清水康彦監督「閉塞した環境で、動きだすための気づきを」

2021.11.3 18:45

映画『CUBE 一度入ったら、最後』でメガホンを取った清水康彦監督

(写真7枚)

「最初に浮き上がってくるのは、世代別の考え方や生き方の違い」

──同じ部屋に居合わせる登場人物は6人ですが、それぞれ個性が際立っていますね。

6人で社会の縮図を構成するわけですから、いわゆるステレオタイプな人間たちの集まりですよね。ただ、この個性の集まりにしても日本的な特徴は考慮しています。

──日本的、たとえばどういうところでしょう。

集団でいると、ひとつの統制のとれた集まりとして機能するし、それが嫌いではない。ところが一旦統制が崩れると、個としてどう行動していいかわからなくなってしまうようなところですね。この仕掛けはオリジナルのナタリ監督も日本的だとおもしろがってくれました。彼は奥さんが日本人なので、日本の文化にも詳しいんです。

──ほかにも、なにか日本版ならではのものとかありますか。

こういった状況での人と人とのぶつかり合いを描くとき、カナダでもどこでも外国ならまず人種の違い、差別という問題が浮き上がってくると思います。あるいは国境を隣接する国同士での軋轢とか。

それが日本だと、最初に浮き上がってくるのは、世代別の考え方や生き方の違いではないでしょうか。あとは学歴による社会的立場の違いとか、そういうところが日本の問題として特化される点だと思います。だから逆に外国の人がこの日本版を観たら、「どうしてそんな年齢による考え方の違いなどがポイントになるんだ」という風に思うかもしれないですよね。そこは聞いてみたいところです。

──なるほど。ところで、オリジナル版との違いでいうと、オリジナルでは女性は2人ですが、日本版では1人になっていますよね。そしてその女性を杏さんが演じています。

そこまでオリジナルをなぞる気持ちはなかったので、人数を減らしたみたいな感覚はなかったですね。杏さんに演じてもらったのは、ほかの男たちを冷静に見つめる女性という役柄です。

女性って、男を常に冷静に見つめて選別しているっていう感じが僕にはあって(笑)。また、CUBEのなかでどんどん人間としてのメッキが剥がれていく展開になるわけですが、そういうのって「男の方がおもしろいじゃん」ていう気持ちもあって。今回の杏さんとほかの男たちの関係には、僕の男女感が反映されています。

「新たな1歩を踏み出すのにはどうすべきか」

──キャスティングでいうと、最初に決まったのは主演の菅田将暉さんですか。

はい、監督の僕よりも先に決まっていましたね(笑)。彼ぐらいになると、彼が出演するということが1つの企画として立ち上がるわけですから。

──続く5人のキャスティングのポイントはどういったところだったのですか。

芝居を見せる力、演技力です。CUBEのなかで部屋から部屋へ移動するといっても、どこへいっても同じ造りのなにもない部屋なので、結局同じ空間でずっと芝居することになる。そこで菅田さんを中心に撮っていても、前後左右にいる人物たちも全部映るわけです。シナリオには菅田さんの台詞や動きしか書かれていませんが、周りの人間たちも、きちんとその人物として常にいてもらわないと困る。これはなかなか大変なことで、言われたことだけやっているような人では絶対務まらなかったです。

フリーターの越智(岡田将生)と、会社役員の安東(吉田鋼太郎) (C)2021「CUBE」製作委員会

──それぞれに役割りも当てられていますよね。岡田将生さんと吉田鋼太郎さんが、先程言われた世代間ギャップを見せていく2人というように。

さらに、岡田さん演じる越智はCUBEに入れられて、「ここはどこだ」「どうしてこうなった」とかを聞きまわる役で、それって映画を観ている人たちが思うことなんですよね。つまり、観客の心情を代弁する役でもあるんです。吉田さんはCUBEに入る前の自分を捨てようとしない人物で、それって大人の悪いところみたいなんだけど。ある意味すごく人間くさくて滑稽だったり悲しかったり、いつか美しさにもなるかもしれない。それを体現する人物ですね。

──田代輝さんが演じている、心を閉ざしがちな中学生もおもしろい存在です。

あの年齢の人間は、状況を重くも軽くも受け止めない。まだ何者にも染まっていない状態だと思うんです。そんな世代の人間を少し年齢が上の者たちがどう導くべきなのか、というのが、菅田さん演じる主人公に託した1つのテーマなんです。本人たちもまだ若いけれど、その下の世代を邪魔だと思うのか、いやあの子たちはすごいぞって思うのかで、未来の在り方って絶対変わると思っているので。

──菅田さん演じる青年の設定にある、かつての自分の弟との関係もそこに絡んでくるわけですね。6人の残りの1人が、リーダー的な存在となる斎藤工さんです。

斎藤さんはほかの5人をグイグイ引っ張っていく人です。それができるのは、彼には目指すべき大切な目的があるからです。でも、それがふと諦めに変わったらどうなるかを表現してもらいました。ある意味で「希望」への考察です。

──本当に出演者ひとりひとりが、役割りをきっちり果たす演技を見せてくれてますね。

ええ。最初に登場する柄本時生さんを含めて、力のある俳優さんたちが揃ってくれました。

そんな俳優さんたちの力を借りて、変わってしまった社会で新たな1歩を踏み出すのにはどうすべきか、というのを基軸に描きました。多くの人に観てもらって、そのあたりのことを少しでも感じてもらえたらと思います。

映画『CUBE 一度入ったら、最後』

全国の劇場で公開中
監督:清水康彦
出演:菅田将暉 杏 岡田将生 田代輝 斎藤工 吉田鋼太郎、ほか
配給:松竹株式会社

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