宝塚歌劇 鳳月杏の多面的な魅力が溢れる主演作開幕

2022.12.3 17:50

ロレンシオ(中央・鳳月杏)が酒場の仲間に見せる顔は明るく、みんなの人気者。右は彼を兄貴と慕うセシリオ(彩海せら)

(写真5枚)

舞台人としての期待を常に超えてくる宝塚歌劇団月組男役スター・鳳月杏(ほうづき・あん)の主演作、月組公演『ELPIDIO(エルピディイオ)』が、「梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ」(大阪市北区)で3日に開幕した。

スペイン帝国が終焉を迎えた20世紀初頭のマドリードを舞台に、国が抱える問題を提起しながら、ときにコミカルにときにシリアスに展開していく本作は、作・演出・振付を担う謝珠栄(しゃ・たまえ)ならではのプリミティブなダンスが随所に登場。本格的なフラメンコや、幻想的な音楽も効果的で、国の現状を憂い、世の中を変えようとする人々の想いが、芝居巧者が揃う月組生たちの熱演から伝わってくる。

そんな人々に寄り添うような詩を、ELPIDIOというペンネームで新聞に投稿しているのがロレンシオ(鳳月)。彼の過去は謎めいていて、つらい出来事があったのが想像できる苦悩の表情と深みのある歌声に引き込まれる。近年、歌の表現力がさらに増している鳳月だが、本作ではその歌声をたっぷりと聴くことができる。

ある夜、突如さらわれたロレンシオは、自分と瓜二つである軍の大佐・アルバレス侯爵の身代わりを引き受けることになり、思いがけず帰ってきた侯爵の妻・パトリシア(彩みちる)の前でも「芝居」をすることに。侯爵を真似た早口に高い声、威圧的な態度をとればとるほど面白く、秘書官のゴメス(輝月ゆうま)や使用人のアロンソ(蓮つかさ)の慌てぶりも手伝って、抱腹絶倒の場面となった。

専科の輝月ゆうま(左)、月組の演技派・蓮つかさ(右)と鳳月との息の合ったコミカルな芝居が楽しい
専科の輝月ゆうま(左)、月組の演技派・蓮つかさ(右)と鳳月との息の合ったコミカルな芝居が楽しい

福祉活動にも従事する教養深いパトリシアは、次第に彼が夫の偽物だと気づき、同じ思想を抱く優しいロレンシオに惹かれていく。鳳月の目や仕草だけで感情を伝える男役としての高いスキルと包容力、彩が自然に放つ名家出身の品格と芯の強さ、2人のキャリアと個性が合致して生まれたような、ナチュラルな愛の表現にもドキリとさせられた。

今年『グレート・ギャツビー』新人公演でも主演を果たした彩海せらは、家族のいない孤独な身でありながら影よりも光をまとう青年セシリオ役で、存在感を発揮。酒場Caminoの主人役で場を盛り上げる千海華蘭、その娘の愛らしいベニータ役のきよら羽龍など個性豊かな人物たちが、労働者の憤り、女性の社会進出など幅広いメッセージを歌とダンスも織り交ぜて届け、「嘘と真実」をテーマにした物語は、陽気なスペインの祭りへと行き着く。

初めて芝居で相手役として組んだ、鳳月杏と昨年雪組から組替えしてきた彩みちる。嘘から始まる真実の愛を熱演
初めて芝居で相手役として組んだ、鳳月杏と昨年雪組から組替えしてきた彩みちる。嘘から始まる真実の愛を熱演

さらに一気にフィナーレへと突入し、内から溢れ出るような月組の「熱」と、鳳月のアダルトな魅力が炸裂。鳳月は彩とのデュエットダンスでも、まるで会話を交わすような複雑な振付でイマジネーションの翼を広げた。公演は11日まで。

取材・文/小野寺亜紀

宝塚歌劇月組公演 ミュージカル・ロマンティコ『ELPIDIO(エルピディイオ)』~希望という名の男~

日程:2022年12月3日(土)~12月11日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪市北区茶屋町19-1)
料金:全席指定8000円
電話:06-6377-3888(梅田芸術劇場)

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