狂気のカニ推し「堺市駅」、凝った掲示は駅員の根性だった

2023.2.20 07:15

JR西日本の名物ともいえる、冬季限定の「カニ」推し掲示

(写真8枚)

JR阪和線の「堺市駅」(所在地:堺区東雲西町)の駅構内に貼りだされている掲示が、SNSで話題となっている。噂を聞いて実際に駅へと降り立ってみると、改札へと向かう通路の窓を覆うように、「蟹」の文字と写真がびっしりと並び、「この蟹をみつめて下さい。だんだん食べたくなってきたでしょう・・・」という、まるで催眠術師のような怪しい文言が。

実はこれ、JR西日本が「日本旅行」と共同で企画する旅行プラン『かにカニ日帰りエクスプレス』の宣伝なんだとか。堺市駅では毎年趣向を凝らした製作をおこなっており、ユニークかつクオリティの高い掲示にはファンがいるほど。それにしても、なぜこんなにも凝った掲示を作るのだろうか? 中心となって手がけているという、同駅の當座さんに話を聞いた。

見てもらうには、インパクトのある文言でいくしかない

──SNSで話題の掲示は『かにカニ日帰りエクスプレス』の宣伝ポスターが始まりとのことですが、ほかの駅でもここまでの掲示を見かけないような・・・。力を入れるようになったきっかけを教えてください。

2017年ごろから、JR西日本全体で『かにカニ日帰りエクスプレス』の販売を促進していこうという流れになりました。それまでは、ただ用意されたパンフレットを並べるだけだったんですけど、それだけでは伸びないのは分かりきっていて。

なので当時の上司に「こういうことをしたい」と私が抱いていたイメージを相談してみたら、「全責任は取るから、好きなことをやりなさい!」と言ってくれたんです。言葉の通り好きにやらせてもらった結果、ネットで話題となり、それなら続けていこう!となりまして。はじめは販売促進のために始めたことですが、今ではメンバーも楽しんで取り組んでいると思います。

過去の掲示物。標語風に「カニ」をアピールする掲示なども(提供=堺市駅)

──縁日の出店やお祭り風など、年ごとに変わるコンセプトを楽しみにしている方も多いようです。アイデアはどのように決めているんですか?

まず私がざっくりとしたコンセプトを決め、掲示を担当するメンバーの2人と話し合ってどうするかを詰めていきます。強めの表現でいくのか、思いきりユーモラスにいくのか・・・その時々の気分で方針・コンセプトは変わりますね。今回の掲示は「ゲシュタルト崩壊を本気で起こしたい」というアイデアから生まれました。

普通のことをしても面白くないし、丁寧な言葉遣いで「旅行に行ってください!パンフレットを見てください!」と呼びかけても、人って見てくれないんですよ。そうなったらもう、インパクトのある文言でいくしかないなと(笑)。

インパクトを残すため使うカラーを「赤」だけにするというこだわりも

──なるほど、インパクト重視なんですね。6年も続けていると、アイデアがなくなったりすることはありませんか?

アイデアが枯れることはなく、やりたいことは常にあります! ただ、アイデアがあっても時間が足りず・・・。限られた時間のなかで掲示を作っていくことの難しさはあります。毎年、掲示を始める時期になって慌てて取り掛かりますね。

──SNSでは「あのカニ推しの駅」と毎年心待ちにしているファンも多いようです。駅の利用者からのリアクションはどうでしょうか?

おかげさまで、パンフレットはよく手に取っていただけるようになりました。毎回「今年はどんな感じ?」と聞いてくださる方もいますし、お客さまが通行する時間帯に作業することもあるので、その場で写真を撮っていただいたり。ダイレクトな反応をいただけるようになりました。

実はカニの掲示だけじゃなく、季節ごとの装飾にも力をいれているんですが、そちらも好評です。オモチャやオブジェのような立体的な装飾なので、お子さんが遊んでくれるのがうれしいですね。

縁日をイメージした装飾は、子どもたちから大人気(提供=堺市駅)

■ 器用というより「やると決めたら根性でやり遂げる」

──写真を見せてもらったのですが、季節の装飾もすごいクオリティですね! 立体的な展示となると、より作るのが難しそうです。 

装飾自体は2017年以前からおこなっていたんですが、カニが話題になったことをきっかけに、こちらもどんどん派手になっていきました(笑)。

掲示や飾り付けをおこなう際には、既存の画像やデータなどは使わず、イチから手作業で作るようにしています。例えば「ラーメンを作りたい」とアイデアが浮かんだら、どうやって紙を組み合わせて、色味はどんな紙を使って再現するかなどの時点からはじめます。食べ物の場合、絶妙な色味を再現するのが難しいですね。

──プロ級の腕前とこだわりですね・・・。やっぱり掲示を担当する方は、手先が器用な方が多いんでしょうか?

作業は堺市駅の駅員、一丸となって取り組んでいます。器用というより、みんな諦めない人たちばかりなんですよ(笑)。やると決めたら根性でやり遂げるので、作業をはじめたての段階では苦労していても次第に慣れていきます。

おでんを紙で再現。もちろん一つ一つ手作りだ(提供=堺市駅)

──工作に慣れている人ばかりというわけじゃないんですね。利用者を楽しませようという心意気が垣間見えます。

「好きなようにやりなさい」という言葉のおかげでリミッターがはずれ、楽しいことが好きになったかもしれません。やっぱりどんな掲示でもインパクトがある方が絶対に面白いし、毎日通勤で使う駅で楽しみがあれば最高じゃないですか? 掲示をきっかけにお客さまから直接声をかけていただく機会も増えて、私たちもやりがいを感じています。

──利用者との交流にもつながっていると。今後、新しい掲示をおこなう予定はありますか?

カニの掲示は、すでに翌年分のアイデアを思いついています! 季節の装飾も近いうちに新しいものを展示するのですが、次回は「お花」を使った装飾を予定しています。

それと、新たに「みどりの券売機」の利用率をアップする試みも始まるのですが、正直「めっちゃおもしろいな」と自画自賛したくなるような企画になりました(笑)。2月末ごろに公開できればと考えているので、ぜひお楽しみいただければ!

「楽しさ」を一番に考え、掲示や装飾に並々ならぬパワーを注ぐ堺市駅。つい足を止めてしまうほどのインパクトを残す『かにカニ日帰りエクスプレス』の掲示は、同駅の鳳・関西空港・和歌山方面ホームに向かう通路で見ることができる(2月末ごろまで)。

構内にはほかにも遊び心が感じられる要素が隠されているので、気になる方はぜひ探してみて。

取材・文・写真/つちだ四郎

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