激情型からの脱却、ヒグチアイ「自分にも、音楽にも酔ってた」
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シンガーソングライター・ヒグチアイ、大阪・中津にて
2歳から習っていた鍵盤を自在に操り、内に秘めたる焦燥と混沌をドラマティックに綴った楽曲で注目を集めるシンガーソングライター・ヒグチアイ。その楽曲群はさながら、歌い手が激情する姿をつぶさに撮ったドキュメンタリー映画のようであった。
しかし、テレビアニメ『進撃の巨人』のエンディング曲となった『悪魔の子』が、世界109カ国で1位を獲得(Apple Music J−Popランキング)。世界的に拡散し、YouTubeでの再生回数は1000万回を軽く突破した。そんな彼女が4枚目のアルバム『最悪最愛』を3月3日にリリース、ここでまた大きな飛躍を遂げようとしている。
取材・文/Lmaga.jp編集部 写真/Ayami
「もっと『歌』として好かれたい」(ヒグチアイ)
──2014年にインディーズで、アルバム『三十万人』を発表。2016年にアルバム『百六十度』でメジャーデビューしますが、激情と虚無のはざまで揺れる独特の詞世界は当時から話題で。ただ、もっと私小説的なシンガーソングライターだと思っていました。
うんうん、そうですね。
──今回のニューアルバム『最悪最愛』を聴かせてもらって、ストーリーテラーとしての力強さを感じまして。鋭い洞察力はそのままに、言葉に対する審美眼に磨きが掛かったというか。
あぁ。そう言っていただいて、自分でも「たしかに」って思うことが多いです、今回のアルバムは。2021年は、舞台出演や歌詞提供とか今までにないことをやったんですけど、自分以外の存在を感じることがすごく多くて。舞台だと、誰かが作ったセリフは自分じゃないというか、歌詞にしてもほかの人の声だとこの言葉では伝わりにくいなと思ったり。今言われて、「言葉の使い方が変わったかも」っていうのはありますね。
──ヒグチアイというひとりの女性に焦点を当てたドキュメントタッチの過去作は、同じような経験をしたファンにはズブズブ刺さるわけですが、今作ではそうでない聴き手にもしっかり届く奥深さがあって。
そうですね。自分が歌えばいいだけじゃなくて、誰が歌っても伝わるものに、という気がしますね。ヒグチアイだけじゃない、誰かの歌にもなったらいいなと。
──その思いは昔からあったものですか?
ありましたけど・・・現実的じゃないと思ってましたね。これまで私の楽曲って、誰かがカバーするっていうのは難しかったんだろうなぁと(笑)。それが2021年にハッキリしました。結局、私が歌わなきゃ伝わらない楽曲だと限界があるって。
──これまでは、ヒグチさんの楽曲ってヒグチさんが歌わないと意味がないイメージでしたが、今回のアルバムは、ほかの誰が歌っても成立するし、それだけじゃなく、その人なりの違った歌になるみたいな。そういう楽曲自体の強度を感じました。
すっごくうれしいです。
──タイアップ曲もそうですが、舞台や歌詞提供って、第三者の必然的な介入があるじゃないですか。独りよがりじゃ当然いけない。でも、そのなかにも「自分らしさ」を残すために、あらゆる角度から物事を見るというか。
そうですね。原作者や歌い手が正解をもっているものに対して、自分が曲を書いていく場合、自分も違う角度の一部ではあるけれど、その一部が絶対に正しいわけじゃなく、かといって間違いでもない。いろんな角度で見る人がいることを理解できるようになったのは、タイアップの楽曲制作で勉強したことだと思います。
──今までだと、楽曲に対して「その感情、行動は違うよね」という意見があったとしても・・・。
私が正解だし、みたいな。違うと言われても・・・知りませんって(笑)。昔はもっと「私のことを分かって!」が強かったんですけど、歌詞じゃないところでワクワクしてくれる人も増えたらいいなって。もっと「歌」として好かれたいというか。
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──もちろん、これまでの詞世界も素晴らしいんですよ。心の機微に対する表現やシチュエーションの描写、それに則ったピアノを軸にしたアレンジ、そして、歌というのはヒグチアイの真骨頂だったわけですが、もっと普遍的なところで勝負するようになった。結果、我が強いアルバムではなく、聴き手にそっと寄り添うような趣の楽曲群に。
やさしいアルバムですよね。うんうん、分かります。それはすっごくうれしい。
──その変化が、今日いちばん訊きたかったところで。
言われて気づきましたけどね(笑)。私、音楽活動の合間に雑誌を作っているんですけど、普通に働いてて、普通に子どもがいる人にインタビューしてるんですね。もう、そのみんなの話に興味津々で。みんな、それぞれの人生が面白いんですよ。
ヒグチアイ
アルバム『最悪最愛』
2022年3月2日発売
PCCA-06117(通常盤)/3,300円
※短編小説「最悪最愛」収録
バンドツアー『HIGUCHIAI band one-man live 2022 [ 最悪最愛 ] 』
2022年3月27日・18:00〜
umeda TRAD(大阪市北区堂山町16-3)
5,500円(1ドリンク別途要)
ソロツアー『HIGUCHIAI solo tour 2022 [ 最悪最愛 ] 』
2022年4月23日・18:00〜
海辺のポルカ(神戸市中央区東川崎町1-5-5)
4,000円(自由席)
2022年5月6日・19:00〜
磔磔(京都市下京区富小路仏光寺下ガル)
4,000円(自由席)
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