梶原景時、退場…長年の悪名をぬぐう中村獅童の名演【鎌倉殿】
三谷幸喜脚本・小栗旬主演で、鎌倉幕府二代執権・北条義時を中心に描く大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)。7月24日放送の第28回『名刀の主』では、「13人」の1人で、義時の盟友でもあった梶原景時が、最初の権力争いに破れ、鎌倉を去っていくまでが重厚に描かれた(以下、ネタバレあり)。
■ 三浦義村の計略で、梶原景時が早くもバトルロイヤル敗者に…
二代目鎌倉殿の頼家(金子大地)を補佐するために集められたはずの13人の御家人たちは、父を越えようと焦る頼家と対立状態にあった。景時(中村獅童)はそんな頼家を陰ながら支えようと、御家人たちを厳しく監視しはじめる。義時の妹・実衣(宮澤エマ)に琵琶を教える結城朝光(高橋侃)も、頼家を批難したことを景時にとがめられ、謹慎中であることを実衣に明かす。
実衣から相談を受けた義時は、三浦義村(山本耕史)の提案で、景時にブレーキをかけるために御家人たちによる訴状を作成することに。しかし訴状は思いがけず、60人以上の御家人が名を連ねるという一大事となってしまう。頼家は自分を手放さないと確信していた景時だったが、父・頼朝(大泉洋)が景時に上総広常(佐藤浩市)を殺害させることで御家人たちを引きしめた前例にならい、見せしめとして景時を謹慎処分にする。
実は朝光を裏で操っていた義村の描いたシナリオ通り、鎌倉での居場所を完全に失った景時。その噂を聞いた後鳥羽上皇(尾上松也)は、景時に上京をうながし、彼もそれに乗るつもりであることを義時に明かした。だが景時が朝廷側に付くことで、鎌倉との対立が深まることを懸念した義時は頼家に密告、景時は奥州に流罪となる。
しかし景時はその決定に逆らって、京に向かうことを決意。止めに来た義時に「刀は斬り手によって名刀にもなまくらにもなる。なまくらでは終わりたくはなかった」と告白し、さらに「己の道を突き進め」という言葉とともに、家人の善児(梶原善)を置き土産にして鎌倉を去った。景時は戦で散ることを望んでいると察した義時は、息子の頼時(坂口健太郎)に、討手の兵を整えるように命じる──。
■ 厳しく強く清廉な「景時像」、脚本&獅童の名演に絶賛の声
かつてこのコラムでも触れたように、従来の「源義経(菅田将暉)を追い落としたずる賢い悪臣」から「崇拝をこじらせ過ぎて、推しを自分の手で潰した切ない強火担」と、従来のイメージを完全に払拭させた、中村獅童演じる梶原景時。
その実質的な退場となる第28回は、頼朝の元では「名刀」として才能を発揮できた景時が、頼家とその周囲の人々によって「なまくら」扱いされて追放される・・・その絶望的な悲しみに、SNSでは同情と納得の声が上がっていた。
今回の景時を、獅童は「己の道を貫き通した人ですよね。ときにそれが悪に見えてしまうのかもしれないけれど、自分の生き方を根底でしっかり持っていた人なのかな」(公式サイトより)と分析。そのうえで、非常にキレ者で教養も深いが、無口でポーカーフェイスゆえに悲しいかな人望が薄い・・・という景時像を作り上げ、御家人のヘイトによって失脚するという史実への布石も、抜かりなく作り上げていた。
SNSでも、数多い同情の声に混じって「無能な上司や職場の雰囲気に合わなくてやり玉にあげられて、優秀な人材が退職して会社が傾く日本企業あるある」「梶原殿ド正論なんだけど、正論しか言わないって会議のなかであんまり喜ばれないのよ」「仕事が出来てもそれだけじゃ社会人としてはダメなんだよね。周りの人ともちゃんと付き合っていかないとね」と、現在社会の教訓とするような声が。
それと同時に「従来は悪人として書かれた人物を、三谷脚本は自他ともに厳しく強く清廉な人物として描き切った。中村獅童はそれに応えた。大河ドラマ史に残る名演」「最高ですよ! こんなに梶原景時をノーサイドで描いたドラマを観れるときが来るとは!」「1000年近く語られ続ける永遠の悪名、拭うに十分の熱演。中村獅童殿、梶原景時役お見事にござった!!」「ご本人も草葉の陰で喜んでるんじゃないだろうか」と、脚本&演技の両面で絶賛の言葉が並んだ。
■ 「名刀の主」もう1つのタイトル回収は、最強のアサシン・善児
さてこの「名刀」が、梶原景時その人のことを示しているとてっきり思っていたら、最後の最後にもう1つのタイトル回収があった。数々の人間を手にかけ、現在は景時に仕えていた最強の暗殺者・善児が、景時から義時に託されるという展開だ。
景時の「置き土産じゃ」の声でふすまが開くと、そこに善児が座っていた・・・というシーンでは、SNSも「物騒な置き土産キター!」「善児が登場した瞬間、でかい声を出してしまった」「こんな置き土産は嫌だ」と、本気で悲鳴が上がる状態に。しかし狙ったターゲットは必ず仕留める善児は、ある意味では最高の懐刀(ふところがたな)。その主が景時から義時に移るとは、なんとも劇的かつ今後が不穏な展開だ。
このもう1つの「主」の誕生に、「小四郎(義時)が梶原殿から善児という『名刀』を譲られて、その主=粛清の責任者となっていく未来をも指し示しているのか」「善児、もしかして鎌倉語でエクスカリバーとかそういう意味だったりする?」「開けたら善児がいるというギャグと、これより粛清をするのは義時の役目になるというシリアスを完全に両立していて、これは天才の筆」と、不安と期待がハイレベルで入り混じった声が続々と上がった。
■ 梶原景時、異例の「紀行死」にSNS驚きの声相次ぐ
また今回の紀行(本編終了後のコーナー)では、鎌倉を去ったあとの梶原一族のその後が語られていたが、これをドラマの続きととらえた視聴者が多く、「梶原景時の最後の戦の様子を視聴者が自由に思い描ける」「紀行のなかにクライマックスを持ち込むとは」と、「ナレ死」ならぬ「紀行死」に驚きの声が。
あえて自害の描写をしなかった義経と重ね、「義経が笑顔で視聴者の前から去っていったときと同じだわ」「梶原景時と九郎義経の最期のシーンを、同じ紀行ナレ死にさせる制作スタッフ最高・・・断トツの推し対象と同じ死に方とか幸せじゃないですか」と、スタッフの配慮をたたえる声もあった。
ちなみに梶原景時メイン回に「刀」が象徴的に使われたのは、歌舞伎の『梶原平三誉石切(ほまれのいしきり)』のオマージュなのは明白。名だたる名優たちが競って演じるほど、見せ場の多い名作で、結構な頻度で上演されている。今回の評価を受けて、獅童が再び景時として、舞台に帰ってくることを祈りたい。
また8~9月には、獅童と初音ミクが組んだハイテク歌舞伎『超歌舞伎2022』が「京都南座」(京都市東山区)をはじめ東京・愛知・福岡で上演されるので、景時とはガラっと雰囲気を変えた獅童を楽しみにしてほしい。
『鎌倉殿の13人』の放送はNHK総合で毎週日曜夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夜6時からスタート。第29回『ままならぬ玉』では、頼家に次男が生まれたことで、鎌倉を舞台にした権力争いが激化していく様子が描かれていく。
文/吉永美和子
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