京都人、無言の抵抗?「いけず石」…当事者側の言い分を聞いた

2022.12.4 07:30

京都の街中で見かけた…「いけず石」

(写真2枚)

車1台通るのがやっとな細い道も多くあり、碁盤目状に規則正しくみっちり建物が並ぶ、京都の街中。そこで目についたのが、道の淵に置かれたほど良く存在感のある石。調べてみると「いけず石」と呼ばれているものらしい。

京言葉で「意地悪」という意味の「いけず」という、なんとも鼻につく命名をされた石たち・・・。呼ばれ始めたキッカケは諸説あるが、車をはじめ観光客のスーツケースなどによる家屋の接触事故を防ぐために置かれているものだという。実際に細い道にどどんと鎮座するその様を見ると、正直・・・邪魔である。

しかしこの石、本当に「いけず」なのか? そこで今回は生まれも育ちも京都、生粋の京都人ライターに話を聞いてみた。

ライターAさん(50代女性)は、今や屈指のオフィス街・烏丸御池(京都市中京区)からほど近い商家に生まれた。車より自転車やリヤカーなどが多く行きかっていた当時、自宅近くに建つ町家の角に大きな石が置かれてるのを見て、明治生まれの京女である祖母に「これは何?」と尋ねたことがあったという。

すると「あれは、リヤカーや車が角を曲がる時に家の壁や縁石を傷つけんよう、気を付けて通っておくれやす、っていう意味で置いてあるんや」との答えが返ってきたそうで・・・。

──物心ついたときから、「いけず石」が生活のなかにあったと。当時と比べ、今はいけず石ってどうなっているんでしょう?

自転車より車の通行が増えるにつれ、コーナーに石を置く家は増えていったように思います。私自身が自動車を運転するようになって、より目につくようにもなったのかもしれませんが、ちょうどその頃・・・昭和50年後半頃に、その石が巷では『いけず石』と呼ばれていることを知りましたね。

──「いけず石」と呼ばれてることについて、京都人として率直にどう思われましたか?

「車が塀や縁石に当たったらどっちも傷いくし、そうなる前に注意喚起してるんは『いけず』と違って『親切』やん。むしろ親切石と呼んでほしいわ」とか、「京都の道は狭いんやから、下手な人は車で通ったらアカンねん。それに、もしもの時でも、石があったら家は傷いかへん。車だけの被害で済むんやんなぁ」って、幼馴染と盛り上がったりもしましたね(笑)。

──でも一理あります。そもそも、なぜ「石を置く」というちょっと分かりにくい形で、 張り紙などはされないんでしょうか。

京都人はそれができないんですね。家に張り紙や看板を掲げようものなら世間体が悪いと親に泣かれる。壁や塀が傷ついたことを騒ぎ立てて警察を呼ぼうもんなら、次の日からその家は「◯◯さん」ではなく、「昨日、塀に車ぶつけられて大騒ぎしはった家」と近所から呼ばれるようになってしまいますから。

──そうなんですね・・・。

もしかしたら「いけず石」は、「京都人がいけず根性で置く石」の省略形ではなく、「近所の人にいけず口を叩かれるのを避けるための石」なのかもしれないですね。人目を気にしながら、狭い街で、親切石(いけず石)のようなテクをいくつも使い分けながら、日々を淡々と暮らしていますよ。それを窮屈と思う方は京都嫌いになるし、ライフハックととらえる人は京都好きになるのではないでしょうか。

「いけず石」と名付けられた石だが、言葉とは真逆の「親切心で置いている」ということが、京都在住者からの主張だった。今や「いけず石」のほか、「いけず棒」(金属製の丈夫な手すりみたいな棒)たるものもあるそう。また「いけず」は「意地悪」ということではなく「これ以上先へ行けない」という意味だという説も・・・。ひとまず、京の細道にはお気をつけて。

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