ヨシダナギが見た、ドラァグクイーンの「苦悩」と「やさしさ」
世界の少数民族を撮った色鮮やかな作品で知られる写真家・ヨシダナギ。今、彼女が新たにスポットを当てているのが、「ドラァグクイーン」だ。その撮影に至るまでの経緯や、ドラァグクイーンたちの知られざる一面について話を訊いた。
◇
■次に撮るのはこの人たちしかいなかった
──ドラァグクイーンといえば、個性的な衣裳とメイクで女装する方たち。その彼女らをヨシダさんの第2章のモデルにしたのはどういう経緯があったんですか?
少数民族のことをもっと知ってもらうために、ほかのものも撮らないといけない状況だったんです。いろんな被写体を提案されたんですが、どうしても自分が興味のあるものでないと心が動かなくて。そんなとき、少数民族と同じように立ち姿が美しいドラグクイーンが思い浮かんで、『この人たちしかいない!』という衝動に駆られました」
──興味があることには人一倍行動力があるイメージのヨシダさんですが、そこから実際に撮影するまでは早かったのでしょうか?
すごく早かったですね。11月くらいに思い立って、2月上旬にはニューヨークにいました。
──異国の地・ニューヨークで、撮影場所やモデルはスムーズに決まりましたか?
ニューヨークではモデルさんを10人ほどアサインしていたんですが、到着した日にはひとりだけというハプニングはありました・・・(笑)彼女たちは自由に、そのときそのときを生きているんだなと。すぐに再ブッキングをして、色々なツテをたどりながらなんとか集まってもらいました。
■予想外だった彼女たちの「やさしさ」
──撮影してみて、何かギャップがあったりは?
撮影前は、男性が女装をするっていうくらいしかイメージがなかったんですが、本当に全員がとんでもなくやさしかったんです。逆にそれがすごく不思議で尋ねてみたら、「こんな化け物みたいな私たちが人にやさしくしなかったらみんなびっくりしちゃうでしょ? こんな姿だからこそ、より人にやさしくできて、やっと人と会話できるのよ」って。
自分のなりたい姿になることで人にやさしくできるとか、自分自身のことをより好きになれるって言うのが彼女たちの考え方で、それがすごく素敵で。「ドラァグクイーン」って枠がないんだなと感じましたね。
──展示では、女性のドラァグクイーンさんもいらっしゃって驚きました。
そうなんです。パリでもニューヨークでも、言葉は違えど彼女たちは「なりたいものになる」と言っていて、自由に生きている人たちなんだなと思いました。
■世界で異なる「ドラァグクイーン」の個性
──日本を含め、各国のドラァグクイーンの方々の異なる点、共通点はあるのでしょうか。
もちろん人によっても違うんですが、ニューヨークなんかはドラマチックというか「生き様」っていう感じでしたね。一方でパリではメッセージ性よりは「私にもできるかも」っていう感じで始めてたり、キャバレー文化の影響でオートクチュールや舞台っぽいメイクだったり。そこの違いがおもしろかったですね。
そんななかでも、日本はエンタテインメント性があって、一番ポップで親しみやすい感じです。彼女ら曰く、日本ではドラァグクイーンよりオネェっていう文化が強いので、そういう印象を持たれやすいみたいです。
──ヨシダさんといえば、「民族と同じ姿になる」という撮影スタイルで知られていますが、ドラァグクイーンの方へも何かアプローチされたのか気になります。
普通はあまりないことなんですが、撮影前に1人ひとりにインタビューをしました。生い立ちなどを聞くうちに、「普通そこまで訊く?」って喜んでくれて。今までそんなに興味を持ってくれる人がいなかったからうれしかったようです。
「好き」とか「興味がある」っていうのが伝わるように、彼女たちの言葉ひとつひとつを真剣に受け止めるようにしたつもりです。
◇
現在、ヨシダナギの写真展『DRAG QUEEN −No Light,No Queen』が開催中(4月25日まで)。会場は「阪急うめだ本店」で、入場料は一般800円、大学生・高校生600円、中学生以下無料。同百貨店9階「阪急うめだギャラリー」にて(最終日は夕方6時閉場)。
ヨシダナギ
1986年生まれのフォトグラファー。独学で写真を学び、2009年より単身アフリカへ。以来アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。唯一無二の色彩と直感的な生き方が評価され、2017年日経ビジネス誌で「次代を創る100人」へ選出。また同年、講談社出版文化賞 写真賞を受賞。
ヨシダナギ写真展『DRAG QUEEN -No Light, No Queen』
期間:2022年4月13日(水)〜25日(月)
時間:10:00〜20:00(最終日は夕方6時閉場)
会場:阪急うめだ本店 9階「阪急うめだギャラリー」(大阪市北区角田町8-7)
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