「えげつない」史実の隙ついた鮮やかな展開、SNS悲鳴【鎌倉殿】
三谷幸喜脚本・小栗旬主演で、鎌倉幕府二代執権・北条義時を中心に描く大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)。9月11日放送の第35回『苦い盃』では、義時の腹違いの弟・政範の死をきっかけに、北条家と畠山重忠の対立が深まっていく様が描かれた(以下、ネタバレあり)。
■ りくの言葉に、手のひらを返しまくる時政
三代目鎌倉殿・実朝(柿澤勇人)の御台所となるため、後鳥羽上皇(尾上松也)の従姉妹・千世(加藤小夏)が鎌倉に入った。その迎えの一団に加わっていた重忠(中川大志)の息子・重保(杉田雷麟)は、政範(中川翼)は執権・時政(坂東彌十郎)の娘婿・平賀朝雅(山中崇)に毒をもられた可能性があると、義時らに進言。
しかし朝雅は時政の妻・りく(宮沢りえ)に、毒をもったのは重保の方だとうそぶき、それを鵜呑みにしたりくは、畠山を討つよう時政に訴える。
対する重忠は、朝雅追及の手を「京を敵に回すことになる」という理由で止めた義時に激昂し、武蔵に戻って戦の支度をすると宣言。一方義時から重忠との対決を阻止されていた時政は、りくの「(殺されるのは)次は私の番かもしれない」という言葉に手のひらを返し、戦の大義名分となる、畠山討伐の下文(くだしぶみ)に、鎌倉殿の花押を求めるために御所へ出向く。
しかし実朝は、気晴らしのために和田義盛(横田栄司)のもとに出かけており、それを知らない御家人たちが、実朝を探し回っていた。時政の思惑を察した政子(小池栄子)や実衣(宮澤エマ)らは、時政を一度は追い返す。しかし義盛の元から戻ったばかりの実朝の前に、ひそかに御所に残っていた時政が現れ、周りに誰もいないうちに花押を記させようとする。
ちょうどその頃、義時は武蔵国で重忠と酒を酌み交わしていた。重忠は、もし自分と執権殿が戦になったら、義時はどちらに付くか尋ねるが、答えに窮する義時に「執権殿であろう。それでよいのだ。私があなたでもそうする。鎌倉を守るために」と、その心情をおもんぱかったような言葉をかける。
しかし続けて重忠が「『鎌倉のため』とは便利な言葉だが、本当にそうなのだろうか。本当に鎌倉のためを思うなら、あなたの戦う相手は・・・」という言葉を、義時は皆まで言わせず「それ以上は」と止めるのだった──。
■ 時政 VS 重忠に視聴者悲鳴「胃がキリキリする」
死者数こそゼロだったものの、さまざまな嘘八百や詐欺のような手口の連続で、次なる悲劇への舞台が着々と積み上げられる状態だった第35回。
特に時政との戦が待ったなしの状態となった重忠に対して、SNSでは「胃がキリキリする」「今から三谷幸喜殿に命乞いの矢文を飛ばせば何とかならぬか!?」「本日の鎌倉殿の13人の死者は0でした。なお、来週はそれなりの心づもりが必要かもしれません」と、まったく安堵はできなかったという声が続出した。
なかでも視聴者がもっとも悲鳴を上げたのが、時政がなにも知らない実朝に、畠山討伐の花押を求めたシーン。花押を記すところまでは映らなかったが、この当時実朝はまだ(成長いちじるしいけど)12歳の子どもだし、自分の無断外出で祖父を心配させたのでは・・・という引け目もあって、おそらくはサインしてしまう流れになるはずだ。
この時政の詐欺行為には、「確認せずにホイホイ花押押しちゃう実朝、全成殿と実衣ちゃんにのびのびすくすく育てられたんだろうなってのが、最悪の形で表れてしまった」「大江さま、どうして実朝くんに『花押はほいほい書いちゃいけません。花押を書く時は必ず複数人の承認を得た後にしましょうね。もし突然花押書いてって頼まれたらそこんとこ複数人に確認しましょうね』って教えなかったんですか?」「これは周りの大人が悪い。なぜ目を離したー!」など、視聴者から悲痛な声が相次いだ。
またこの展開を受けて、「サインしたり印鑑押したりするときは、必ず書類の内容に目を通そうね、よいこのみんな!!」「毎年こんな感じでサインしてしまって大変なことになる若者がいる」「これは現代もそうだ。仕事のものでも、買ったものでも、どんなものでも意志確認の署名をしてしまえば己の責任になってしまうからな」と、人の振り見て我が振り直せ的な呼びかけも、数多くあった。
■ 政範の死因は? 史実のスキを突いた鮮やかな展開
とはいえこの元凶となったのは、時政を裏で操るりくと、平賀朝雅の暗躍だろう。特に、朝廷の手引で政範暗殺を決行しながら、目撃者である重保にしれっとその罪をなすりつけた朝雅のあざやかな手口には、「さすが宮廷政治をたしなむ人間は違う! えげつない!」「お前のせいで畠山一族が・・・」「平賀朝雅を許すなの会を設立したい」「こんな時に善児がいてくれたらと思う」と、ヘイトの声が続々と。
史実では、北条政範の死因はハッキリしたことはわかっていないが、当時の歴史書『吾妻鏡』には、朝雅が催した酒宴の席で「重保と朝雅が口論をした」という記述がある。三谷はこの「死因不明」と「争いの原因不明」という2つの曖昧な要素を重ねて、朝雅が政範毒殺→重保が目撃して朝雅を詰問→北条家(りく)に「畠山が怪しい」と讒言(ざんげん)する・・・という、あいも変わらず史実のスキを突いた、あざやかなフィクションを作り上げた。
SNSでも「史実の点を、毒○と解釈して脚色して線で繋いでいって大きな史実である畠山重忠の乱に向かっていく脚本に拍手しかない」「畠山氏と北条氏による武蔵国の支配権を巡る争いを背景に、北条政範の死をもって娘婿の畠山重忠と北条氏の関係を悪化させ、朝雅がおのれに有利に話を運ぼうとする。なんて腑に落ちる筋に持っていったのか!」と、感嘆の声が多数上がった。
来週はいよいよ「畠山重忠の乱」の回となるが、予告では久々に大掛かりな戦闘シーンが流れたうえに、重忠を演じる中川大志も、先日放送されたNHKの番組で「大河史上あまりないようなシーンになる」と予告。日本の歴史の中でも有数の名将のラスト、ぜひ来週この目に焼き付けたい。
『鎌倉殿の13人』の放送はNHK総合で毎週日曜夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夜6時からスタート。第36回『武士の鑑』では、実朝からの下文を得た時政が御家人たちを招集する一方で、板ばさみとなった義時の苦闘も描かれる。
文/吉永美和子
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