「おちょやん」で話題の松竹新喜劇、素直な疑問をぶつけてみた
70年以上に亘って、関西に笑いと涙の人情喜劇を届けてきた劇団「松竹新喜劇」。2020年には、NHK連続テレビ小説『おちょやん』で、主人公・千代が所属する劇団のモデルになったため、そこで初めて「名前は聞くけど、こんな劇団なんだ・・・」と思った方も多いだろう。今年から「Lmaga.jp」演劇担当になった若手編集部員も、そのひとりだった。
そこで今回、正月恒例の『初笑い! 松竹新喜劇 新春お年玉公演』を前に、劇団代表の三代目渋谷天外、『おちょやん』では須賀廼家天晴(すがのや・あっぱれ)役でレギュラー出演した渋谷天笑、11月に劇団の名跡「曽我廼家(そがのや)」を継承した曽我廼家いろはの3人に、「吉本新喜劇とはどう違う?」「名前を継いだら、何か得するの?」など、初心者ならではの気になる質問をぶつけてきた。
取材/Lmaga.jp編集部 編集/吉永美和子
「特別おかしなことをやってないのに、笑って泣ける劇」(いろは)
──恥ずかしながら、新喜劇というと「吉本新喜劇」しか馴染みがなかったんです。でも、初めて松竹さんの舞台を拝見したら、ギャグがなくても役者さんのお芝居だけで笑えて「こんな喜劇があるんだ」と思いました。
いろは:私も「新喜劇やってます」って言ったら、絶対「吉本?」って聞かれますよ(笑)。
天外:僕は若いとき、吉本の方が好きやったんです。義理とか人情とか、うっとうしいこと言うてないから(笑)。そこからいろんな経験をして、30代で松竹新喜劇に戻ったときに「うちは、なんていい芝居をしてるんだ」と思いました。自分が歩んできたようなことを描いていて、それが観ている人たちの共感を呼んで、笑いや涙になるんだと。普遍的なものを扱うてる、素晴らしい世界やと、今は思ってます。
──吉本新喜劇では一人ひとりに持ちギャグがあって、題材を変えながら笑いに特化してる一方で、「松竹新喜劇」は昔の作品を受け継いでいくんですよね。この間見た『二階の奥さん』とかは、すごく日常的な風景が続く劇だな、と思って見ていました。
いろは:出てくるのは「ホンマにこんな人いてそうやな」っていう人たちばっかりですし、特別おかしなことをやってるわけでもないのに、なぜか笑えたり泣けたりするんです。そういう人情喜劇をやってる劇団って、なかなかほかにないと思います。
天外:でもやっぱりね、過去の(作品)を観たら古いですよ(笑)。だから僕が代表になったとき「ルネッサンス(過去作品の再生)しましょう」と。たとえば、『二階の奥さん』は、舞台を現在に変えたり・・・二階の奥さん役をした彼女(いろは)には今風の演技をしてもらいました。
──『二階の奥さん』では、劇中のセリフに「スマホ」や「インスタグラム」など、現代の日常でよく聞くワードが出てきましたが、もとはずいぶん前に書かれた作品なんですよね?
天外:そうですね。でも古い脚本も、今の我々の感性で変えていけば、新しいものになるんですよ。だからある意味、新作っちゃ新作。その一方で(1月に上演する)『お祭り提灯』のように、本がそのままでも演じる役者によっておもしろさが変わる作品もある。自分で本を書いて「ようできてるな」と思っても、振りかえったら諸先輩方が、同じ題材でもっとええ本を先に書いてたりするんですよ(笑)。それで僕は、ルネッサンスを目指したわけで。
天笑:僕は天外さんに、新作を書いてほしいと思ってますけどね。
天外:やっぱり一から新作をやるのはね、怖いんです。ウケるかどうかわからないから。しかも今のこの世の中は、題材探しがものすごく難しい。ネットも雑誌もビックリするほどあるし、今求められているモノや主な客層を、昔より絞りにくくなりました。脚本を書くのも演じるのも、時代に合わせていくのって、すごく難しいです。
天笑:でも、(藤山)寛美先生(注:松竹新喜劇に所属し「昭和の喜劇王」と呼ばれた名優)は、時事ネタを上手く入れたりして、その時代に合った新しいお芝居を、ちゃんとなさっていたイメージがあります。そんな喜劇をやりたいな・・・と思うので、やっぱり天外さんに、死ぬまでにもう1本書いてほしい(笑)。
天外:今はスマートフォンが主流ですけど、古き良きと言われる時代は、電話なんて長屋に1個あるかないかで。電話が鳴るたびに、みんながそこに走って「◎◎呼んでもらえまっか? 電話かかってるで〜」「ああ、行きます行きます。ちょっとすんまへん」とか言って、舞台からハケることができる。あの昭和の30年代前後の匂いがプンプンしている芝居が、僕は大好きなんですよね。人と人のつながりが強かった、昭和の日本の話とか、ええかなあと思うけど・・・今やったら、みんな力が付いてるので、力技でねじ込むことができるかもね。まあ、考えときます。
天笑:あ、わかっていただけました。これ、記事に書いておいてください(一同笑)。
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