売れてない訳じゃない、芸人で劇作家・岩崎う大「感動のさせ方」
小説家や映画監督、ミュージカル俳優と・・・ここ数年、お笑い芸人の活動の幅がどんどん広がっている。いまだに根強い「TVに出ない=売れてない」という世間のイメージをよそに、別ジャンルの笑いを開拓してきたひとりが「かもめんたる」の岩崎う大だ。
2013年に「キングオブコント」王者に輝いたあとも、ライブ活動に重点を置き、2018年には「劇団かもめんたる」の名で演劇活動を開始。日本の劇作家の登竜門「岸田國士戯曲賞」最終候補に2回も選出されるなど、演劇界でも異色の才能が注目されているところだ。吉岡里帆を主演に迎えた舞台『スルメが丘は花の匂い』をひかえる、岩崎に話を聞いた。
取材・文/吉永美和子
■「グロテスクや下ネタをとっぱらって・・・」
──『スルメが丘・・・』は、このシュールなタイトルからして、すでに「かもめんたる」色がすごいです。
これ、割とタイトルが先行なんです。主演は吉岡さんで決まっていたので、吉岡さんに似つかわしくなくて、僕が書いたらおもしろそうなタイトルはなんだろう? って考えたときに「スルメ」が浮かんで。
チラシはだいぶポップにデコレーションされてますが、文字だけを見たら多分やや影を感じるし、ひとクセふたクセありそうな気がする。その「ひとクセふたクセありそう」というのは、吉岡さんにも通じるかなと思いました。
──吉岡さん演じる縁緑(えにし・みどり)が、穴に落ちて異世界に行くという『不思議の国のアリス』のようなはじまり方ですが、童話っぽい世界になるのでしょうか?
吉岡さんが行き着くのは「いろんな物語が生まれる世界」なんですが、マイナーなグリム童話のなかには、フィクションの型にはまってないお話があって、そういうのがおもしろいというのはありました。話の骨組みはオーソドックスですけど、そこにオリジナルなものを、これでもかとくっつけています。「う大ワールド」みたいなものを。
──岩崎さんの作る笑いは、嫉妬とか差別とか悪意とか、人間のグロテスクな部分を笑いに変えるという印象が強いのですが、やはりそんなネタがいっぱいあるのでしょうか?
いや、今回はちゃんと「いい話」を作ってみようと思いました。今までの演劇作品は、かもめんたるのグロテスクな笑いが好きなお客さまへのサービスや、「せっかく演劇だから」という気持ちもあって、あまり自主規制をしなくて。本作では規制をしてみたけど、思ったより苦しさは感じなかったですね。グロテスクや下ネタをとっぱらってもおもしろいんだぞ、俺は!というのを、この機会に感じてもらいたいし、そこは挑戦です。
──巧妙に作り込まれた「う大ワールド」が見られると。
そのために、このお話を受けてから、はじめてシェイクスピアの戯曲を何冊か読みました。どの作品を読んだのかも、あまり覚えてないんですけど(笑)、アバンギャルドというか、結構きわどいセリフが多くておもしろかったですね。そして今回さっそく「傍白(ぼうはく)」というのを、台本を書くときに取り入れました。
──いわゆる舞台におけるひとり語りのセリフですね。
今までも独り言は使ってたけど、今回はわざわざセリフの横に「(傍白)」って書きました。プロデューサーさんに読んでもらうときに、ナメられないように(笑)。でも意外とシェイクスピアのやってることに、自分と近いものを感じたので、「それでいいんだよ」って背中を押してもらった気持ちになってます。
■「肉で言ったら、脂肪とか皮が付いたままの状態」
──そもそも「かもめんたる」自体が、演劇公演からはじまってるんですよね。
最初は「劇団イワサキマキオ」という名前で、1時間ぐらいの2人芝居をやりました。でも長い話を定期的に作るのって、時間がすごくかかるから、ゴールが見えねえなぁという気分になったんです。だったら武者修行みたいな感じで、いっぱいコントを作る方がいいやと思って、そうそうにお笑いに切り替えました。
──ただ当時から、岩崎さんも相方・槙尾ユウスケさんも演技力のレベルがケタ違いだったり、「ヨーロッパ企画」の上田誠さんを構成協力に呼んだりと、かなり演劇寄りではありました。
そこが僕らのオリジナリティというか、作っているコントも、笑い以外のものがいっぱい付随してますからね。なにか不穏なものが残ってる・・・肉で言ったら、脂肪とか皮が付いたままの状態。そこをきれいに掃除して「笑い」だけにしないのが、演劇っぽかったのかもしれないです。
──たしかに、気持ちよく笑ったというより「あれ、気持ち悪かったなあ」みたいな感情が結構残ってました。
でもコントライブって「笑いに来たんだよ、こっちは」っていう人もいるだろうし、やっぱり笑いは笑いでやるべきだと思うんです。だけど「演劇」ってなっちゃえば、そこを気にせず、むしろ脂肪や皮の部分をどんどん広げていける。今1番興味があるのは、今まで誰もやってなかった感動のさせ方をさせることですね。
──そのためには、コントの武者修行で鍛えた笑いの技術が、演劇を作る上でも大きな武器になる。
そう、結局はコメディなんです。いつかは笑いを抜きにした作品を書くかもしれないけど、今の段階ではみんなで笑いをちゃんと作って、1本の作品にするというのが好きだなあ、と。コントでも演劇でも、笑いを作ることにはずっとたずさわっていたいし、お笑い界のためにもたずさわるべきだと、僕は自分で思っています(笑)。
■迷い込み込んでみたい童話は『くまのプーさん』
──岩崎さんは「TVだけがお笑い芸人の生きる道ではない」ということを、かなり早い段階で語っていましたね。
今のこの世では、やっぱりまだバラエティとかトーク番組の笑いが、いわゆる「お笑い」とされているけど、結局人をなにかで笑わせるというのは、全部「お笑い」のはずなんです。普通のドラマのなかにもお笑いはあるし、映画でも小説でも漫画でもお笑いはある。今自分がいる場所で、ちゃんとおもしろいものを作っていくことで、王道じゃないところにあるお笑いの管理をしていきたい・・・みたいな気持ちがあります。
──この公演は、まさにその重要な一歩となりそうですが、岩崎さんの長編作品が大阪で上演されるのは、これが初になりますね。
演劇は初めてですね。かもめんたるでは何回か大阪公演をやらせてもらっていて、すごくやりやすい場所だなあと思っています。やっぱり大阪の人って、笑うのが上手なんですよ。合いの手みたいに笑ってくれるというか「ボケ」「ツッコミ」「笑い」というリズムが自然とできていて、東京とはちょっと違いますよね。あと僕は、大阪の食文化が好きで。家でタコ焼きを作るんですけど、大阪でいつも研究しているから、そうとう上手です(笑)。
──今回の舞台を経て、自分のなかでなにかが変わりそうな予感はありますか?
今まで劇団かもめんたるで演劇をやって、戯曲賞にもノミネートされたけど、やっぱりかもめんたるの派生という感じがしていました。それが今回は(外部の)プロデュース公演で、初顔合わせのそうそうたるメンバーに向けて、作・演出をやるということで。だからこの作品の完成を観て、自分で満足ができたら「あ、いよいよ本当に演劇人になったのかなあ」と思いそうな気がします。
──ちなみに緑のように、迷い込んでみたい童話の世界って、なにかありますか?
童話? 童話ってなにがあるかなあ。ちょっとタイトル上げてもらえますか?
──桃太郎、白雪姫、さるかに合戦、赤ずきんちゃん、3匹のこぶた・・・。
物騒なのばっかりですよね? やっぱり童話って物騒なんですよ。おもしろくするって、物騒だから。だからあんまり物騒じゃない奴がいい。『くまのプーさん』とか(笑)。すごい事件とか起こらなくて、かわいい子グマがたまに遊びに来る、みたいなのがいいです。
◇
『スルメが丘は花の匂い』は7月の東京公演を経て、大阪は8月6日・7日に「松下IMPホール」(大阪市中央区)で上演。チケットは8800円で、現在発売中。
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