「伝えたい。でも、言葉はない」ダンサー田中泯が踊り続ける理由

2022.1.27 21:30

俳優としても活躍する、世界的ダンサー・田中泯

(写真6枚)

「僕はそれを『踊り』と特定したい」(田中泯)

──今、伺っても心躍ります。田中さんご自身も、できあがった映画を観て、踊りの映画になった自負みたいなものはありますか?

それはありますよ。僕は「わたしは踊りです」っていう気持ちで生きています。踊りを踊っている人間というよりは、わたしが踊りなんだと、踊りとして生きていきたいという思いがずっとあるんです。それを実現させるためにも、自分が思っている踊りというものを少しでも多くの人に理解してもらうことはとても大事なことだと思っています。

──その意味で、この映画には意義があると?

この作品に限らず、僕が映画に出演し続けてきたことのなかに、その思いはうっすらと在ったのかもしれないです。今の若い人たちに「僕はダンサーです」なんて言っても、その人たちの知っている範囲のなかに閉じ込められてしまう。だから、その人たちが僕の踊りを観て「えっ、動いてねえじゃん」とか、「なに、これ踊り!?」っていうことになればしめたものなんです(笑)。

映画『名付けようのない踊り』の一場面 (C)2021「名付けようのない踊り」製作委員会

──踊りというものに対して新たな発見をする、改めて向き合うということですものね。

人間はその歴史の始まりから踊りを必要としていたと思うんです。なにかを誰かに伝えたいとき、言葉を持たない人間になにが出来たか。今なにが起っているとか、お前が好きなんだってことを伝えたい。でも、言葉はない。すると鳥のように、あるいは獣のようにやらざるを得ないじゃないですか。

──そうですね。

それは名付けようのない行為ですが、僕はそれを「踊り」と特定したい。やがて人間が言葉を得ると、踊りは今度はおもしろい方に行ったり、宗教が絡むシャーマニックなものになっていったんです。踊りは今でも身体しか使えない。でも、どんなハンデを持っていても、人は動かせるところを動かして踊れるんです。

──そういう思いを、この映画は伝えてくれると。

そう思います。また犬童監督はこれを自主映画として作ってくれたわけです。それもすごいことですよね。踊りを使って自主映画を撮るなんて。

俳優としても活躍する、世界的ダンサー・田中泯

──それも、おふたりの踊りを通した交流があったからこそですね。そのきっかけとなったのが『メゾン・ド・ヒミコ』で、田中さんはゲイの男性たちのための老人ホームをつくった、ゲイのマダムの役でした。

山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』(2002年)で初めて映画に出た後、ほかにもいくつかオファーをもらったんですが、どれもが『たそがれ清兵衛』と同じような存在感を求める企画で好奇心が動かず断っていたんです。そこに届いたのが犬童さんの『メゾン・ド・ヒミコ』の台本でした。読んでまず思ったのが「俺にこれをやってくれって言う人がいるんだ」ってことでした(笑)。

──『たそがれ清兵衛』の延長ではなかったわけですね。

そう。でも、読んで分からない役じゃないし、こういう人たちを嫌悪したこともないし。現実に踊りの世界には多いですし。ただ、それを演技できるかというのが大問題で(笑)。それで興味はありますって、返事をしたんです。そうしたら犬童監督が、僕の住む山梨県の村にすぐやって来て。何時間か話をして。僕がこの役を引き受けないと映画は作らないと、脅しのようなことまで言われて、もうやるしかないと(笑)。キャラクターの口調などは、自分の母親のものを模してやりました。

映画『名付けようのない踊り』

2022年1月28日(金)公開
監督:犬童一心
出演:田中泯
配給:ハピネットファントム・スタジオ

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