「修復師スゴすぎ…」粉々から蘇った壺、その裏側を訊いた

2021.12.16 08:45

「大阪市立東洋陶磁美術館」に所蔵されている、破損から蘇った『白磁壺』

(写真9枚)

SNSを中心に話題となった、「大阪市立東洋陶磁美術館」(大阪市北区)の所蔵品『白磁壺』。一見、何もおかしいところがない壺だが、解説にある「粉々になった白磁壺片」という文言で驚く。実は、バラバラになるまで大破した過去があるのだ。

とてもそうは見えない壺の現在の姿に、SNSでは「超難易度のジグソーパズル」「復元した人は超能力者かUMAなのでは」「修復師凄すぎるな・・・」と、驚きの声が続々と上がっている。そこで、この『白磁壺』の解説文を手掛けた同館学芸員の鄭 銀珍さんに、大壺にまつわる秘話を訊いた。

■ 泥棒が石畳に叩きつけ、破損してしまった壺

──話題となっている『白磁壺』ですが、どのような経緯で「東洋陶磁美術館」の所蔵品となったのでしょうか。

こちらは文豪・志賀直哉が交流のあった上司海雲師に贈って以来、奈良県の東大寺塔頭観音院に飾られていた壺です。しかし、寺に忍び入った泥棒が壺を石畳にたたきつけ、破損。当館に寄贈されたものの、あまりの壊れ方なのでどこに修復を依頼しようか悩んでいたところ、とある方を紹介していただきました。それから7カ月ほどかけて修復し、1995年より当館で常設展示をしています。

修復前の状態はパネルで確認できる。粉々だ…

──当時の写真を見ると、想像以上に粉々になっていてびっくりしました。その状態から7カ月ほどで修復するには、やはり高度な技術が必要ですよね。

そうですね、このレベルの修復技術は類を見ないかと思います。修復期間は作品の状態や性質によって異なるので一概に短い・長いか判断できませんが、当初の状態から考えると、ほかの修復師ならもっと時間がかかったかもしれません。もしくは、期間は短くても出来上がりが今より悪かった可能性もあるでしょう。

──そうですよね。

実物を見ると分かりますが、表面に薄く白い線が入っており、これが修復の痕です。痕が分からないよう修復することもできたのですが、初代館長が「修復に至るまでの物語が分かるよう、よく見たら分かる程度にしてください」とお願いしたそうです。

──痕まで計算しつくされた修復なんですね! そこまでの技術を持った修復師さんは、どういった方なのでしょうか?

私は数回お会いしたことがありますが、本当の意味で「職人」な方でした。壺が修復され展示をすると、大変話題になり取材希望があったものの、毎回断っていたそうです。私が理由を聞いたところ、「自分は裏方の人間。前に出てしまうと、作品が持つ神秘性が損なわれる」という答えが返ってきました。

その話を聞いて、高度な修復技術はもちろんのこと、作品に対する愛情や「必ず元の姿に蘇らせたい」という信念や情熱があったからこそ、今の姿に奇跡的に蘇ったのだと強く感動したのを覚えています。

来館者のため設けられた手すり

■ 回転台で360度、隅々まで!? 世界でも珍しい展示法

──そんなドラマティックな背景を知ったうえで大壺を見ると、より楽しみが増しますね。また、SNSでは東洋陶磁美術館さんの設備や展示方法を称賛している方も見かけました。

当館は普通の美術館と異なり、所蔵品が揃っている状態から建物を作っていったので、建物の造りや展示方法にはこだわりがあります。たとえば、展示品の前には手すりを設置しています。これは、来館者には手すりにもたれつつゆっくりと壺や皿を眺めてほしいという思いがあります。

また、回転台が付いた展示ケースを3カ所設置しており、展示品を回転させることで360度の角度からご覧いただけるように工夫しています。さらに、回転台にもオリジナルの免震台を設置しているので、希少な作品を地震から守りつつ、作品を隅々まで鑑賞できる世界でも珍しい展示方法となっています。

──じっくり展示品を鑑賞したい人にとってはたまらない造りですね。ほかにも、こだわりの施設はありますか?

今、世界では自然光のもと作品を鑑賞するのがひとつの潮流となりつつありますが、当館では、約40年前の開館当時より世界初となる天窓から自然光をとりこんだ「自然採光展示室」を備えています。

陶磁器の場合、自然光の下に置いて鑑賞することで、釉色・釉調の絶妙な違いを味わうことができます。特に、青磁はもっとも釉色が繊細なものとして知られていて、「秋の晴れた日の午前10時ごろ、北向きの部屋で障子1枚へだてたほどの日の光で」という青磁を見るための心得が残っているほど。当館自慢の国宝『飛青磁花生』や『油滴天目茶碗』の美しさを、自然光のもと体験してみてください。

鄭さんおすすめの『青花虎鵲文壺』

──最後に、東洋陶磁美術館さんに興味を持った人におすすめな展示品を教えてください!

見てほしい展示品はたくさんありますが、現在展示中の朝鮮時代18世紀に作られた『青花虎鵲文壺』は、寅年を迎える来年にぴったりな壺です。実は、虎は朝鮮半島において縁起の良い動物のひとつなんです。猫に間違われるくらいユーモラスでかわいい虎の模様は見ていると笑顔になれるはず。 バラバラに割れても奇跡的に蘇った白磁の大壺、そして縁起の良い虎が描かれた壺を見てぜひ良い新年を迎えてください。

「大阪市立東洋陶磁美術館」の場所は、京阪中之島線「なにわ橋駅」1号出口すぐ。入館料は一般1400円、高校生・大学生700円。時間は朝9時半〜夕方5時まで(入館は夕方4時半まで)。

取材・文・写真/つちだ四郎

「大阪市立東洋陶磁美術館」

住所:大阪市北区中之島1-1-2
時間:9:30~17:00 ※入館は16:30まで 
料金:一般1400円、大高生700円 ※中学生以下無料
電話:06-6223-0055

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