神戸の異端児「太陽と虎」は、なぜこんなにも愛される?
2010年の寅年にオープンした、「タイトラ」の愛称で親しまれる神戸の高架下ライブハウス「music zoo KOBE 太陽と虎」が2022年で12周年を迎える。これを記念したフェス『MUSIC ZOO WORLD 2022』が、11月5日・6日に「神戸ワールド記念ホール」(神戸市中央区)にて開催される。
同イベントには「太陽と虎」と深いかかわりのあるアーティスト全24組が出演するが、その大トリを務めるのがライブハウス開業とほぼ同時期の2009年に結成し、関西から全国へと羽ばたいた5人組ロックバンド・キュウソネコカミだ。
そこで今回、キュウソネコカミのヤマサキセイヤ(Vo&G)とヨコタシンノスケ(Key&Vo)、「太陽と虎」の名物園長・風次さんという気心の知れた3人に、タイトラの思い出や同イベントの楽しみ方を訊いた。
取材・文/服田昌子
■ 「タイトラ」で培われた、唯一無二のライブパフォーマンス
──キュウソネコカミ(以下、キュウソ)と風次園長の関係はいつからですか?
ヨコタ「キュウソの初ライブが風次さん(が担当)でしたね。(風次さんが当時勤務していた神戸のライブハウス)スタークラブでした。でもすぐに風次さんがそこを辞めて・・・2010年にタイトラができたとき、やっぱとんでもないな!ってめっちゃ思った(笑)。『音楽動物園』っていうコンセプトとか、ジャングルみたいな内装とか」
セイヤ「イカれてるというか」
風次「作るんやったら、イカれなアカンやろ(笑)」
ヨコタ「神戸ってライブハウスが多くてカラーも分かれてるんですけど、それを特に楽しんでる感じではなく、お互いがカラーを守ってやってるという感じ。でもそこでタイトラは殴り込みじゃないけど、楔(くさび)を打ち込むぞ!っていう雰囲気だった。僕らも当時、神戸でそんな感じで・・・出たイベントで1番目立ちたい!みたいな」
──バンドの勢いが「太陽と虎」と似ていたんですね。
セイヤ「僕らのライブの定番でもある、『ヤンキーこわい』(キュウソの『DQNなりたい、40代で死にたい』)のコール&レスポンスを初めてやったのがスタークラブ。でも当時は誰もついて来んくて」
風次「そらそうやろ。無名のバンドのコール&レスポンス、誰も知らんし(笑)」
セイヤ「そこでオーバーグラウンドの音楽にないものを培えたというか。地下芸人みたいに段ボールを出したりしてるバンドはいなかったし、それじゃ無理やろって周りは思ってたやろうけど、いざ表(オーバーグラウンド)に行ったらそれが意外とウケた」
風次「そうやねん、ウケる予定じゃなかったのに(笑)。でもおもろかったんで、僕としてはキュウソに壊れないオモチャとして近くにいてほしかったのに。思ったよりちょっと遠くに行き過ぎや。だから早く落ちて来んかなって楽しみにしてる」
セイヤ「いつ会っても『待ってるからね』って言われる(笑)」
──コール&レスポンスや段ボール芸、人間やぐらなど、ファンと一体になれるキュウソのエンタテインメント溢れるライブスタイルは「タイトラ」で培われたんですね。
ヨコタ「タイトラに出だした頃(2010年頃)、キュウソはお客さんを呼べないけど、風次さん的に『おもろい奴ら』として僕らをいろんなライブにねじ込んでくれてて。まだクリープハイプが今ほど世に出てない頃、トリがクリープハイプで、僕らが1発目で出たりとか」
風次「見返したけど、クリープハイプとのライブは1800円ぐらいのチケット代でやってたわ(笑)」
セイヤ「あとは全然お客さんがいないとき、段ボールに身体を突っ込んだあとに『誰もが~♪』って浜田省吾さんの『悲しみは雪のように』のサビを口ずさみながら立ち上がる、っていうのにハマってたのを思い出した(笑)」
ヨコタ「懐かしい(笑)。でもほんまに、対バン相手にもライブハウスのスタッフさんにも、タイトラを好きなお客さんにもナメられたくなかったんですよね。ほんまに戦いで。『やったったな!』って思われたくて、生まれたのがそういうパフォーマンス。やっぱ『何やねん!』っていうことありきなんですよ」
風次「うん。俺もめっちゃ野次ってたしな」
ヨコタ「普通に『おもろないから早く次行け!』って(笑)。で、『こらこらこら!』ってところまでやらしてくれるから成立するけど、そんなんやられたことない県外のバンドは泣いちゃうから(笑)」
セイヤ「でもそんな県外のバンド用にオーダーシートみたいなのもあって、そこで『野次ナシ』に丸ができる(笑)。一応タイトラは全国ツアーのちゃんとしたバンドも来るからって」
──そんな事前アンケートみたいなものがあるんですね(笑)。
風次「そう。イジったらあかんバンドをイジると来なくなるんでね(笑)。でも昔それで全然出てくれへんようになったバンドも、今回のイベントに10年ぶりぐらいに出演してくれることになって・・・クリープハイプっていうんですけど」
ヨコタ「そう考えたらすごい! でも、よっぽどやったんですかね(笑)?」
風次「ちゃうねん。当時若かったし人の話なんか聞いてなかったんや。松原と言うツッコミの相方がいて、打ち上げでボケを強要してくんねん。最終的に『俺の方がおもろい!大会』になってて、関西のバンドはまだいいけど、県外のバンドは『おもろい!』と思うか、『ボケのパワハラ』と思うかで、完全にきつかったねんな〜」
──なるほど。
風次「今、僕らも大人になったし、人の声にも耳傾けれるようになったんで、クリープハイプにはあの頃を経て・・・『ごめんね。もう松原も死んだし打ち上げも大丈夫だよ!12年で僕ら大人になっちまったよ』と思いを届けられたらとおもってます」
■「風次さんは、僕らより生き方がパンクで無茶苦茶」(セイヤ)
──「太陽と虎」のノリは、お客さんも含め独特ですもんね。
ヨコタ「でも今の時代、そういうバンドって出にくい気がします。みんなちゃんとできてるから」
セイヤ「あと、青田買いが早い。もうデビュー? みたいな。下積みをやり切る前に取られていく」
ヨコタ「そうやな。現場で売れない期間が足りてないと、『そこ(現場の力)がついてないままデビューしたんやな』ってなんとなく感じる。そういう意味ではめっちゃライブハウスでやってきた甲斐があった」
風次「下積んでたもんな(笑)」
セイヤ「お金もなくて、楽屋に置いてあった『鬼ころし』しか飲めんかったけど(笑)」
ヨコタ「全然お客さんを呼べなかったとき、風次さんは怒るんじゃなく、『お酒が好きなんやったら、その分お前らがバーカン(ライブハウスのバー)で酒飲んだらいいんちゃう?』って。その通りやわと思って、帳尻合わせてました(笑)」
──思い出も方針も、園長にまつわる話はどれもユニークですね。
風次「自分が感じたことしか言えないし、おもろい方がええやん!っていう。ずっとライブハウスで働いてきて、いろんなバンドを見てきたけど、ブッキング(担当)の言うことを聞いたら売れるわけじゃないし、もう疑っていけよ!という」
セイヤ「この感じがやっぱ愛されると思うんすよね。付いて行きたい兄貴みたいな部分。全然、僕らより生き方がパンクで無茶苦茶なんすよ。チャリで仙台から神戸まで走破したり、大分のライブハウスの店長にひと言言いたいがためだけに、大分まで行ったり」
風次「いらんことしないとね。ま、音楽自体もいらんことかもしれんし」
セイヤ「あと、メキシコから留学生が来て、その子がおもろいからって一緒に住んだり。それで怖かったんが、その子がメキシコに帰る日、タイトラのスタッフが『風次さんメキシコ行くぞ、なんか付いて行こうとしてるぞ!?』ってザワついてた(笑)」
風次「行ったらおもろいかなと思って。辞め方としては、それが1番美しいなと思ったんやけど。でも、いつかメキシコに2号店を・・・。ライブハウスってやっぱルーティンで、何か未来におもろいことがないとやっていけないんで。そんなんも含めて今回の12周年のイベントもやるんです。本来なら別にやらなくてもいいし、今は特に店の経営もよくないんで、わざわざリスクを背負ってやることではないんですが、ま、やるしかないんかな」
■ 「バンドに元気をもらえるから」12周年の寅年を祝うフェス
──そんな12周年記念フェス『MUSIC ZOO WORLD 2022』。「リスクを背負って」という言葉も出ましたが、開催への原動力とは?
風次「何やろうな。結局、イベントやるごとにバンドに元気もらったり、力もらったりしてきて。『MUSIC ZOO WORLD』も、タイトラが9年目の年に第1回をやって、そのときはちょうど社長(前園長の松原裕氏。2019年に他界)がガンの闘病中で、キュウソがライブで『日本で1番明るいガン患者になれるよ!』みたいなことを言ってくれたりして力をもらって、ほんまに余命が延びるくらい生きたんで・・・そんなんもあったり」
──そうでしたね。
風次「もちろんイベントやるのは大変なんですけど、(開催すると)もう1年頑張れる気持ちになるというか。今回は12周年なんで、出るバンドに『あと12年やれよ!』って思うし、自分らも『あと12年続けなあかんな!』って思えるんで、まあやるしかないかって・・・。でも思ってたより出演者みんな売れてて、『え、こんなにギャラ高いんか! そらタイトラでやられへんわ』ということで、ワールド記念ホールになりました。キャパ250人のライブハウスが神戸最大キャパで」
全員「(笑)」
ヨコタ「でもほんまにすごいメンバーが出るから」
風次「岡崎体育以外はパッと(決まった)。岡崎体育はもうすぐドラマの撮影の方が、って」
セイヤ・ヨコタ「あ~(笑)」
■ 大トリを託され、「やっぱり特別なものにしたい」(ヨコタ)
──キュウソのおふたりは、気になる出演者はいますか?
セイヤ「オープニングアクトの猫背のネイビーセゾン、音源聴いたんですけど、かっこよかったです」
ヨコタ「いいね。『このあとの12年頼むで!』っていう。次世代がちゃんとライブハウスでつながってる。僕らからすると、超能力戦士ドリアンがそう」
セイヤ「(ポスターを見て)これ、八八(八十八ヶ所巡礼)か! うぉ。めっちゃ久しぶりに会える、うれしい!」
ヨコタ「今回の出演を発表したとき、キュウソでエゴサしたら反応がでかかったのが八八。『ついに八八とキュウソが同じイベント出るやん!』って。僕らみたいなのを見に来た人にこそ、絶対見てほしいっすね。見たらもうたまげると思うから」
風次「もう(バンド名の)ロゴとか読ます気ないからね(笑)」
ヨコタ「なんかこういう八八とかが出る感じが、タイトラのイベントって気がしますね。この並びで成立するのは神戸やから。なんかこのメンツのなかに僕らがいることがうれしい」
──ちなみに2日目のトリはキュウソネコカミだそうで。
ヨコタ「今日、それを聞きました」
風次「でも、もう無理やったら断ってくれてもいいし」
ヨコタ「いや、ありがとうございます!(笑)。なんかよくわからん関係性のなかでのイベントのトリは嫌なんです、僕らそういうバンドじゃないし。でも、今回は抜擢してくれた人の顔を知ってて、やっぱり特別なものにしたいなと思うんです」
セイヤ「そうやな」
ヨコタ「ほかのバンドも結構同じ気持ちじゃないかな。それは、松原さんがいて、園長が松原さんから風次さんに代わって、そこからまたコロナ禍を経て12周年になったときのイベントのトリってことは・・・俺たち頑張らな!って」
セイヤ「でも、なかなかキツいけどな〜」
風次「何がやねん? 進化するときやろ! こっから生まれ変わるんやろ!」
ヨコタ「アツいな〜(笑)。いや、いろんなやり方で成長してきたつもりではあるんですけど、でも、どこを何を1番頑張れば、今回ちゃんとやり切ったなって言えるのかがわからなくて」
風次「いや、何やっても正解やから、結局」
セイヤ「心持ちは、さっき言ってた浜省をやってた頃の感じで肩の力を抜いてるんですけど、演奏とかライブの運び方とかは、ちゃんとメジャーで培ったものを、と思うんです。でもトリだから、神戸だからとかいって固めすぎたらたぶんいいライブができない。『タイトラの12周年!』というのを背負い過ぎずに、らしさをちゃんと出して自由にやりたいですね」
風次「ま、そうですね。(昔と同じく)10人ぐらいにウケたらいいと思います」
セイヤ「それ、浜省結局やってもーてるやん(笑)!」
◇
『MUSIC ZOO WORLD 2022』は11月5日・6日に「神戸ワールド記念ホール」にて。チケットは1日券が7777円、2日券が15000円。
『MUSIC ZOO WORLD 2022』
日程:2022年11月5日(土)・6日(日) 時間:10:30開場、11:30〜20:00頃予定 会場:神戸ワールド記念ホール(神戸市中央区港島中町6-12-2) 料金:1日券7777円〜、2日券15000円〜(ともに1ドリンク付き)
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