「情緒ズタズタ」謎のサブタイトルの真相に、SNS笑い泣き
三谷幸喜脚本・小栗旬主演で、鎌倉幕府二代執権・北条義時を中心に描く大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)。9月25日放送の第37回「オンベレブンビンバ」では、謎めいたタイトルの意外な正体が判明し、SNSでは笑い泣きの声があふれかえった(以下、ネタバレあり)。
■ りくを守るため、無謀な賭けに出ることを決めた時政
「畠山重忠の乱」をきっかけに、政から完全に締め出された初代執権の時政(坂東彌十郎)。怒りと焦りを覚えた時政の妻・りく(宮沢りえ)は、現鎌倉殿の実朝(柿澤勇人)を追い出し、娘婿の平賀朝雅(山中崇)を新しい鎌倉殿に据えることで、権力を取り戻すことを画策する。
今やりくだけが心の支えとなっている時政は、その無謀な企みに乗ることにしたが、京都にいる朝雅は鎌倉殿になることを渋り、すでに暗雲が立ち込める。
りくの提案で、北条家と縁の深い御家人・三浦義村(山本耕史)に協力を要請した時政だが、義村はあっさりと義時に事の次第を密告。しかし義時は、誰にも知られないうちにその企みを潰すのではなく、実際に謀反を起こすことで時政を討ち取る口実を作れるように、あえて泳がせることにした。
そんなときに時政がフラリと御所に現れ、尼御台・政子(小池栄子)、時房(瀬戸康史)、実衣(宮澤エマ)と義時を集めて、久々に家族だけの酒席を持ちかける。その席で酔った時政は「オンベレブンビンバ~」という謎の言葉を復唱。みんなが意味を問いただすと、政子の娘で今は亡き大姫(南沙良)が、時政に授けた呪文だと言う。
しかしその場にいた全員が「そんなのではなかった」と言い出し、あれこれ思い出そうとしたあげく、実衣の言う「ボンタラクソワカ」だったと全員が納得。しかし正しくは「オンタラクソワカ」であることが、ナレーション(長澤まさみ)から静かに告げられる。
その後、息抜きのために和田義盛(横田栄司)の館を訪れていた実朝の元を義村が訪問。そのまま時政の館に押し込んだ。それを聞いた義時は、息子の泰時(坂口健太郎)に、時政失脚以来お役替えをして、自分のそばに置いていたのは「父の覚悟を知ってもらうためだ」と告白。そして時政を謀反人として、討伐することを告げる。
その頃、時政は実朝に「出家して、鎌倉殿を平賀朝雅に譲る」という起請文を書くよう懇願していた。しかし時政の願いで下文に花押を押したことで、畠山重忠(中川大志)討伐の名目を作ってしまったという苦い経験をした実朝は、「義時と相談したい。母上にも会いたい」と拒否。実朝の心が動かないことを察した時政は、ゆっくりと刀を抜いた──。
■ 伊豆のころの北条家に一瞬だけ戻った、短い酒盛り
先週の予告で流れたサブタイが「オンベレブンビンバ」というあまりにも意味不明な言葉だったため、SNSではさまざまな考察が流れ、大喜利のハッシュタグまで作られるなど、予告段階ですでに大きな盛り上がりを見せていた第37回。あまりにも気になりすぎて、夜6時からのBS放送、通称「早鎌」をした視聴者も、いつになく多かったようだ。
そして早鎌終了そうそう、「まさかあれがオンベレブンビンバの正体だなんて・・・あんなもん泣いたわ!!」「オンベレブンビンバの正体もわかったわけですが、想定以上に情緒をズタズタにして来る三谷幸喜、人の心がない」などの言葉が即座にSNSに流れ、覚悟を決めて夜8時からの「本鎌」に挑んだ視聴者も、残らず心を撃ち抜かれることになった。
この言葉の正体は、第21回でりくの出産を祝って北条家の人々が集まった場で、大姫が「お祖父さまが元気になるおまじない」と言って唱えた真言を、時政が間違って覚えていたもの。この正体にSNSでは、「オンベレブンビンバが間違った大姫語だったというオチに、我々は1週間も振り回されたのか」「まさかのまじない言葉なんて誰が予想できようか。お空で大姫がガッツポーズして『誰もわからなかったでしょ』と視聴者を笑ってそう」と、してやられたというコメントが一斉に上がった。
しかもそこに、北条家の全員が「ウンダラホンダラゲー」「ピンタラポンチンガー」「プルップ」などと間違いを重ねていく(しかも変顔つき)という、コメディの王道といえる展開に、「北条家呪文うろ覚えコント」「一歩間違えたら放送事故」「北条新喜劇に長澤まさみのツッコミが映える」「一歩間違えればサブタイトルが『ピンタラポンチンガー』になるところだった」と、久々にコント状態となった北条家の人々に、なごんだという声が多数寄せられた。
■ 三谷幸喜による「笑い泣き」に、感情をかき乱された人続出
三谷幸喜は舞台作品でも、最も悲劇的な展開のときに、登場人物たちに最も愉快な言動をさせることで、観客を笑いながら泣かせる、あるいは泣きながら笑わせるような名場面を、いくつも生み出してきた。今回の「オンベレブンビンバ」コントもまた、北条時政とその子どもたちの、最後の一家団らんになるという、重要な局面で投げ込まれた「喜劇」だった。
この残酷と言えば残酷なシチュエーションに、視聴者からは「鬼! 悪魔!! 三谷幸喜!!!」「今週も三谷幸喜から週末を楽しんだ罰を受けた」「三谷幸喜の名前に幸せと喜ぶが入ってるのすら、嘘だろという気持ちになってくる」と、おそらく称賛を込めているものの、厳しい言葉も少なくなかった。
しかし逆に言うと、史実通りの地獄ロードに乗せる前に、せめてフィクションぐらいは笑いと幸福感に浸らせたい・・・という、三谷のやさしさの裏返しかもしれない。
実際SNSでも、「自分が悪いのを全部わかってて、失脚する覚悟も決めて、最後の最後に望んだのが『北条家の団欒』って。かつてこれほど泣ける牧氏事件があっただろうか」「笑いも悲しみもおかしみも苦しさも全部ぎゅうぎゅうに詰められている。すごい」「合戦とか暗殺よりも、コメディとか家族団らんを見せられたほうが逆に疲れる現象をオンベレブンビンバと名付けたい」など、感情を激しくかき乱されたという声が、深夜まで止まらなかった。
次週はいよいよ、時政パパとりくの退場が予想されるが、どのような敗北の花道を三谷がしつらえるのか、心して待ちたい。
『鎌倉殿の13人』の放送はNHK総合で毎週日曜夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夜6時からスタート。第38回『時を継ぐ者』では、時政の屋敷を義時や八田知家(市原隼人)らが包囲し、いよいよ北条家のお家騒動がクライマックスを迎える。
文/吉永美和子
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