白熱「梅干し離れ」問題、その反響に「新しい魅力を追求したい」
先日、ツイッターでの「梅干しの現実。皆さん、現在梅干し業界がどのような状況かご存じでしょうか」という投稿(1月10日)で明るみとなった「梅干し離れ」問題。ネットニュースやツイッターのトレンドなど多くのメディアで拡散され、最初の投稿は現在6.2万いいねを超えている。
話題となったツイートでは、「弊社の梅干し倉庫はパンクしており、梅農家さんが作った梅干しの多くは行き場のない状態です。またこの状態が続くようであれば、弊社も含め多くの梅干し屋さんが廃業することになります」と、かなり深刻なトーンで現状が語られていた。
SNSでは「梅干し好きやのになぁ」「だってスーパーでおいしい梅干し売ってないんだもん・・・」といった梅干し好きの声が相次ぎ、さらに今回の投稿に派生したツイートが拡散されるなど、現在も「梅干し離れ」問題は白熱。そこで投稿をおこなった梅製造問屋「梅樹園」(和歌山県日高郡)の代表取締役・生田富哉さんに、改めて梅業界の現状や今回の反響について訊いた。
■ 梅干しの消費量は全盛期から約4割減
──ツイートでは「令和元年から令和3年の梅干しの年間消費量は、1世帯当たり約663gです」とありますが、これはどれくらいマズい数値なのですか?
梅干しの年間消費量は2002年の1053gがピーク。それ以来緩やかな下降が続き、2021年には658gまで低下し、約4割減となっています。
──4割減はかなりのものですよね。梅干し離れが進む原因としては、どのようなことが考えられるのでしょうか。
まず、食の選択肢の多様化があるでしょう。朝食として白米より、パンを選ぶ人が多くなりましたよね。さらに家族構成の変化や強い酸味が苦手という若者が増えていることが考えられます。あと、選択肢の多様化や贈り物文化の衰退により、ギフト需要も年々減ったことも要因かと思われます。
──これから梅干し離れが続くと、最終的にどのようなことが起きるのでしょうか。
当社のように、各社で原料の余剰が出てくる可能性があるでしょう。しかし梅は1年に1回の収穫作物のため、気候による影響で収穫量の変動もかなり大きく、今回の問題の背景には、3年前の凶作で市場が狭まり、そのあと豊作が2年続いた供給に消費拡大が追いつかず、原料在庫が多くなったという背景もあります。
しかしながら長期的に見ると、人口減や梅干し離れなどこのまま消費量の減少が止められない場合、梅産業は縮小し、生産者・製造者が急減してしまう恐れがあるんです。
■「梅干しの可能性をみなさまに教えていただいた」反響に感謝
──そうなんですね。今回、メディアに取り上げられたりSNSで拡散されたことの反響はどうでしたか。
自社への啓発を込めて選んだ強いメッセージが、初動のネットニュースで拡散していましたが、徐々に取材を通して当社の真意が伝わり始め、若者の梅離れや消費の減少よりも、「梅が大好きなんです」「こんな梅が食べたいんです」のような気持ちが温かくなるようなコメントが多くなりました。
こんなに梅についての話題が日本中で取り上げられるとは思ってもいませんでした。たくさんの応援の言葉とご意見をいただき、まだまだ梅干しの魅力を引き出し、伝える自分たちの努力が足りていないことを痛感しました。
──なぜここまで拡散されたのでしょうか?
日本の伝統食の梅干しが、当たり前にみんなのなかに存在していて、今回たまたま「梅干し離れ」というキーワードとともに投げかけられたことで、日本中が梅干しについて同時に考える初めての機会になったのではないでしょうか。
「好きだけど、そういえば食べてないな」という声も多く、潜在的な梅干し好きはもっといるのだと感じましたし、梅干しの可能性をみなさまに教えていただくという、梅干し屋として恥ずかしいような気持ちや、また本当にかけがえのない貴重な経験となりました。今回のさまざまな意見を吸収し、梅干しの魅力を余すことなく伝え、また新しい梅の魅力をもっと追求していきます。
──今回の反響を受け、今後力を入れていこうという取り組みなどはありますか?
梅干しはしょっぱいタイプが好きな方もいれば、はちみつ梅が好きな方など、人によって好みの分かれる食べ物です。また、同じはちみつ梅でもメーカーによって味や塩分濃度が違うため「なかなか手を出しにくい」という声もいただいております。
そういった方に自分の好みの梅干しを見つけてもらうためにも、手軽に購入できる「お試しセット」のようなものがあればいいのではないかと感じましたね。
──ツイッターでは梅のアレンジ料理やレシピなども紹介されています。最後に、おすすめのおいしい食べ方を教えてください。
ごはんと一緒に食べるのはもちろんですが、冬にはぜひお鍋に梅干しをいれてみてほしいです! 個人的には、胡麻坦坦のタレに梅干しを溶かして食べるのが絶品です。ぜひお好きなお鍋に、好みの梅干しを合わせてみてください。
◇
生田さんいわく「地域では梅干し屋と農家が一体となって地域を盛り上げていく話し合いも度々おこなわれていますし、当社にも梅や梅業界への愛が強い従業員が多いです」とのこと。今回の熱意溢れる投稿をしたのも、SNS運営を担当している入社2年目の若手社員なんだとか。
投稿後には、出荷作業が間に合わないほど注文が舞い込むなどさっそく反響も大きかったという。「#梅干し離れ」を「#梅干しブーム」へと変えるべく、梅業界の試みは続いていく。
取材・文/つちだ四郎
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