるか気になります」

斉藤「坂口さんもどんどん上手くなっていってる俳優さんのひとり。『ナラタージュ』からどんどん脱皮してるのを感じるね」

■ 是枝作品で光っていた蒔田彩珠や前田航基

つちだ「ハマり役でいえば、未知役の蒔田彩珠(まきたあじゅ)さんの演技力も圧巻で、登場するたびにドキドキさせてくれます」

斉藤「嫉妬のあまり、言ってはいけないことを言っちゃう、あの演技は凄まじかった。これまでドラマ出演の印象は薄い蒔田さんだけど、未知という難しい役柄を演じきったのはさすが。彼女はすでに是枝裕和作品の常連だし、2022年には松永大司監督の『Pure Japanese』という主演作も控えている。今作でより顔が売れた今後にはもう期待しかない!」

百音のもとに駆けつけた未知(蒔田彩珠)(C)NHK

つちだ「緊迫するシーンが多いなか、前田航基さん演じる三生が登場するとホッとします。最近では髪の毛を剃るシーンが印象的でした」

斉藤「三生も良いキャラだよねえ。前田くんも、もとをたどれば役者デビューは是枝監督の『奇跡』(2011年)だから、彼も映画出身からのキャスティングになるのかな。あの作品では兄弟そろっての出演だったけど、朝ドラでは前作『おちょやん』(寛治を演じたのが弟の旺志郎)から兄弟でリレー出演になった」

https://twitter.com/asadora_nhk/status/1440454816640106507

つちだ「まえだまえだ、すっかり演技派俳優ですね。ほかにも同じく幼なじみの『すーちゃん』こと明日美を演じる恒松祐里さんも、すーちゃんと付き合う内田役の清水尋也さんも、実力派です」

斉藤「恒松さんは『凪待ち』や『アイネクライネナハトムジーク』(ともに2019年)と映画での活躍がめざましくて。特にセックスワーカーの女性を演じた『タイトル、拒絶』(2020年)はすごかったなぁ」

つちだ「恒松さんと、気象予報士・野坂役の森田望智さんの『全裸監督』共演も話題になりましたね(笑)」

斉藤「そうやね。あとは清水くんも『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019年)、『東京リベンジャーズ』(2021年)と最近出演が増えているけど、演じるキャラクターが本当に幅広い。アニメ映画『映画大好きポンポさん』(2021年)で主役の声をあてていたけど、めちゃくちゃうまかった! 最後のクレジットで『彼だったのか!』と気づいたくらいで、声優としてまったく違和感がなかったな」

つちだ「そうなんですね、知らなかった! 見てみます。みんな最終章でどう関わってくるか、楽しみですね」

斉藤「今作のキャストは、映画をメインに活躍している役者を引っ張ってきている印象がある。というか、朝ドラのキャスティングは映画畑から持ってくることが多いよね。きっとキャスティング担当は、『愛がなんだ』などで知られる今泉力哉監督の作品をチェックしてるんじゃないかと思っちゃうくらい起用されてる」

つちだ「たしかに、成田凌さん、岸井ゆきのさん、若葉竜也さん、古川琴音さん・・・今泉作品に出てた俳優さんの朝ドラ出演が続いていますね」

斉藤「そう。だから今後も今泉作品に出てた俳優さんが何人か朝ドラに出るんじゃないかと確信してます(笑)」

■ キャスティングから力の入れ具合が伝わる

つちだ「若手(永瀬廉さんについては別記事で!)もですが、ベテラン勢のキャスティングもなかなかですよね」

斉藤「内野聖陽さん&西島秀俊さんっていう『きのう何食べた?』コンビを使っていることからも、キャスティングの力の入れ具合が伝わってくる。及川親子(浅野忠信と永瀬廉)が登場するシーンだと、大体、鈴木京香さんと内野さんも登場するけどそうなると画面がもう、濃い! そこに藤竜也さんも加わるとさらに凄味が増すし」

食卓を囲む耕治(内野聖陽)、新次(浅野忠信)、亜哉子(鈴木京香)(C)NHK

つちだ「汐見湯の大家・菜津役のマイコさんや、登米編で百音に大きな影響を与えたサヤカ役・夏木マリさんなど、魅力的な大人たちがたくさん登場するドラマでもあります」

斉藤「挙げればキリがないくらいだけど、ミュージカル畑から抜擢された、テレビ局の記者・沢渡役の玉置玲央さんや、耕治たちの過去に関係するキーパーソンとして登場した塚本晋也監督も。彼もNHKのドラマに愛されてる俳優だよね。登場回数は少なくても、良い役柄だった」

つちだ「作品を彩るキャスト陣に加え、役者さんの持ち味を最大限に引き出す配役や脚本はさすがだなと感じます」

斉藤「本当に今作は安達さんがノッてるな、と感じていて。清原さんの演技力を決定的に知らしめた『透明なゆりかご』(NHK)には、『安達奈緒子、やったなぁ。これは絶頂期だ』と感心した記憶がある。月9枠の『失恋ショコラティエ』や『リッチマン、プアウーマン』とかももちろん面白かったけど、『透明なゆりかご』や『きのう何食べた?』でグレードアップして。そして、今作でさらに箔がついたんじゃないかな。いろんな脚本家さんが今嫉妬してると思うよ」

『おかえりモネ』の放送は10月30日まで。10月19日には情報番組『あさイチ』に、百音役の清原果耶、未知役の蒔田彩珠がゲスト出演する予定。

文・構成/つちだ四郎

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