評論家鼎談、2021年・下半期「ベスト外国語映画」はこれだ!
「ここ数年でベストと言っても過言じゃない」(斎藤)
斉藤「トマス・ヴィンターベア監督の『アナザーラウンド』はどうだった? マッツ・ミケルセンが主演の酒飲み映画。人間は常に血中アルコール濃度を0.05%に保つと、仕事もプライベートもうまくいくという仮説を証明する教師の話。今年最高の1本」
春岡「そういうのマッツ・ミケルセンが演るってのが良いよな」
斉藤「まだいける、まだいけるってなって、結局いつも酔っ払い状態になる(笑)。まぁ、そうなるよな。馬鹿でも分かるよ、そんなの」
春岡「予想通り(笑)」
斉藤「でも、破滅で終わらない、すごく幸福なエンディングで。トマス・ヴィンターベア監督って、これまで殺伐とした映画が多かったけど、今回はちょっと違う」
春岡「これは面白そう」
斉藤「間違いなく面白い。そして、あれも最高だった。ジェームズ・ガン監督の『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』。リブートって言うよりも続編だけど」
田辺「あれ、僕見逃しちゃったんですよ。ジェームズ・ガン好きなのに(苦笑)」
春岡「宇宙人がさ、大映のSF特撮映画『宇宙人東京に現わる』なんだよ」
斉藤「あれ、そのままだよね。絶対に意図的にやってる」
春岡「俺、映画会社に聞いたもん。権利関係大丈夫か?って。『太陽の塔』だもん、びっくりした」
斉藤「もう死にそうに笑える。ジェームズ・ガン好きやったら、もう狂喜よ。やっぱりこいつは天才だ!って」
春岡「それでいて、面白いというのがスゴいんだ」
斉藤「あと、アジア系で挙げるなら『少年の君』。『大阪アジアン映画祭』で上映された作品だけど、デレク・ツァン監督が最強。『少年の君』は、ここ数年でベストと言っても過言じゃない」
田辺「デレク・ツァン監督って、『ソウルメイト/七月と安生』もそうですよね?」
斉藤「そう、2017年の『大阪アジアン映画祭』でも上映されたんだけど、とにかく主役のチョウ・ドンユィがかわいくて。これもネット小説が原作なんやけど」
春岡「岩井俊二的な世界観?」
斉藤「まさに。もうデレク・ツァン監督は、岩井俊二監督が大好きだから。香港の名優エリック・ツァンの息子ですよ」
春岡「あ、そうなの? エリック・ツァンの息子なんだ」
斉藤「僕が初めて会ったのは、2011年。『大阪アジアン映画祭』で審査員をしたとき、初監督作品の『恋人のディスクール』をグランプリに推したんですよ。当時30歳くらいだったかな」
春岡「今42歳なら、岩井俊二世代だな」
斉藤「今の若い監督で、岩井俊二の影響を受けてないのは皆無じゃない? それにキャメラが篠田昇(註)さんっぽい」
※篠田昇:「映画番長」の愛称で親しまれた名カメラマン。『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)が遺作となった。
春岡「(YouTubeで予告をチェックしながら)室内のキャメラが広いねぇ。奥行きがあるように撮ってる。画がいいなぁ」
斉藤「『ソウルメイト』もすごいけど、『少年の君』ともなると、まさに無敵な感じがするなあ」
春岡「さっきの『ソウルメイト』より、『少年の君』はカメラ狭くして主人公2人の世界観で撮ってるね。2人乗りバイクの横移動を入れて疾走感を作ってる」
斉藤「そう、そこで一気に青春映画になる。女の子の家は貧しいんだけど、メチャクチャ頭が良いんですよ。中国は学歴社会だから、北京の大学に行けば人生掴めるという。そんな彼女に惚れるのが不良少年。まさに日活映画の『泥だらけの純情』(1977年)」
春岡「吉永小百合と浜田光夫だな(1963年版の主演キャスト、1977年版は山口百恵と三浦友和が主演)だな」
斎藤「この映画、途中でバーンってぶち切られて、いっぺん終わったみたいになるのよ。そこに刑事が出てきて取り調べのシーンになるんだけど、そこから大純愛映画になだれこんでいく。三角関係がくっきり浮かび上がり、さらに中国の社会問題がどんどん絡んでくる」
田辺「チョウ・ドンユィって、童顔ですけど、30歳くらいですよね?」
斉藤「なんだけど、ベビーフェイスだから10代にしか見えない。シネフィルにはすごい人気がありますよ。彼女は今や、デレク・ツァン映画の大ヒロイン」
春岡「伊東蒼ちゃんの不幸顔と同じ。これが男と知り合って、バイクで疾走とかされた日には、そりゃグッとくるよ(笑)」
斉藤「金がない天才とチンピラ、そこに校内のカーストが関わってくるという(笑)。あと、おそろしくパワフルで狂騒的な台湾のゾンビ・コメディがスゴいねん。大阪アジアン映画祭で『逃出立法院』として上映された『ゾンビ・プレジデント』。台湾のホラー系なら『返校 言葉が消えた日』は観た?」
田辺「Netflixでもドラマやってましたよね」
斉藤「白色テロ時代(註)をテーマにした大ヒットゲームを映画化した作品らしいんだけど、とてもゲームがネタとは思えぬ素晴らしさ」
(註:政治活動や言論の自由が厳しく制限され、市民の投獄・処刑が横行した台湾の政治的弾圧)
田辺「普段、ホラー映画が全然大丈夫な人ですら、この作品は本気で怖いって言ってますよね」
斉藤「怖さの質が違うのよ。ホラー的な演出もあるんだけど、そこに拘ってない。台湾のジョン・スー監督、まだ若いし、これが初監督作というのも驚き」
春岡「台湾の巨匠、ホウ・シャオシェン監督あたりを思い出すよね。あと、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』とか」
斉藤「時代背景が共通してるしね。もろに影響受けてる。まさにホウ・シャオシェン・チルドレンですよ」
春岡「まさに『悲情城市』(1990年)の世界だよな。(公式サイトをチェックして)なんだ、そう書いてあるじゃんか」
田辺「めちゃくちゃ評判も良かったんですけど、上映がすぐ終わっちゃたんですよねぇ」
斉藤「そうやねん、こういう作品をミニシアターでやったらええのに」
春岡「まだ動画配信サービスとかでは観られないの?」
斉藤「まだですね、もうくるとは思うけど」
田辺「じゃあ、そろそろ外国語映画トップ3を決めますか。僕はもう『エターナルズ』が1位で、続いて、『ドント・ルック・アップ』、『ハンズ・オブ・ザ・ゴッド』という感じですね」
斉藤「俺は、『少年の君』、『DUNE/デューン 砂の惑星』、『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』の3本だな」
春岡「それじゃ、俺は『スウィート・シング』を1位にしよう。あとは・・・音楽関係の作品も良かったんだよなぁ」
斉藤「たしかに。前半にトーキングヘッズの映画『アメリカン・ユートピア』があったし、その後、とんでもない『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』が公開されて。さらに、ドキュメンタリー映画『ジャズ・ロフト』と、音楽映画がスゴかったことは言っておきたい」
春岡「そうだよな。音楽映画は言ってもらったので、残り2本は『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』と『プロミシング・ヤング・ウーマン』にしよう」
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