頼朝の死で変わる北条家、時政&実衣の闇堕ちに反響【鎌倉殿】
三谷幸喜脚本・小栗旬主演で、鎌倉幕府二代執権・北条義時を中心に描く大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)。7月3日放送の第26回『悲しむ前に』では、源頼朝(大泉洋)の臨終と、北条一族をも分裂させる、ポスト頼朝をめぐる権力争いのはじまりが描かれた(以下、ネタバレあり)。
■ 頼朝の死をきっかけに、バラバラになる北条家
落馬後に昏睡状態となった頼朝は、もってあと数日と医者(春海四方)に宣告される。妻の政子(小池栄子)が寝食も惜しんで介護する一方、義時は頼朝の長男・頼家(金子大地)にスムーズに政権を移行できるよう、心を許せる御家人たちとともに動き、同時に八田知家(市原隼人)と火葬の準備を進めていく。
しかし頼家が次の鎌倉殿となることで、頼家の義父・比企能員(佐藤二朗)の力が強まることをおそれた義時の父・時政(坂東彌十郎)の妻・りく(宮沢りえ)は、「頼家はまだ若すぎる」という名目で、頼朝の弟・阿野全成(新納慎也)を還俗(注:僧が世俗に戻ること)させ、後継者にすることを提案。万事りくの言いなりの時政はそれに乗り、全成と、義時や政子の妹で全成の妻となった実衣(宮澤エマ)も承諾する。
一方、父の危篤を聞いて駆けつけた頼家は、この状況を公にすることを進言。頼朝亡きあとの鎌倉の姿をそれぞれが思い描くなか、政子は頼朝の死を見届ける。頼朝の後家として、政治の表舞台に出ることになった政子が最初におこなったのは、後継に息子の頼家を選ぶことだった。梶原景時(中村獅童)を後ろ盾に、理想的な振る舞いを教え込まれていた頼家は、もくろみ通り二代目鎌倉殿となった。
しかしこの決定をめぐって、時政とりくは義時と政子を裏切り者扱いする。権力にまったく関心がなかった実衣までも、「姉上は私が御台所になるのがお嫌だったんでしょう」と、別人のように冷たくなった。はからずも実家を敵に回すことになった政子は、伊豆に帰るつもりだった義時を引き止め、頼朝の形見の観音像を渡しながら、鎌倉に残って自分と頼家を守るように説得する──。
■ 愛すべき「時政パパ」が闇堕ち・・・チャームポイントが反転する脚本
冒頭の長澤まさみによる「主人をふりきり、鎌倉が暴れ始める」という名ナレーションが、すべてを象徴していたような第26回。特に視聴者に衝撃を与えたのは、前回まであんなに仲むつまじかった北条家が、頼朝という支えを失ってあっという間に崩壊してしまったことだ。
とりわけ、SNSでも「時政パパ」と呼ばれるほど親しまれた時政の闇堕ちに、「あの家族思いの陽気な時政パパが権力へ対しての欲望丸出しになったことが衝撃」「完全にダークサイド行きやんけ」「先週はみんなでお餅作ってキャッキャウフフしてたのに」という嘆きの声が集まった。
三谷が本作について「サザエ(政子)とカツオ(義時)が手を組んで、マスオが死んだあとに波平(時政)を磯野家から追い出す」とあらかじめ解説していたように、最終的に時政VS義時+政子の構図となることが既定路線とはいえ、歌舞伎界のダークホース的な存在だった坂東彌十郎が作り上げた時政像は、「ときどき野蛮だけど基本的には単純でお人好し」という、頼朝だけでなく後白河法皇や源義経にまで気に入られるのも無理はない、愛すべき人物だった。
それゆえに、時政が手に負えない権力の亡者となって、子どもたちに成敗されるという構図がいまいち想像できなかったのだが、三谷は「恐妻家」と「家族思い」という、一見伏線とは思えない要因を忍ばせていた。絶対的存在であるりくの「私たちの子らにみじめな思いをさせてもよいのですか?」という言葉で、「家族を守る使命感→そうだ、権力を取ろう! 」という思考を引き出す。これによって、時政が史実通りの行動をとっても、キャラクター的に矛盾がないように仕込んだわけだ。
SNSでも「頼朝の兄弟たちにやさしくしてきた描写など『家族の絆』に凄くこだわる人物だったから、今回の亀裂も妙に納得」「北条家の棟梁と一所懸命と家族への愛と・・・いろいろな責任が時政パパを鬼に変えていくのか」と納得の声が上がると同時に、「北条家のみなさんのチャームポイントが頼朝の死によって反転し一気に家族関係を拘泥化させるのなんなん? 三谷さん大河ドラマで邪悪なオセロやるのやめて」と、またしても脚本の無慈悲さに震える声が多数上がっていた。
■ 幻想的な頼朝の最期、小池栄子演じる政子に応援の声相次ぐ
とはいえこの北条家の崩壊も、もとはといえば「全部大泉のせい」なんだろうが、今回は誰も予想できなかった頼朝の退場シーンも話題となった。冒頭で医師に診察される頼朝が映った瞬間、SNSは「まだ生きてる?」「完全に死んだ気でいた」というコメントが次々に上がった。しかし頼朝を心配してるのは政子だけで、ほかの人は自分の葬儀や家族のいさかいの話ばかりしてるから、もし頼朝に聞こえていたら「ひと思いに死んだほうがマシだった」と思いかねない状況だろう。
しかしそこから死に至る描写は、こうだ。うたた寝をしていた政子が目をさますと、頼朝は軒下に座り、政子が枕元に置いていた果物を手に、初めて出会ったときのように「これはなんですか?」と尋ねる。回復したと思った政子が喜んで人を呼び、再び頼朝の方を向くと、頼朝はすでにこと切れた状態で横たわっていた・・・という、夢ともうつつともつかぬ、幻想的な最期だった。
この異色の臨終シーンに「えっ政子の寝不足の心が見せた夢ではなかったの・・・?」「頼朝が政子に最後の幸せな夢を与える死に様を描いたか」「政子の夢なのか、それとも本当に頼朝は亡くなる前に意識が戻ったのか?」と、視聴者はとまどいながらも、「頼朝の最期がこんな美しく切ないとは」「頼朝の死をここまで丁寧に描写したドラマが今まであっただろうか」と称賛。
さらに「政子も強制的にステージが変わるんだな」「面構えが尼将軍に変わってる」と、これからが人生の本番の政子への、エールのようなコメントも上がっていた。
◇
『鎌倉殿の13人』の放送はNHK総合で毎週日曜夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夜6時からスタート。第27回『鎌倉殿と十三人』では、いよいよタイトルの元となった、頼家を支える「十三人の合議制」が整っていくとともに、本作のラスボス・後鳥羽上皇(尾上松也)が登場する。なお来週は『参院選開票速報2022』放送のため休止。次回の放送予定は17日となる。
文/吉永美和子
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