【連載vol.17】見取り図リリー、岡本太郎を観る

2022.8.11 12:45

《太陽の塔》の1/50サイズの立体作品と内部模型の展示も。構想スケッチも展示されているのですが、これまで公開されてきたのはパネルとあって、直筆の展示はレアだそう

(写真10枚)

アート大好き芸人「見取り図リリー」が、色々なアート展を実際に観に行き、美術の教員免許を持つ僕なりのおすすめポイントをお届けするという企画「リリー先生のアート展の見取り図」でございます。今回は、10月2日まで「大阪中之島美術館」(大阪市北区)でおこなわれている大回顧展『展覧会 岡本太郎』です。

大好きな岡本太郎先生の展覧会・・・僕の人生のバイブル岡本太郎著『自分の中に毒を持て』(青春文庫)を読んでから勝手に先生と呼んでおります。「おもしろいに決まってる」と思い観させていただきましたが、想像以上にオモロイ! 初めて岡本太郎先生の作品を観る方はもちろん、岡本太郎先生が好きな方でも、唸ってしまう展覧会なのではないでしょうか。

10代の頃から人生最後に取り組んだ作品まで順番に鑑賞できるようになっています。まず、展示室に入ると、壁に観たことのない絵がモノクロでプリントされています。聞いてみると戦争の空襲で焼けてしまいもう存在しない絵を、昔の画集などから実寸大で再現したそうです。確かに初めて観る岡本太郎先生の絵! もう得した気分です。

進んで行くと、いきなり超レジェンド作品《傷ましき腕》! もうこの時点で優勝です。ここで帰ってもおつりが来ます(編集部注:1室目の最初の展示作品です)。空襲で焼失したパリ時代の作品だったのですが、先生自身が気に入っていたのか、戦後に再度描かれたそうです。

この作品では、中央にリアルな腕とリボンが描かれていますが、その周りの世界観は謎めいた抽象画そのもの。現実と非現実が混じり合っています。岡本太郎先生が、真反対のものをひとつの作品でぶつけ合う「対極主義」をこの頃から目指していたことが伝わってきます。

《傷ましき腕》は1936年にパリで描かれ、戦争で焼失したため1949年に岡本太郎が再制作。芸術表現の自信や不安など、当時の相反する感情を描いたとされています

その後に続く、作品でもさまざまな対比を確認できます。《空間》では、柔らかそうな布と真っ直ぐな棒と、まったく違う物質を。《露店》では、楽しそうな色とりどりの商品の奥に、薄暗い少女でテンションが違う世界観を。《夜》では少女とおぞましい雷に割かれ焼ける木と異なる生物を対峙させています。

僕のような若輩者にはわかりませんが、岡本太郎先生は世の中の矛盾や、一方的な視点だけじゃわからないことや、2つの不協が創り出す感覚など、あらゆる部分で対比というのに魅力を感じてたのかもしれません! ちなみに《露店》という作品は、本人がアメリカの「グッゲンハイム美術館」に1983年に寄贈してからは、日本で観れるのは初らしいです。

さらに進むと、これまた観たことない作品が3点。なんと1993年にパリのアトリエのゴミ集積場から出てきた作品です。調べると「岡本太郎」というサインが見つかり、極めて岡本太郎先生の作品の可能性が高いとなったそうです。本物であれば(9割そうらしいです)、フランス時代の作品はすべて戦争で焼滅したと思われていたのでとっても貴重な存在に。すごい! 

ほかにも、ファスナーがついている怪獣が描かれた《森の掟》や、原爆がテーマとなった巨大な作品《明日の神話》の下絵など有名作品もあります。説明不要、大阪万博での《太陽の塔》のラフ画や模型も展示。ただただテンションがあがります!

椅子、鯉のぼり、シャツ…こんなにも岡本太郎先生の作品が日常にあふれていたなんて!

そしてびっくりしたのは、商品化された作品の数々! テーブル、椅子、ネクタイ、グラス、時計、鯉のぼり・・・まだまだあります。このような日用品を作ったのは、岡本太郎先生は、アートはパブリックであるべきだという信念があったからだそうです。よいアートを広めるためには、いらないプライドなんて捨てるべきと、だれでも気軽に楽しめる方を選んだんでしょう。画家らからは、アートを安売りするなという批判もあったそうですが、己を貫く姿勢・・・かっこいい! 『自分の中に毒を持て』を絶対にもう一度読みます先生、いや師匠!

そして、まだまだこの展覧会終わりません。さらにびびらせてくれます。自分の作品を売らずに、自分で持っているから、美術館にあるかという状態だった岡本太郎先生。しかし、受賞作品など高い評価を受けた作品に限って、どこにあるのか、処分したのか不明なままでした。

それが最近X線調査でわかったらしいのですが、上から加筆し別の作品になっていたんです。人の評価なんか知るか! 過去の自分を越えていくという事なんでしょうか! もう一度言います。かっこいい!!

そして、終盤に展示されている、亡くなるギリギリまで取り組んでいた《雷人》という作品では、最後の最後まで、岡本太郎先生が人生を通してモチーフにしてきた太陽、稲妻、人を描いています。ずっと岡本太郎は岡本太郎を貫いているんです。まじでかっこよすぎて鳥肌が立ちました。

晩年はあまり作品発表をおこなわなかったそうですが、岡本太郎先生はずっと描き続けていました。第6章「黒い眼の深淵」のコーナーでは、「眼」のパワーに圧倒されます

(C)岡本太郎記念現代芸術振興財団

『展覧会 岡本太郎』

60年以上にわたる岡本太郎の芸術家としての軌跡を約300点の作品を通じてたどる回顧展。代表作はもちろん、パリで描いた作品から、最後に描いたとされる未完の作品《雷人》まで。自身の思想を作品を通じて伝えるために手がけたパブリックアートや、イスや器などの工業製品も充実。音声ガイドは阿部サダヲが担当(会場レンタル600円、アプリ配信版730円)。一般1800円、大学・高校生1400円〈日時指定制(30分ごと)〉。

東京と愛知にも巡回し、「東京都美術館」2022年10月18日~12月28日、愛知展は「愛知県美術館」で2023年1月14日~3月14日まで、それぞれで地域限定展示が楽しめる(料金については今後発表予定)。

【見取り図リリーの近況】

大阪・東京・福岡で開催される史上最大のお笑いフェス『LIVE STAND 22-23』(東京・8月19~21日、大阪・9月17・18日、福岡・2023年1月14・15日、出演日は近日発表)に出演を予定しています! 豪華メンツと共演しますのでぜひ! テレビでは冠番組の『見取り図じゃん』のほか、『ラヴィット』(水曜)、『スローでイージーなルーティーンで』(月曜)などにレギュラーで出演しています。

『展覧会 岡本太郎』

期間:2022年7月23日(土)〜10月2日(日) 月曜は休館(9月19日を除く)
時間:10:00〜18:00(最終入場は17:30)
会場:大阪中之島美術館(大阪市北区中之島4-3-1)
料金:一般1800円、大学・高校生1400円
電話:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター)

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