大阪を代表するミニシアター、「テアトル梅田」閉館に思うこと

2022年9月30日をもって閉館する大阪のミニシアター「テアトル梅田」(大阪市北区)
2022年7月19日、大阪の映画関係者に衝撃が走った。関西のミニシアター文化を牽引してきた映画館のひとつである「テアトル梅田」がテナント契約の終了を理由に、9月30日閉館を公表したのだ。
そのとき多くの人の頭をよぎったのが、コロナ禍での経営悪化を理由に7月29日に迫っていた東京「岩波ホール」閉館のニュースだった。東西の代表的ミニシアターが姿を消してしまう。それはひとつの文化の衰退を感じさせずにはおかない出来事だった。
取材・文/春岡勇二
●初めからミニシアターだった「テアトル梅田」
「テアトル梅田」がオープンしたのは、1990年4月19日。以来32年もの間、メジャー系の大きな映画館にはかかりにくい、名作・佳作・話題作を邦洋問わず上映してきた。新作ばかりでなく、ひとりの監督や俳優の過去作を集めた特集上映や、少しマニアックなジャンルの作品を集めた、例えば「日本の音楽映画特集」のようなプログラムもあった。32年間の上映本数は2000本を超える。

そもそも「ミニシアター」とは、芸術的には素晴らしいがヒットが見込めない、新人監督でネームバリューがない・・・といった理由でこぼれ落ちていた作品を上映する、メジャーの影響下にない独立的な映画館のこと。ほとんどが客席数60~150席だけれど、埋もれる可能性のあった作品に光をあて、過去の名作の特集上映などもおこない、日本の映画文化の向上に大いに貢献した。
1990年4月の段階で、大阪にもミニシアターの前身的な、いわゆる単館アート系作品を上映する映画館はいくつか在った。北浜三越デパート内の「三越劇場」や、梅田の「シネマ・ヴェリテ」、それに「扇町ミュージアムスクエア」など。ただ、そのどれもが既存施設の改築や後身だったのに対し、初めからミニシアターとして誕生したのが、この「テアトル梅田」だった。そのインパクトは大きく、大阪にも新たな文化の波がついに押しよせ、そしてここから始まることを強く感じさせたのだった。
●「旧態依然とした『劇場』が淘汰される時代」
ここに「祝!10年、時代と映画の併走者」と書かれた文章がある。2000年4月、「テアトル梅田」開館10周年で作られたリーフレットに、僕が書かせてもらったものだ。そこには塚本晋也、阪本順治、相米慎二など、上映の際に会った多くの映画人の名前を書き、「テアトル梅田」10年の歴史は僕の財産でもある、なんて書いている。その思いは今も変わらない。

そのリーフレットには、当時の松川孝雄支配人の文章も載っていて、そこには「シネコンの台頭、IT革命によって映画興行のあり方そのものがドラスティックに変化し、旧態依然とした『劇場』が淘汰される時代にあって、営業年数の長さやミニシアターの老舗といったプライドは何の意味も持たないことはもはや明らかです」と書かれている。
そして、「これから踏み出す新たな10年こそがテアトル梅田にとっての真の始まりです」と結ばれている。2000年の段階で、シネコンの台頭、映画興行の変化に危機感を示し、劇場はやさしさや温かみに満ちた個性豊かな空間でなければならないと説く。松川支配人が真の始まりとした10年の倍以上、22年の歴史を「テアトル梅田」が刻んできたことは、この劇場への提言が実践されてきた証だろう。
●「シネ・リーブル梅田に集中して地域活性化」
現支配人の木幡明夫さんは、閉館の理由に経営資本の再編と地域活性への貢献を挙げる。「テアトル梅田が誕生したとき、ここ茶屋町界隈は梅田の繁華街の外れで、まだ人通りもまばらなところでした。そこにロフトとともにテアトル梅田ができ、人の流れが少しずつ増えてくると、やがて周囲にファストフードのお店や大型書店の入るビルなどが建ち並ぶようになり、外れから繁華街の一角へと変わっていきました」という。

そして、「その一方、少し離れてはいますが、ここ大阪の同じ梅田地区に、4スクリーンを有するシネ・リーブル梅田という弊社が運営するもうひとつの劇場が在ります。その隣接する地域は大阪駅北側にあたり、大規模な再開発が進められています。そこで、現時点でシネ・リーブル梅田に資本を集中させることによって、かつてテアトル梅田が果たしてきた地域活性化がまたできるのではないかと考えているんです」。
地域貢献は映画館の存在意義のひとつだし、「テアトル梅田」が茶屋町においてその役目を果たしたとするのは理解できる。けれど、それでもあえて言わせてもらう、閉館はやはりさびしい、と。
「テアトル梅田」であの映画に心震わせた。あの人と「テアトル梅田」に観に行った。あのロフト前の階段をわくわく、ドキドキしながら降り、そして感動に浸りながら昇り、ずっと映画のことを思いながら帰った・・・。そんなかけがえのない思い出が、関西の、数多くの映画ファンの胸にある。その記憶がなくなることは決してない。「テアトル梅田」、32年間、ありがとう。
◆「テアトル梅田」
閉館する9月30日まで、パルム・ドールを獲ったミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』(2010年)、『最高の離婚』『大豆田とわ子と三人の元夫』で知られる脚本家・坂元裕二が書き下ろした『花束みたいな恋をした』(2021年)、岸井ゆきの&成田凌が出演する『愛がなんだ』(2019年)などを上映するさよなら興業『テアトル梅田を彩った映画たち』が開催中(最終日はすべて満席)。
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