西谷弘監督「映画には、小説を読むような『深み』が必要」

2022.7.10 09:00

映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』でメガホンをとった西谷弘監督

(写真6枚)

「謎を解くというより人を解く」(西谷監督)

──その「パープル」に加えて、西谷作品には欠かせない菅野祐悟さんの劇伴もとても印象的でした。例えば、チェロ・ソロでぐいぐい引っ張っていくというか、かなり音数をそぎ落としていますよね。

菅野さんにはちょっとチェロでいきたい、と話して。なぜチェロかというと、これはもう自分のなかの感覚でしかないんですけれども。

──物語の始まる前のイントロダクションとしても、あの不気味な音色がひとつの暗いムードを作ってますよね。

最初はシャーロックの映画化というところから話が来てるんですけどね。フジテレビにシャーロキアン(熱狂的なファン)がいるんですけど、「じゃぁ、バスカヴィルなんてどう?」って。確かに、魔犬とか古いお屋敷とか底なし沼とか、すごく映画的ですし。

© 2022「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」製作委員会

──シャーロック・シリーズのなかでも特異ですものね。

番外編ですからね。舞台もロンドンから離れて、ワトソンの冒険日誌みたいなところもありますし。なので、「バスカヴィルなら映画的だな」というところからスタートしたんですけれど、そのとき、導入と出口は見え方が変わっても良いかなと思って。それから人間ドラマに落とし込んでいくんですけど、イントロダクションに関してはホラー色を強めようかなと。そこからチェロという発想が出てきたんです。

──もちろん、西谷監督の設計でしょうが、パーカッションと弦だけとか、菅野さんはああいう音楽の使い方がとても上手いなぁと。

ありがとうございます。

──あと、ネタバレになるので詳しくは控えますが、ラストも原作から改変してるじゃないですか。あのあたり、エドガー・アラン・ポーの『アッシャー家の崩壊』的な感じを狙っているのかなと。

原作のラストは、犯人が底なし沼に沈んで事件が闇に葬られるんですが、そこもいろいろ考えたんです。最初、湿地帯のロケ地を探ったりとか、沼の表現をどうしようとか思ったんですけれど、最終的には今回のラストに変えたんです。さっき、大正時代の設定を考えたとお話ししたじゃないですか。大正12年に大きな災害が起こるんですが、それがヒントになっています。

9月には『ガリレオ』の劇場版第3作『沈黙のパレード』も控えている西谷弘監督

──なるほど。とはいえ、こういう風に『バスカヴィル家の犬』を描いた作品って、今までなかったんじゃないですかね。ストーリーも現代ではあまり怖いお話でもないですし。

そうなんですよ。結局そういう言い伝えを怖がるというのは、登場人物の設定次第になっちゃうので。だから最初に大正時代にしようなんて、小手先っぽい考え方しちゃったなぁと今では思ったりして(苦笑)。まあ、画的にはいいんでしょうけど。

──さすがに嵌まりすぎますよね、まんま横溝正史になってしまう(笑)。

そうなんですよ、和のテイストにしちゃうとどうしても(笑)。

──西谷監督って、ミステリー好きなんですか?

どうだろう。「謎を解く」というより「人を解く」みたいな、そっちの方が好きですね。

──そういう印象です。僕が監督の作品が好きなのは、人間をちゃんと描いているところで、特に映画になるとそれが濃密に出てくる。映像のテクニックを使って、それをちゃんと実践されている。

それがちゃんと伝わっていて、ホントにありがたいです。

映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』

2022年6月17日公開
監督:西谷弘
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、ほか
配給:東宝
© 2022「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」製作委員会

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