俳優・村上淳「あれから10年、その景色はメインストリームへ」

2022.2.4 20:45

映画『夕方のおともだち』で主演を務める村上淳(写真/Chisako)

(写真12枚)

2022年に芸能生活30周年を迎えた、俳優・村上淳。メジャー、インディーズ問わず多数の映画に携わってきた村上が「特別な意識があった」と語ったのが、山本直樹原作のコミックスを映画化した主演作『夕方のおともだち』だ。

メガホンをとった廣木隆一監督とは1990年代から数々の現場をともにしてきたが、廣木映画の主演は意外にもこれが初めて。本当の快楽を求めてSMプレイに没頭する主人公・ヨシダヨシオを、哀愁と滑稽さを交えて演じている。今回はそんな村上に同作の話はもちろんのこと、これまでの俳優活動についても話を訊いた。

取材・文/田辺ユウキ 写真/Chisako

「映画は音から入ってくる情報が大きい」

──村上さんは、『不貞の季節』(2000年)など廣木監督作品には10本以上出演していらっしゃいます。廣木作品の良さはどういうところにあると思いますか。

廣木さんのことは30代の頃から知っていますが、一貫した格好良さが作品にあるんですよね。それはキラキラ系映画だろうが、今回のような映画だろうが、まったく変わらない。撮影も、廣木組は緩いテイクがひとつもない。どの映画の、どのシーンでも、シャープな空気が漂っている。そんな廣木作品で初めて座長をつとめさせてもらって、やっぱり特別な意識がありましたね。

──しかも今回は、珍しく痛めつけられる役でしたね。

昨今、村上淳という俳優は人を殴るような役が多かったから、そのツケが回ってきたんじゃないですか(笑)。映画の神様から「コラッ、たまには痛みを知りなさい」と。特に、職場の同僚女性が自宅にやって来て、ヨシオが彼女に、ベルトで身体を打つよう指示する長回しの場面。あそこは心身ともに逃げられなかった。

相手役の鮎川桃果さんには、「背中をベルトで叩くとき、一発、良いものが入らないと僕は次の台詞にはいかないよ」と伝えていたんです。それを聞いて彼女は戸惑っていた様子でしたけど、何てことはない。本番では堂々と叩いてきて、痛いの何のって。芝居的にOKだったかどうかも分からないくらい痛かった。

──あれはかなり印象的な場面でした。

これは鮎川さんは無意識だったと思うんですけど、僕が「もっと叩いて」と言ったとき、彼女は手に巻いていたベルトを2回巻き直すんです。あれは鮎川さんがやったこと。演出だとわざとらしくなるはず。鮎川さんがちゃんと役を自分のものにした上で、人間としてごく自然な仕草があらわれた。そうやって役者にいろいろ考えさせて、そこまでさせるのが廣木マジック。あと、その場面を含めて(この映画は)音が良いんですよ。

──確かに冒頭の波の音、SMの音、セックスシーンなど、音が豊かでした。

僕はいろんな俳優さんに伝えたいことがあって、それは「もっと録音部と仲良くなってほしい」ということなんです。もっと、現場の音を聞かせてもらうべき。映画は音から入ってくる情報がすごく大きい。現場でも、モニターに映る映像以上に音から得られる情報量の方が多いと僕は考えています。

──村上さんが主演を務めた三宅唱監督の『Playback』(2012年)はその良い例ですね。

それこそ三宅くんは、東京の映画館「ユーロスペース」の音響セッティングの素晴らしさをよく知っているはずだから。あの劇場で上映されたアッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』(2012年)で、録音・菊池信之さんが手がけた音のトリップ感も体験している。三宅くんはインディーズのときから音にこだわっていましたよね。インディーズ映画の弱さのひとつは、予算の少なさから録音部にまでなかなか手が回らないこと。「画や脚本は良いけど、音がね」ということが結構あるんです。

映画『夕方のおともだち』で主演を務める村上淳(写真/Chisako)

映画『夕方のおともだち』

2022年2月4日(金)公開
監督:廣木隆一
出演:村上淳、菜葉菜、田口トモロヲ、AZUMI、烏丸せつこ
配給:彩プロ
R18+
© 2021「夕方のおともだち」製作委員会

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