芸歴10年目ZAZY、「R-1」ラストイヤーネタへの思い
創立110周年を迎える「吉本興業」のピン芸人史にその名を刻もうとしている、芸歴10年目のZAZY。ひとり芸日本一決定戦『R-1グランプリ2022』(カンテレ)では2年連続準優勝に輝くなど、その存在感は年々増すばかり。そこで今回は、これまでの歩みについて訊ねながら、「天才」と称されることへの心境などを語ってもらった。
取材・文/田辺ユウキ
■「未来が見えない生き方が、僕には合っている」
──ZAZYさんは、のちの人気芸人たちが多数在籍していたNSC33期生ですよね。
入学したときは、周りを見て「お笑い芸人になる人ってこんなにおもしろいのか」と感じましたし、逆に「みんな、もっとおもしろいと思っていた」という風にもなりました。自分は何があっても芸人になりたいわけではなかったし、ダメならフリーターになれば良いかって程度でしたから。それがネタ見せでは意外とウケて、クラス分けでもBクラスには入れたし。つまり、とりあえず上位30組程度のなかにはいたんです。
──大学を中退してNSCに入学したとのことですが、不安はありませんでしたか。
もともと学生生活に物足りなさがあったんです。あと、大学に通っていたら何となく将来が決まってくるものじゃないですか。そのときに、僕は未来が見えない方が好きなんやって気付いて。だったらお笑いが好きやし、芸人やってみようかなと。「来年、自分は何をしているんだろう?」みたいな方が刺激があって楽しいし、「月収100万か、0円か」の生き方が、僕には合っていますね。
──NSC33期の芸歴の芸人さんたちは、その後「第7世代」と呼ばれるようになります。ZAZYさんも同期なので「第7世代」なはずですけど、なぜかその括りには入っていませんよね。
そんなことないですよ、ZAZYは「第7世代」ですよ!(笑) でも確かに、テレビでその特集があっても声が掛からないんですよね。なんなんでしょう・・・でも、「第7世代」っぽさがない気が自分でもします。霜降り明星、ハナコらと芸歴は一緒なのに、ZAZYはフレッシュさに欠けるというか。みなさんのなかにも「なんか違う感」があるんじゃないですかね。
──そもそも集団行動やチームみたいなものが得意ではないとか?
グループって「人がこうやるから、自分も合わせる」という感じになりやすいですよね。「第7世代」も、示し合わせはなくても「世間的にこう言われているから、みんなでこういう風に動こう」みたいな共通意識がある気がします。でも、そういうのは僕は絶対にやらない。だから、コンビで活動ができないんです。ふたりの意見をすり合わせて真ん中に落ち着かせるとか、苦手。自分が考えていることがちょっとでもズレるのが嫌なんです。
■『R-1』で魅せた、ネタ内の「本人要素」のサジ加減
──2020年はお笑い芸人・トニーフランクさんと期間限定ユニット・スプリングシュリンプを結成して『M-1』に挑まれましたが、今年はそういう挑戦もなさそうですか。
ないと思います。ラストイヤーの『R-1』も終わって気持ちが楽にもなったところがあるんです。これまで、どのライブに出てもピン芸人の行き着く先は必ず『R-1』で、10年間、3分のおもしろいネタを2本作るために過ごし続けてきました。それがなくなったことで寂しさはあるけど、ようやく「やっとテレビや劇場などで、芸人として本来のお笑いがやれる」という感じなんです。お客さんに喜んでもらうことに力を注げますから。
──『R-1』が終わって次のステージへ移ることができたわけですね。
優勝した、お見送り芸人しんいちさんの芸歴問題に関してはまだ納得はいってないですけど(笑)、自分としてはそうですね。「ネタをこうしたら良かった」とか後悔もないし。自分のなかでおもしろいネタを2本、ちゃんと見せることができましたから。
──今年の『R-1』は、「ネタをやる本人の要素」があるかどうかがポイントになりましたよね。バカリズムさんはイラストネタのKento Fukayaさんに「本人以外の要素が大きかった」と指摘して、低い点数をつけた。その点でZAZYさんは、昨年までの紙芝居形式からデジタル形式に移行した際、そういう「本人の要素」が薄らぐことを事前に意識できていたんじゃないかと思うんです。
そう、まさにその通りです。
──そのあらわれが、ファーストステージのネタでモニターに自分の顔面を突然、どアップで映したところ。あれはデジタル形式のなかでの「本人の要素」だと感じました。
そこにちゃんと気づいてもらえたのは初めてかもしれません。紙芝居ではなく、パソコンをつないでモニターにイラストを映し出す方法に変えたとき、「僕じゃなくて良い感」がより出てしまうようになった。そうなると、パフォーマーではなくクリエイターになってしまうんです。つまり「おもしろい映像を作ってきました、どうぞ」って感じになる。あの『R-1』のファーストラウンドのネタは、僕がやれるギリギリの「本人の要素」でした。
──あれは衝撃を受けました。
実際、映像をもっとおもしろくしようと思えばできるんです。コマ送りじゃなくてアニメも作れるし、エフェクトをかければ映像の完成度もあがる。でも映像作品としておもしろくしすぎると、芸人じゃなくなる。おもしろ映像を持ってきた人になるので。それが僕のなかでのサジ加減としてあって、「これがギリギリ、芸人やな」って。ファイナルステージのラストに自分の幼少期の写真を持ってきたのも、まさにそういうことなんです。
■最終的には「Tシャツ×Gパン×坊主」かも?
──そうやって独特のネタを見せることで、ZAZYさんは「天才」と称されたりしますね。
「天才」と呼ばれることは実はそんなにうれしくはないんです。もちろんありがたいですけど、たまに「まあ、ZAZYは天才だから、これくらいできて当たり前」とそれが前提にくることが増えてきて、ちょっと抵抗があるんです。だってちゃんと努力もしているつもりだし。
──あれだけの映像のクオリティやテンポ、そしてネタのブラッシュアップは努力していないとできませんよ。
そうやって直接言われると恥ずかしいですね・・・(笑)。「そうなんですよ」と言いづらいというか。なので、「天才」と呼ばれる方がまだ楽かも。「ZAZYさんは頑張っていますよね」とか、ちょっと恥ずいですね。天才のままでいきます、天才で!
──でも、ZAZYさんはやっぱり可能性の塊じゃないかと。
「ZAZYってそんなことをするのか」と、意外性みたいなものは頭に置いて動きたいです。今、ぼんやりと出来てきている気がするんです。僕のネタはよく「ZAZYワールド」と言われますが、そう表現されるのは良いことだと捉えていて。今の「ZAZYワールド」をやり尽くしたいんです。そうしたら最終的に、TシャツにGパンで坊主になるかもしれない。金髪、ロン毛、ピンクでエンタテインメントを全部やると、行き着く先はそういうことなのかもしれません。
──ZAZYさんは、「(Z)ずっと(A)あなたと、(Z)ずっと(Y)吉本」という言葉が芸名の由来としているほど吉本愛にあふれていますが、110周年を迎えた吉本への想いを最後に聞かせてください。
常設の劇場をたくさん持っていて、今では当たり前のように思われているけど、それってめちゃくちゃすごいことなんですよ。ほかの事務所さんよりもお客さんを直に感じる機会が多いし、芸人としてありがたいこと。そうやって芸人がネタをできる舞台をこれからずっと作り続けてほしいです。
ZAZYも出演する、吉本興業の創業110周年を記念した特別公演『伝説の一日』まであと2日。4月2日・3日に「なんばグランド花月」(大阪市中央区)で1日4公演おこなわれるが、チケットはすべて完売しており、いずれもオンライン配信される。配信は各公演単券2400円、1日通し券9000円で発売中。
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