元宝塚×新喜劇、紅ゆずると末成映薫が語る「笑いの対極」
■ 「爆笑の渦に巻き込むタカラジェンヌ」(紅)
今回上演される『アンタッチャブル・ビューティー〜浪花探偵狂騒曲〜』は、大阪・ミナミにあるシャッター街と化した商店街が舞台。そこに息づく個性豊かなキャラクターたちと、紅演じる探偵が町おこしに奮起〜次第に絡み合っていくという話だ。新喜劇を観て育ったというバックグラウンドから、宝塚時代も積極的に「笑い」を研究していたという紅。身なりを七変化させ「探偵」として登場する彼女の芸には、ぜひ注目したいところ。
──さきほどの末成さんの「やればできる」で言えば、紅さんにとっても今回はお笑いへのチャレンジとなりますね。
紅「今回のこの作品、実はお笑いだとは思っていなくて。1分間に何回爆笑が起こったか、を競う演劇ではなく、ハートフルコメディだと思っています。きっちりと物語として成立させて、その人物が一生懸命生きてるところに笑えたり共感していただけたりとか、その一生懸命さゆえに発言することが面白かったりとか、お笑いだという認識はあまりないですね」
──ほかのインタビューでは「笑わせにかかると失敗する」と紅さんは仰っていましたね。今のを聞くと、その真意がようやく分かった気がします。
紅「笑いというものを突き詰めてこられた、ゆみ姉さんをはじめとする大ベテランの方々がいらっしゃるので、作品のなかで『ここはできるな』と探っていこうかとは思いますが、『どうやったら面白く笑わせれるか』にいっちゃうと物語が薄くなってしまうので、そこはきっちりと役として通したいなと」
末成「絶対そうやね、笑わせようという気持ちは絶対にダメです。私らずっとそんな社会におりますけど、吉本新喜劇のなかでも笑わそうと思ってると、スベります、これ絶対そうです。だから、笑わせようっていう気持ちは捨てないとだめやといつも思ってて。役を真剣にやるからこその面白さなんです」
──そういう俳優たちの息遣いなんかをお客さんは感じ取る、そしてそれが本当の笑いに変わるということですね。
末成「そう。お客さんって絶妙にわかるんです。『笑わそうとしてはる』っていうのが見えるんです。そうすると笑わないから、その辺の駆け引きがね面白いとこなんですけども」
──紅さんは宝塚時代「コメディエンヌ」との呼び声もありましたが、現役時代はそういったことも意識されていましたか?
紅「宝塚のなかの演目は、大真面目で一切笑いがないものが多い。涙するか、かっこいいってなるか、この2択なんです。それが素敵なんですけどね。でも私は人と違うジェンヌを目指したかったんです。王道で勝負しても絶対勝てないと思ったので、『こういうときは紅に任せとけ』と言われるような、新喜劇を観て育ってきたからこその『笑いを武器にできるタカラジェンヌ』になりたかったんです」
──そうだったんですね。
紅「宝塚のコメディ作品を大阪のテイストで思いっきりお客さまを笑わせて、『大劇場を爆笑の渦に巻き込んで見たらどうなるんか』っていうのをやってみたかったんですよ。共演者たちにとっては大迷惑だったと思うんですけど(笑)」
──それはもう生粋のコメディエンヌじゃないですか。末成さんから見て、紅さんの「笑い」はいかがですか?
末成「関西の方ですし、やっぱり間の取り方がすごく上手」
紅「本当ですか?」
末成「お笑いで1番大事なのは間。裏切りなんです、笑いというのは。『あ、ここで足上げるはずやのに間違えた』と思っても、笑いは裏切りのなかにがたくさん入ってるから、(紅さんとは)非常に楽しくいられますね。私は人に馴染みにくい人なんですが」
紅「全然そんなことないじゃないですか(笑)。最初から喋っていただいててうれしいです(笑)」
──今回の作品は演劇要素も含みながらも、もちろん「笑い」についても深い作品。作り方で言うと、アドリブやアイデアから生まれる新喜劇か、きっちりと決め込みながら進んでいく演劇作品か、どちらの方が近いですか?
末成「ガチっとは決め込んでいない」
紅「うん、固めすぎてないからこその面白さもあるかなと」
末成「特に新喜劇だと稽古時間も少ないから自然とギャグが出たりするんです。間違おうが、何しようが忘れたら誰かが拾ってしてくれる。『あ〜えらいこちゃ、こんにち「は」』といきなりアドリブで出たりするんです。『ごめんやっしゃさっき言うたな、同じお客さんやしどうしよ〜』って、舞台に出て行ったときに『こんにち「は」』って言うてしまったら、(キャスト一同が)大きい身体でデーンと転けてくれたんです。ほとんどアドリブなんです。笑わせようじゃなくて、本人は必死」
──紅さんもアドリブってされるんですか?
紅「現役中に結構やってましたね。でも下級生がセリフを忘れて、私がアドリブを入れたりすると『お客さんに笑われた』って思うんですよ、傷ついちゃう。ゆみ姉さんはじめ、みなさん経験を積んでらっしゃる方々が集まってるから、アドリブで会場の空気が成り立つのかなって思いますね」
──なるほど。最後にこの作品をお客さんにどう感じていただきたいか、 教えてくれませんか。
末成「シンプルに楽しかったと感じて欲しいですね。肩を下ろして幸せな気持ちで観て頂けたらと思いますね」
紅「うん。よくファンの方から『強靭な精神力を持ってる』って思われがちなんですが、今回ばかりは公演延期でちゃんと落ち込み、それを乗り越えたので、私たちも頑張ろうと思っていただけるとうれしいですね」
──楽しみにしています。
◇
「宝塚歌劇団」と「吉本新喜劇」。バックグラウンドは違えど、「笑い」という共通するテーマに闘志を燃やし、舞台に立ち続ける2人。そんな彼女たちの真剣勝負が繰り広げられる舞台『アンタッチャブル・ビューティー〜浪花探偵狂騒曲〜』は、9月17日〜25日に「大阪松竹座」(大阪市中央区)にて上演され、キャストには紅ゆずる、末成映薫ほか、三田村邦彦、内場勝則ほか。チケットは1等席1万2000円ほか。
※公演関係者に体調不良の諸症状が出たため、9月24日までの公演が中止。9月25日の千秋楽は未定。
舞台『アンタッチャブル・ビューティー』
会場:大阪松竹座(大阪府大阪市中央区道頓堀1-9-19)
期間:9月17日(土)〜25日(日)
料金:一等席1万2000円、二等席7000円、三等席4000円
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