「かわいい悪女」貫いたりく、宮沢りえに賛辞の声【鎌倉殿】

2022.10.4 06:45

北条館・りくの居室にて。夫・北条時政(坂東彌十郎)にあることを迫るりく(宮沢りえ)(C)NHK

(写真5枚)

三谷幸喜脚本・小栗旬主演で、鎌倉幕府二代執権・北条義時を中心に描く大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)。10月2日放送の第38回『時を継ぐ者』では、義時の父・時政とその妻・りくがついに鎌倉を追放され、表舞台から退場。特に視聴者の心を翻弄し続けた、りくを演じる宮沢りえへの賛辞の声がSNSで多数上がっている(以下、ネタバレあり)。

■ りくとの対話をきっかけに、執権となることを決めた義時

夫の権力を取り戻すために、娘婿の平賀朝雅(山中崇)を鎌倉殿に据えることをもくろんだりく(宮沢りえ)。時政を焚き付けて、実朝(柿澤勇人)を北条の館に押し込めるところまでは成功したが、2人の意に反して、実朝は出家の起請文を書こうとしなかった。企ての失敗を悟った時政は、りくに館から逃れるよう説得。りくは無言で涙を流しながら承諾する。

三浦義村(山本耕史)のはからいで、「尼御台」こと長女・政子(小池栄子)の元に逃げ込んだりくは、夫の助命を嘆願。自害をはかった時政は、すんでのところで八田知家(市原隼人)に助けられた。

当初は、ほかの御家人たちに示しがつかないとして、時政の首をはねるつもりだった義時だが、政子や息子・泰時(坂口健太郎)、なによりも実朝の強い願いもあって、命までは奪わず、故郷の伊豆に追放するという処分にとどめた。

しかしりくの存在が、再び争いの種になることを危ぶんだ義時は、暗殺者のトウ(山本千尋)に、りくの殺害を依頼。下女に化けてりくに近づいたトウだが、義時の妻・のえ(菊地凛子)の来訪でペースを崩されたうえ、続けて現れた義村に正体を暴かれ、暗殺は失敗する。

義時(小栗旬)の命でりく(宮沢りえ)を暗殺しにきたトウ(山本千尋)、義村(山本耕史)に気づかれ激闘に (C)NHK

この騒ぎが義時の差し金であることを察したりくは、挨拶に来た義時に「私はもう、あなたのお父上をたきつけたりしない」と約束するとともに、義時に二代執権を継ぐよう発破をかけ、時政のいる伊豆へと発った。

りくとの対話をきっかけに、父の後釜につく決意をした義時が手始めにおこなったことは、この最悪の事態を招くきっかけとなった朝雅を討つことだった。京の御家人たちに下文を出して、その目的を成し遂げた義時だったが、鎌倉が朝廷を通さずに大勢の武士を動かしたことに、後鳥羽上皇(尾上松也)は激怒。新たな執権となった義時の名前を、憎々しげに吐き出すのだった──。

■ 強い愛情と無邪気さをキープし続けた宮沢りえ

「時政パパ」こと北条時政と運命をともにして、鎌倉を去ることになった「牧の方」ことりく。美貌と媚態で夫をたらし込むという、ファム・ファタール的な役割はもちろん、時政を「単なる人のいい田舎の親父」設定にした分、ダーティな部分をかなり背負い込むことになった。

そんな荷が重すぎるキャラクターを、10代の頃からの変わらぬ美貌と、蜷川幸雄や野田秀樹などの名演出家たちに鍛えられた演技力で、十二分に体現したのが宮沢りえだ。

りくについて、かなり初期の段階で「ただの『悪女』じゃないし、また違う人物像が描かれるのではないかな」(公式インタビューより)と予想をしていた宮沢。確かに、ただただ権力を欲する毒婦というより、いつまでも「しい様」と慕う夫と少しでも高い景色を見たくて、一生懸命がんばるあまりに全然周りが見えなくなってしまう・・・という役回りだったように思える。

第37回より。政子(右、小池栄子)に「何もかも、思い通りになると思ったら、大間違い」と憤るりく(宮沢りえ)(C)NHK

SNSでも、りくが何かをやらかすたびに「全部大泉のせいではなくて、全部りくのせい」「日本三大悪女を占めていた北条政子の座は、りくへと無事委譲されました」「昔ののどかな北条家を帰して」などのアンチな言葉が数多く飛び交ったが、それに反して宮沢へのヘイトなコメントを見ることはほぼなかった。

腹が立つほどストレートな思考回路と言動の底部に、強い愛情と無邪気さを崩すことなくキープした、確かな演技が受け入れられていた証だろう。

実際に、時政に鎌倉を離れるよう説得されたときに、いつもなら夫の何十倍ものボキャブラリーで言いかえしそうな所を、一言も発することなく時政を見つめるシーンには、「めっちゃ必死に涙をこらえるりくさんで涙腺決壊」「りくが政争に負けた悔し涙でないのが良いんですよ。あの涙は『しい様』の為に流した涙なんですよ」「『時政が私を守るために嘘をついている』と分かって、唇を噛み締めて涙を流すりくさんの壮絶な美しさ」と、圧倒された声が続々とSNSにあがった。

■ 変わったけど変わらない…「かわいい悪女」貫いたりく

しかしその後は一転、政子と実衣(宮澤エマ)との女子トークでは相変わらずマウントを取ったり、義時に権力をつかむように煽ったりと、最後まで「かわいい悪女」キャラを貫いたりく。

視聴者からは「野心を隠さないのに美貌と愛嬌でどうしても憎めないさまが大好きだったので、変わったけど変わらないまま去っていったのがかなりうれしかった」「ちゃっかり生き延びて、にこやかに小四郎(義時)とはなむけ合戦して去っていくの、あーもー、りくさんらしいわー! と泣き笑いでお見送り」「時政を焚きつけ続けた結果の今なのに、殺そうとした小四郎と最後まで渡り合う気の強さにある意味感心する」と、さわやかに退場を見送る声があふれた。

第37回より。ある企みを時政(坂東彌十郎)にけしかけるりく(宮沢りえ)(C)NHK

また、りくを演じた宮沢にも「宮沢りえさんのりくさん、シェイクスピア感あった。舞台女優としての気迫がドラマチックさ倍増だった」「宮沢りえさんが演じたからこその、強さ、気高さ、可愛らしさ、軽妙さ」「宮沢りえ様の麗しさが、退場の回で最高になるように作劇されてるの素晴らしいな」「宮沢りえさん九尾の狐役やって欲しい、全力で国を傾けて欲しい」と、その傾国ぶりと演技力への称賛が止まらなかった。

ちなみに史実の牧の方は、時政の死後、朝雅が殺害されたあとに、別の貴族と再婚した娘を頼って、結局京都に戻っている。時政の十三回忌法要での振る舞いを、あの「百人一首」を編さんした藤原定家にディスられ、さらには義時や政子より長生きしたという説もある。今回の三谷幸喜&宮沢りえ版「牧の方」で想像すると、なんとなく納得できる話だ。

『鎌倉殿の13人』の放送はNHK総合で毎週日曜夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夜6時からスタート。10月16日放送の第39回『穏やかな一日』では、義時の新体制や実朝の後継者問題に、鎌倉の人たちが揺れる様が描かれていく(9日は鎌倉殿スペシャルトーク番組を放送)。

文/吉永美和子

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