物価高騰の波は神戸の夜景にも? 今や「1000万ドル」に

2023.1.3 09:15

神戸・六甲山から見える夜景。現在は1000万ドルと呼ばれているが・・・ (C)一般財団法人神戸観光局

(写真2枚)

夜景の美しさを表現する際の言葉として有名な「100万ドルの夜景」。いかにもロマンティックな表現だが、先日、旅行会社のプラン名に含まれているワードを見かけて驚いた。なんと100万ドルの夜景ならぬ「1000万ドルの夜景」というフレーズが使われていたのだ。

これは「100万ドル」の進化系ということなのか・・・? そもそも当たり前のように受け入れていたフレーズだが、なぜ「ドル」なのか。湧き上がるさまざまな疑問を解決すべく、「100万ドルの夜景」というフレーズを世に広めたとされる「六甲山観光(旧:六甲摩耶鉄道)」(神戸市灘区)に詳しく話を訊いてみた。

■ 1950年代から浸透「100万ドルの夜景」

「100万ドルの夜景」は今でこそほかの地域にも使われるフレーズだが、元をたどると神戸の「六甲山」を指していたという説がある。六甲山から街を見下ろした際、目の前に広がる兵庫や大阪の灯りを電気代に換算すると、ちょうど100万ドル相当になるから、というのが由来だ。

六甲山観光によると、実際のところ「100万ドルの夜景」の発祥ははっきりしていないそう。元々「100万ドルの~」という表現自体はアメリカで生まれたもので、素晴らしいものに対する賛辞として使われていたんだとか。1955年に発行された阪神電気鉄道の社史『輸送奉仕の五十年』を見ると、その当時から六甲山からの景色が「100万ドルの夜景」と評判だったことが分かる。

社史のなかでは、当時の社長である野田誠三氏が「100万ドルの夜景を科学的に証明した人がいる」と言及している。それが、関西電力の副社長だった中村鼎(かなえ)氏だ。野田氏によると、中村氏は六甲山からの景色を見下ろしつつ「ここから阪神間の電灯がズッと見えるが、この電灯代が月に三億円や。だからまさに百万ドルになるなァ(原文ママ)」と発言したとか。

電力会社の副社長ならではのユニークな発言だが、関西電力の広報・池田さんに確認してみると、同社の広報誌にも同じエピソードが掲載されており、「そして音に聞く『百万弗の夜景』(恐らく神戸辺の外人の愛称であろう)を鑑賞することが出来た」「夜景の灯を大阪、尼崎、神戸、芦屋の四市として計算して見ると其需要灯数四百九十六万七千灯、其料金月額四億二千九百万円となる。此れを弗に換算すると正に百万弗強と云うことになる。偶然であるが此の夜景の称呼百万弗に一致する」(原文ママ)と書かれていることが分かった。つまり「100万ドルの夜景」というフレーズは1950年代からすでによく知られたものだったのだ。

神戸ポートピアホテル屋上の展望施設「ソラフネ神戸」から見える夜景

■ かつて本当にあった!「千万ドル展望台」

そして最近見かけることが増えたのが、「1000万ドルの夜景」なるフレーズだ。今年7月にオープンしたばかりの展望施設「屋上テラス ソラフネ神戸」の説明文にもその表現が登場していることから、最近使われ始めたフレーズなのだろうか?

100万ドルよりグレードアップした表現ということもあり、ネット上では「電気料金やドルの高騰によって1000万ドルに昇格した」という説も見かけるが、真相が気になるところ。六甲山観光によると、かつて六甲山のひとつである摩耶山に「まやケーブル千万ドル展望台」という展望台が設置されていたという。

六甲山観光の資料には「ここからの眺望は超豪華で100万ドルどころではない(原文ママ)」ということから、「千万ドル」と名付けられたとある。展望台は1958年に設置されたので「1000万ドルの夜景」という表現も以前から使われていたようだ。

■ 「~万ドルの夜景」は実際に証明されていた

多くの人々がジョークや比喩のひとつとして使用しているフレーズだが、六甲山観光は、過去に関西電力の協力を得て計算をおこなっている。

その際、展望台「六甲ガーデンテラス」から見渡せる兵庫県・大阪府をあわせた世帯数と、1日あたりの平均電力使用料金を仮定して算出。すると、業務用の電力使用料金を合わせると「1000万ドルの夜景」に到達していることが判明したのだ。

しかし、あくまで計算は2005年におこなわれたもの。現在は世帯数も変化し、電気料金やドルも変動しているため1000万ドル超えもありえるのでは・・・? そんな疑問を関西電力の池田さんにぶつけてみると、「2022年現在、電力小売りが完全に自由化されており、契約メニューも多岐にわたっています。そのため、以前のように計算し数値を出すことは難しいようです」との回答が返ってきた。

残念ながら、神戸の夜景が現在何ドル相当なのかははっきりしていない。100万ドル、1000万ドルに値する夜景かどうか、実際にその目で確認してみては。

取材・文/つちだ四郎

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