廣木隆一監督が描く、SとMの世界「人間の欲望であり熱情」

2022.2.5 10:00

ピンク映画出身で、近年は「胸キュン映画3巨匠」とも称される廣木隆一監督

(写真7枚)

「それでも生きていくしかないんだよ」(廣木監督)

──虚構を虚構のままにしておかない。それはある種のロマンの喪失ではないですか?

失われるかもしれません。ただ、そうすることによって生まれる新たなロマンがあるかもしれません。

──そうか、この作品が目指しているのはそこなんですね。だから、村上淳さんが演じているマゾヒストの主人公もユニークなんですね。

大人になってから自身の性癖に気づいて、初めのうちは陶酔できていたものが、最近は少しずつ陶酔感が薄れてきつつあるというね。

──「マゾから醒める」という表現が使われていて、なんだか夢中で遊んでいた子どもが大人になって、いつまでもそうしていられなくなる切なさを感じました。

甘美な夢に浸っていられなくなるわけですから、切ないですよね。ムラジュンがこれを淡々と的確に演じてくれました。

──体を痛めつけられて歓ぶハードマゾではあるのだけれど、クラブでもらった化膿止めの薬もきちんと飲んでいるんですよね(笑)。

それもジップロックの袋に入れてきちんと管理している。真面目で几帳面な人なんです。

筋金入りのM男(村上淳)と同僚の女性(鮎川桃果)© 2021「夕方のおともだち」製作委員会

──村上さんは、これまで廣木作品に10本以上出演されていますが、この『夕方のおともだち』が意外にも初主演なんですね。

彼が今回の主人公の年齢になってくれていた、ということですね。彼の実力も気心も知れているから、これまでも彼に合う役さえあれば頼んでいたでしょうしね。ただ、この主人公も役者としてはイメージに傷をつけるかもしれないリスキーな役ですから、彼もよく受けてくれたと思います。

──監督が撮られた『不貞の季節』(原作:団鬼六、2000年作品)を思い出しました。あのときの村上さんは、SM小説家の妻を縛って密通する青年編集者の役でした。

大家の小説家役が大杉漣さんでね。ムラジュンは、大杉さんのお芝居に感銘を受けていたからね。あのとき縛っていた男が今回は縛られるという、20年以上前の作品がここにきて結びつくというのは面白いですよね。

──キャスティングで言うと、今回、脇がすごく贅沢な布陣ですよね。

田口トモロヲさんとか宮崎吐夢さんとかね。2人とも市長選の立候補者なんだけど、吐夢さんなんか笑って手を振っているだけという。ちょっと悪かったかな(笑)。

──伝説の女王様役・Azumiさんも、短い出演シーンながら存在感がありました。

彼女は2人組の音楽グループ・wyolica(ワイヨリカ)のボーカルで、ミュージシャンなんです。彼女たちの曲を僕の『東京ゴミ女』(2000年)の主題歌にさせてもらったりして、以前から知っていたんですが、彼女の目ヂカラが今回の役にいいなと思って出てもらいました。

主人公・ヨシダヨシオは村上淳、その母親役は烏丸せつこ © 2021「夕方のおともだち」製作委員会

──迫力ありました。でも、今回の脇役で実は一番すごかったのは、村上さんの寝たきりのお母さんを演じている烏丸せつこさんでした。主人公の性癖にも大きく関わっていて。

主人公をさまざまな意味で一番縛っているのは、この母親かもしれないというね(笑)。映画のラストでも、主役の2人は同じ車に乗って走り去るのだけれど、この母親がいるために本当に街を出ることが出来るのか、わからない。結局、人は誰もがそれぞれの痛みや思いを抱いたまま、それでも生きていくしかないんだよ。

映画『夕方のおともだち』

2022年2月4日(金)公開
監督:廣木隆一
出演:村上淳、菜葉菜、田口トモロヲ、AZUMI、烏丸せつこ
配給:彩プロ R18+

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