評論家鼎談、2021年・下半期「ベスト外国語映画」はこれだ!
Lmaga.jpの恒例企画となった、評論家3人による映画鼎談。数々のメディアで活躍し、本サイトの映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキの3人が、「ホントにおもしろかった映画はどれ?」をテーマに好き勝手に放言。2021年・下半期公開の外国語映画編です。
「サブカルおじさんを叩きのめしていく感じ」(田辺)
春岡「外国語映画だったら、やっぱりアレクサンダー・ロックウェル監督の『スウィート・シング』が良かったな」
田辺「あれはスゴかったです。酒に溺れる父親、家を出てしまう母親。子どもたちがあんな酷い目に遭ってるけど、全然ネガティブには映ってなくて。あれは決して逃避行ではなく、子どもたちなりの独立だと僕は考えてます」
春岡「まさにインディペンデントの香り、傑作だよ」
斉藤「途中、カール・オルフの音楽が流れるやん?『地獄の逃避行』(テレンス・マリック監督、1973年作品)で使われたやつ。ああ、この映画でも子どもたちが逃げるところで流すんだなって。引用に照れが無いよね」
春岡「モノクロでパートカラー、まさにマリックなんだよね。あの音楽だからさ」
田辺「そのカラーになったとき、主人公ビリーの名前の由来であるビリー・ホリデイが現れるという・・・」
斉藤「ほんま、あのシーンはシビれるよね」
田辺「キレイごとなんですけど、最後お父さんが変わってくれるっていうね。あれで物語の起伏も生まれるし」
斉藤「父親役のウィル・パットンも良かった。彼が出てるデヴィッド・ゴードン・グリーン監督のスラッシャー映画『ハロウィン KILLS』も最高やで」
田辺「評判いいみたいですね」
斉藤「すでに3作品をやるのは決まってて、映画史を変えたジョージ・A・ロメロの『ゾンビ3部作』を明らかに目指してる。だって2作目の『ドーンオブ・ザ・デッド(邦題『ゾンビ』)』とそっくりのカット割りとかあるから」
田辺「これはすぐ動画サービスでも配信されそうな気がしますね。僕が気になったのは、Netflixの『ドント・ルック・アップ』ですね」
春岡「たしかに、すこぶる楽しい映画だった」
斉藤「アダム・マッケイ監督はプロデューサーとしては辣腕だったけど、これまでの監督作品がイマイチでさ。『バイス』(2019年)とか、民主党寄りの政治的風刺があまりにもあからさまで芸がなくって。でも、ついに監督としても開花したって感じ」
田辺「『俺たち』シリーズもおもしろいものはあるんですけど、ムラがありましたからね」
春岡「メリル・ストリープが演じたアメリカ大統領が最高だったな。彼女にトランプを演じさせるって(笑)」
田辺「僕、あそこがすごく好きなんですよ。大統領が『隕石が地球に衝突する確率は何%?』と尋ねて、『99.・・・%』と返されたときに『じゃぁ、70%でいきましょう』と。『それで良いんですか?』って感じでね。危機感が全然ない(笑)」
斉藤「ある種、『シン・ゴジラ』的なさ。シュミレーションも含めて。やっぱり、ディザスターものとか世界の終わり系はここまでふざけないと」
田辺「『衝突する、危ない』と騒ぎ立てても、誰も慌てない。じゃあ別の方法を考えるしかない。たとえば泥棒に遭ったとき、『泥棒!』と叫んでも誰も動かないから『火事だ!』って言え、みたいな」
春岡「巨大彗星が地球に向かってるのに、大統領が『ドント・ルック・アップ(見上げないでください!)』と、迫り来る危機に向き合わない。痛烈な皮肉だよ」
田辺「映画センスがいいですよね。あと、春岡さんと『良いよね』と言ってた、エメラルド・フェネル監督の『プロミシング・ヤング・ウーマン』」
春岡「ああ、ちょっと予定調和みたいなところはあるんだけど面白かったよな」
斉藤「どの媒体ランキングでも僕が1位に推してるのが、エドガー・ライト監督の『ラストナイト・イン・ソーホー』。『ベイビー・ドライバー』(2017年)の次がこれとは!」
春岡「ロンドンのソーホーを舞台にしつつ、現代と60年代がシンクロしていくという。当然、音楽もファッションもカルチャーも交錯していく。さすがエドガー・ライトだよ。最初は試写室で観たんだけど、音響の整った映画館で再度観たら、俄然そっちの方が良かった」
田辺「まずカメラワークがメチャクチャ素晴らしいですよね。特にオープニング」
春岡「あの踊ってるところだろ、オードリー・ヘップバーンみたいに」
斉藤「あそこでクレジットが出るたびに、『え! リタ・トゥシンハム? え! テレンス・スタンプ?』みたいな。ダイアナ・リグにしても、『おしゃれ(秘)探偵』『女王陛下の007』やし。完全に確信犯」
春岡「テレンス・スタンプ、いくつになってもカッコいいよなぁ」
斉藤「明らかにケン・ローチ作品のテレンス・スタンプをイメージしてるよね。『夜空に星があるように』(1967年)のさ。とにかく豆知識だらけなのよ」
田辺「頭でっかちで前時代的なサブカルおじさんを全員叩きのめしていく感じがおもしろかった。この映画を『良い』と言ってる人、実はみんなそっち側でしょうと(笑)」
斉藤「その通り。まぁ、エドガー・ライト自身が一番そうなんやけど(笑)。自虐っちゃ自虐」
春岡「これが結構あからさまなんだよな(笑)」
斉藤「それを観て僕らが『あの映画だ! あのシーンだ!』って喜ぶわけだけど、それこそ監督の思うツボという」
春岡「ここまでやりきってくれると面白いもん」
斉藤「主人公の彼氏が黒人なのも、リタ・トゥシンハム主演の『蜜の味』(1961年)でしょ。もうコロコロ転がされまくり(笑)。映画知識があればあるほど楽しめることは間違いない」
田辺「で、観る人全員を最後に叩きのめすっていう(笑)。後半のシーンは描写的にも叩きのめしてるし」
春岡「これは絶対、トップ3に入れとくべき」
田辺「でも、僕が推したいのは、マーベルの『エターナルズ』。メチャクチャ好きですね」
斉藤「僕はもうひとつピンとこなかった」
田辺「あれだけいろんな背景と個性を持ったキャラクターが一堂に出てきて、自分たちが持つ特徴を生かしている。それが『なんて楽しくて素敵な映画なんだ!』って」
斉藤「いきなり何の前振りもなく超常者が出てくるし、自然描写は自身が監督した『ノマドランド』(2021年)と一緒やんか。なんか変な映画なんよ」
春岡「俺は面白かったけどね」
斉藤「いや、面白いよ。こんなアホな映画ができるのマーベルしかないよ。実はどこまでも作家主義だという」
田辺「クロエ・ジャオ監督がほんとに素晴らしい。マーベルでこんなことやるのは、あの人しかいないですよね」
斉藤「マーベルがクロエに頼むってことは、『好きにやっちゃってください』ってことやろ?」
田辺「そうそう。『この世界観を映画にしてください』じゃないですよね。最後に三つ巴くらいで争ってたけど、こいつら何のために争ってるのか分からなくなる(笑)」
斉藤「全然分からん(笑)。嫌いじゃないよ。ただ、出来としては崩壊してるかな」
田辺「2時間半、登場キャラクター全員が楽しませてくれるんです。で、いろんな人が出てて楽しいっていえば、ディズニーの『ミラベルと魔法だらけの家』もそうで」
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