俳優・升毅に板尾創路が訊く、関西小劇場ブームと今の演劇界
今年で3年目を迎える『関西演劇祭2021』でフェスティバル・ディレクターを務める板尾創路が、「関西の演劇って、実際どうなん?」というのを探っていく本連載。
前回のインタビューに続く第2回は、1980~90年代に「売名行為」「MOTHER」の2つの劇団で関西小劇場ブームをけん引した俳優・升毅に、板尾が話を訊く。
関西演劇界での活動から何を得て、そして今の関西をどう思っているか・・・、2021年夏に朗読劇『青空』で共演した2人に、お互いざっくばらんに語ってもらった。
取材・文/吉永美和子
「東京でも関西小劇場ブームが起こったんです」(升)
板尾「『売名行為』って、すごくインパクトのある劇団名でしたよね。潔いというか『そらそうやろ!』みたいな(笑)。升さんが今もずーっと活躍されているのは、その気持ちが強かったからなのかなあと」
升「まあ、手段は選んでなかったです(笑)。僕はもともと新劇系の劇団におって、1985年に立原啓裕さん・牧野エミちゃんと『売名行為』を結成しました。ちょうどその頃に『今は(劇団)そとばこまちや(劇団☆)新感線などの学生劇団が面白らしいで』と聞くようになったけど、僕は『こっちはプロでやっとんねん!』と思ってて(笑)」
板尾「はいはい。学生とは違うぞ、と」
升「でも、そとばの生瀬(勝久)くんに『売名行為』に出てもらったら、めちゃくちゃ達者でびっくりしたんです。それで改めて、それぞれの劇団をちゃんと観はじめたら、やっぱりすごく面白くてね。そことうまい具合にコラボさせてもらうことで、僕らも関西小劇場ブームに便乗することができました」
板尾「その中心に升さんがいた、というイメージが僕にはあるんですけど、当時のみなさんは最初から東京を目指して関西で演劇をやっていたのか、それとも関西で活動していたら、たまたま東京から仕事が来たのか。どういうモチベーションで活動されてたんかな? というのが、僕はわからないんです」
升「僕は最初から『東京に行きたい』という志向があったんですけど、自分たちが面白いと思う芝居をやって、お客さんがどんどん来てくれて一緒に楽しんでくれるという状況がすごく楽しくて、関西で芝居を作るだけで十分満足できる状態だったんですよ。さらに東京でも上演すると、当時は関西の笑いが東京の人にはすごく新鮮だったようで、向こう(東京)でも関西小劇場ブームが起こったんです」
板尾「『今、関西の劇団が面白い!』みたいな。東京の人って、新しいもんが好きですしね」
升「そういうことをやっていくうちに、まず(劇団☆新感線の)古田(新太)くんに東京から声がかかりはじめて、ラジオ『オールナイトニッポン』をやったりして。でも俳優として(声がかかったの)は、僕が一番早かったと思います。1995年に東京のドラマの話をいただいて、そこからどんどん一気に話が来るようになって、続いて生瀬くんも東京で活躍しだしましたね」
板尾「『もっと大阪、ほかに(俳優)おらんのかい!』みたいになったんですね」
升「そのちょっと前に、東京の小劇場のみなさんが、ドラマや映画に出だした時期があったんですよ。まだみんなが知らない役者を起用して『俺が見つけてん』っていう(笑)。それが一通り出てきて『次はないか?』ってなったときに、多分関西(の役者)に目が向いたんじゃないかな、と」
板尾「その当時は、仕事のあてはないけど東京にスタンスを移して、地道に活動をするみたいな人は、そんなにいなかったんですか? 僕ら芸人は、東京でレギュラー(番組)を持ってる先輩にくっついて、あわよくば自分たちでも番組を持てたら・・・という感じで、スキあらば東京を目指すという感じだったんですけど」
升「それはあまりなかったかな。劇団の活動だけである程度満足できたから。それを蹴って単品で東京に行ってイチから活動する・・・、と考える人はそんなにいなかったんじゃないかと思います」
板尾「そらそうですね。とはいえ僕らの時代は、関西で1回売れないと、東京に行くチャンスをなかなか会社からもらえなかったんです」
升「演劇も『関西で一番を獲らんで、東京に行ったって売れるわけがない』という言われ方をされた覚えはありますよ」
板尾「でも今は、それを飛び越えて東京に行っちゃう。その状況は多分、芸人の世界も俳優の世界も一緒なんちゃうかなあと思います」
「みんなお芝居が好きで、今も昔と変わってない」(板尾)
板尾「升さんは、今の関西の劇団はご覧になってますか?」
升「『THE ROB CARLTON』や『空晴(からっぱれ)』とかは、僕と同世代の役者がゲストで出たりするので、観に行きますね。本当に上手で面白くて、終わった後にみんなで酒を飲んでたら、昔の感じを思い出して『懐かしいな~』ってなります」
板尾「『関西演劇祭』をやらせてもらうようになってから、関西って今もすごく劇団があるんだなあと感じています。でも昔は、もっとテクニックがなかったというか、ギクシャクした芝居をする劇団が多かったと思うんですけど、今ってみんなわりとちゃんとできてるんですよ。お笑いもそうですけど、若手でもちゃんと形や個性ができている」
升「おっしゃる通りですねえ。僕も最近の、名前も聞いたことがないような劇団を観に行っても、みんな上手なんですよ。『どうです、ちゃんとできてるでしょう?』みたいな(笑)。それで『はい、その通りです』って思うんだけど、その次がない感じがしてしまうんです。『この人たちはどこを目指してるんだろう?』って」
板尾「あー、そうですね。それが良いか悪いかは別にして、昔は『何がなんでもプロデビューしたい』『上に行きたい』とか、もっと鬼気迫るものがあったような気がします。今、高校生の漫才を審査する機会もあるんですけど、みんな『これが終わったら受験勉強がんばります』とか、青春の思い出みたいになってて(笑)。そういうドライな風潮って、演劇にもあるんですかね?」
升「どうなんですかねえ・・・時代もあるのかもしれませんよね。だって生まれたときから携帯電話があった人たちの考えてることは、僕はよくわからないという気がする(笑)」
板尾「確かに今の子の情報力というか、情報をつなげたり発信する力って、すごいなあと思います。でもその一方で、わりと平均的になっているという感じもしますね。僕らの頃って、芸人さんにしても俳優さんにしても、トップの人とそうでない人の、力の差がすごくなかったですか?」
升「あー、あからさまにありましたね。各劇団にそれぞれのスターがいて、若手たちはがんばってそこを目指すという」
板尾「座長もすごく怖かったって話をよく聞きますし・・・『売名行為』はどうだったんですか?」
升「最初は3人の合議制だったんですけど、それが全然ダメで(笑)。4作目ぐらいから(作家・演出家の)G2が入って、『今度はこんなことをしましょう。そのためにはこうしてください』という作り方をしだしてから、注目されるようになりました。そういう意味では、やっぱり強いリーダーが生まれたから、売名行為も動き出したんです」
板尾「なるほどなるほど。劇団って、そういうスターや作家・演出家が厳しくて、若手は文句言われへんっていう、怖いイメージがあったんですけど(笑)、今の若い劇団は割とみんな仲良しで、座長や演出家もそんなに怒ったりしないみたいですね」
升「それは劇団に限らず、今の若い子は、怒ると辞めてしまうからじゃないですか?(一同笑)」
板尾「確かにそうですわ。でも話をしてみると、やっぱりみんなお芝居が好きで、ドラマや映画にも出たがっているというのは、昔と変わってないなあと思います」
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