スーパーに馴染んで60年、派手さじゃない「すしのこ」の訴求力

2022.12.30 07:15

2023年で発売60周年を迎える「すしのこ」

(写真5枚)

スーパーでおなじみ粉末すし酢「すしのこ」のパッケージが、11月にキラキラのイブニングバッグになって英国発のバッグブランド「アニヤ・ハインドマーチ」から発売された。SNSでは「なぜすしのこに目をつけたの・・・」という驚きの声が噴出。日常品を捉え直すというアイデアバッグのモチーフに選ばれた「すしのこ」とはどんな商品なのか、「タマノイ酢」(本社:大阪府堺市)を取材した。

■ 60年前の「粉ブーム」から生まれた商品

いつもの水加減で炊いた温かいご飯(パックごはんでもOK)に、サラサラと「すしのこ」をふりかけて混ぜれば、子どもでも(誰でも)ツヤツヤのすし飯が作れる同商品。まず頭に浮かぶのは、なぜすし酢を粉にしたのか・・・。長きにわたって開発に携わる谷尻真治さんに話を訊いてみた。

水分量の少ないパックご飯でも、問題なく「おいしいすし飯」を作ることができる「すしのこ」

「すしのこができた60年前は、酢はカメ(壺のようなもの)納品されていました。カメだと保存も効かず、割れることもあったので、自然な発想で粉にすることになったと聞いています。また、昔は液体酢は酒屋に卸していたので、スーパーで売れるような商品を開発したのがすしのこでした」

「あとね、すしのこと同い年くらいの商品がたくさんあるんですよ。たとえば丸美屋さんのふりかけ『のりたま』とか、永谷園さんの『お茶漬けの素』とか。だから当時、そういう粉末にするのが流行っていたのかもしれませんね」と、当時の粉末化ブームについて振りかえる谷尻さん。

「タマノイ酢」で現在は研究所での開発事業に携わる谷尻真治さん

■ 「ものすごい数は売れないけれど、毎日確実に売れる商品」

今回バッグになったすしのこのパッケージは、60年前に発売されたときから変わっていない。当時の資料が残っていないので、誰がデザインしたのかはわからないと言う。パッケージが変わらない理由について、「今使ってもらっているユーザーさんは、お母さんやおばあちゃんが使っていたから使っているという方が多い。結婚してスーパーに行ったら『これ家にあったやつやわ』って買ってくださいます。だから見慣れたパッケージを変えられない」と話す。

英国発「アニヤ・ハインドマーチ」とコラボしたイブニングバッグ

そんなパッケージのすしのこは、スーパーの棚にいつも並んでいる。すしのこを使ったことがなくても、見たことがあるという人は多いだろう。アニヤ・ハインドマーチが「ありふれた日常品」としてバッグにした理由はそんなところにあるかもしれない。

「新商品が出る季節に、すしのこをいったん棚からはずすと、お客さんから『なんで、すしのこがないの?』とクレームがくると聞きます。ものすごい数は売れないけれど、毎日確実に売れる商品。スーパーからしたら、棚からはずせない厄介な商品らしいです(笑)」と、スーパーの棚からなくならない理由を明かした。

■ 【おまけ】すしのこエピソード「お嫁に行くと・・・」

そして、谷尻さんが入社してすぐに目にした、忘れられない「消費者からの手紙」についても教えてくれた。

「昔はお嫁に行くと大変だったみたいです、家族みんなが一世帯に暮らしていたので。そして当時は、家族で『手巻きずし』を食べることが主流でしたが、20歳くらいではまだ若く、すし飯などうまく作れない。何回作っても、べちゃべちゃになったりして誰もおいしいと言ってくれない。でもある日、すしのこで作ったら、みんながおいしいと食べてくれ、やっとこの家の一員になれたと思った。ありがとうございます!と書いてあったんです」

粉なので、水分ですし飯がベチャベチャになってしまうことはないという

現在は研究所で開発に携わる谷尻さん。「本当に喜んでくれているのが、手紙を読んでわかったんです。だからその人の人生とか生き方に関わる商品を作っていると思うと、気持ちが変わりました。すしのこみたいな商品は、あると便利だと使ってもらえますが、アンケートしても出てこない商品です。出されて初めて『こんな商品が欲しかった』と言ってもらえる。そんな今までにない画期的な新商品を作りたいと思って、現在開発中です」と力強く語った。

取材・文/太田浩子

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