「大英断」武人の最高の花道で、金子大地の頼家散る【鎌倉殿】

2022.8.30 06:45

修善寺にて。頼家のもとを訪れた三浦義村(山本耕史)と、鎌倉への怒りを語る源頼家(金子大地)(C)NHK

(写真11枚)

三谷幸喜脚本・小栗旬主演で、鎌倉幕府二代執権・北条義時を中心に描く大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)。8月28日放送の第33回『修善寺』では、二代目鎌倉殿から降ろされた頼家(金子大地)の、しぶとくも劇的な最期の日々が描かれた(以下、ネタバレあり)。

■ 最後まで鎌倉殿の座に戻ることを諦めなかった頼家

修善寺に幽閉され、猿楽を楽しむ以外することのない頼家だが、北条家を討ち取って鎌倉殿の座に戻ることをあきらめず、訪れる御家人たちに片っ端から挙兵の話を持ちかけていた。一方、三代目鎌倉殿となった頼家の弟・実朝(嶺岸煌桜)は、義時の継母・りく(宮沢りえ)の差し金で、都から御台所を呼ぶことが決まり、それを知った後鳥羽上皇(尾上松也)は実朝の教育係という名目で、腹心の源仲章(生田斗真)を鎌倉に送り込む。

頼家の様子を静観していた義時たちだが、猿楽衆のなかに北条追討の院宣を乞う頼家の手紙を持っていた者を八田知家(市原隼人)が発見。義時や大江広元(栗原英雄)らは、これ以上頼家を生かすことは危険と判断し、頼家の暗殺を決定する。

義時の館にて。北条義時(左、小栗旬)のある決断に異を唱える北条泰時(右、坂口健太郎)と、なだめる北条時房(中央、瀬戸康史)(C)NHK

しかし義時の息子で、頼家の幼なじみでもある泰時(坂口健太郎)はこれに反発し、頼家に逃亡をうながすために修善寺へ。頼家暗殺を義時から依頼された下人の善児(梶原善)は、猿楽の笛奏者に化けて頼家に近づくが、まったく指が動いてないことをその場にいた泰時に見とがめられ、正体がバレてしまう。

善児は頼家を追い詰めるが、頼家が祀っていた「一幡」の文字を見て、自分が匿っていた頼家の息子・一幡(相澤壮太)を思い出し、心を乱す。その隙に頼家は、善児に深い傷を負わせて形勢逆転するが、善児の弟子・トウ(山本千尋)に討ち取られた。善児はなんとかその場から逃れたが、かつて両親を善児に殺され、その復讐の機会をひそかに狙っていたトウの手にかかって絶命した──。

■ 三谷幸喜が選んだ頼家の最期は、武人として最高の花道

源頼家暗殺の地として、歴史に名を残す伊豆・修善寺。その名刹がタイトルであれば、頼家退場の回となることは必然だった。しかしその最期に泰時が立ち会い、さらに鎌倉最強の暗殺者・善児に立ち向かうというハラハラの展開になったことに、SNSは騒然。

「やっぱり善児が感情持ったのが退場フラグだったけど、まさかの頼家に斬られるという最期は誰も想像できない」「善児が一幡に愛情をそそいでいたのは頼家に切られるための伏線か!」「千鶴丸(注:頼家の腹違いの兄)の命を奪った善児を、同じ頼朝の子どもである頼家が彼に一矢報いるの、因果応報がすごい」という驚きの声が次々に上がった。

善児の小屋にて。あるものを見つめる善児(梶原善)(C)NHK

実際の頼家の暗殺は「入浴中に襲われるけど激しく抵抗し、急所を取って無力化したところで殺された」とか「暗殺の前にも、風呂に漆を入れられて全身が腫れ上がった」などの物騒なエピソードが多く、近頃はもっぱら「鬼脚本(褒めてる)」と言われる三谷がどのように描写するかに注目が集まっていた。

しかし三谷が選んだのは、そんな気の毒な死に方ではなく、実は武芸に秀でた人物だったという説とあわせて、あの善児と互角に戦わせるという、武人として最高の花道を用意した。

この三谷の配慮(?)に「頼家最期の大立ち回りはカッコ良かった。〇玉握られ死よりはだいぶやさしい終わり方だと思う」「頼家を風呂死にしなかったのは大英断だと思います」「頼家、強くて尊厳ある最期で良かった」という安堵の声がある一方、「ドラマ放映時間的コンプライアンス配慮か?」「流石にアレは放送できんしなあ」「最期の形が変わった・・・NHKなので・・・」と、大人の事情を察するようなコメントもチラホラと上がっていた。

■ 初の「大河ドラマ」で大きな爪痕を残した金子大地

そして頼家を演じた金子大地にも、「大泉頼朝の存在感を忘れさせるほどの鎌倉殿」「ハマり役だったし、ご本人の源頼家という人物への理解・解釈・咀嚼・表現が見事だった」「富士の巻狩りのときからずっと頼家の孤独、苦しみ、そして純粋さに引き込まれました。物凄い爪痕を残されたと思います」などの、ねぎらいと絶賛の声が寄せられた。

大河ドラマ初&三谷作品初と、ただでさえプレッシャーがかかるうえに、一歩間違えれば総スカンなエピソードが多く、精神的にも追い込まれる立ち位置のキャラを演じねばならなかった金子。

第27回より御所・政子の居室にて。かつて挙兵のとき頼朝(大泉洋)が命を賭けると誓った髑髏を受け継ぐ源頼家(金子大地)(C)NHK

しかし頼家の心境に寄り添った繊細な役作りと、実は舞台ではシェイクスピアや野田秀樹の戯曲で、スケールの大きな世界観を体現するなど数多の現場で鍛え上げた演技力で、「頼家のイメージは永久に金子さん」と言われるほど、見事な成果を残した。今後も時代劇はもちろん、個人的には三谷脚本のコメディの舞台の出演も期待したい。

ちなみに伊豆市の修善寺温泉には、頼家の暗殺現場と伝わる「筥湯」が、今も存在している。観光客も気軽に入れる共同浴場なので、もし旅行する機会があれば、ぜひ背後に注意しながら入りにいってほしい。

『鎌倉殿の13人』の放送はNHK総合で毎週日曜夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夜6時からスタート。第34回『理想の結婚』では、北条時政(坂東彌十郎)と娘婿・畠山重忠(中川大志)の関係に暗雲がただよいはじめる一方で、のちに義時の3人目の正室となる、のえ(菊地凛子)と義時の出会いも描かれる。

文/吉永美和子

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