時代にマッチする駄菓子のあり方、V字回復の背景には「喜ぶ顔」
チョコをプチプチと出しながら占いが楽しめる駄菓子「プチプチうらない」に、思い出がある人も多いのではないだろうか。1985年に発売された「プチプチうらない」は、「チーリン製菓」(大阪府八尾市)のロングセラー商品。そして、駄菓子専門メーカーの同社には、コロナ禍やレトロブームの到来を機に、新たな風が吹いたんだとか。
■ 「大人への憧れ」が駄菓子づくりのヒント
昭和3年に創業したチーリン製菓は、大人が持っているものに憧れる子どもたちのために、ライターや鍵、ビールジョッキなどをモチーフにした駄菓子をメインに製造している。「プチプチうらない」も錠剤のシートをイメージした包装に、占いという楽しさをプラス。商品はほとんどが20円や30円と、子どもが小銭で買える価格を守り続ける。
楽しい容器にお菓子を入れる理由は、子どもたちの「おなかを満たすだけでなく心を満たすお菓子」をつくることをモットーにしているから。安全安心で楽しい駄菓子をつくり続けるために、新しい事業に挑戦する取締役副社長・福井憲治さん、業務部企画開発課長・山本宗利さん、経営企画室係長・小菅香織さんに話を聞いた。
■ 「基本は、お菓子でみんなを喜ばせたい」
──「大人なのに『プチプチうらないチョコ』買ってしまった」などと、SNSでの反応も増えてきているように思います。
以前に比べて、SNSでお客さまの反応をダイレクトに感じられるようになりました。コロナ禍で暗い話ばかりなのでメーカーとしてできることはないかと、発売から38年間変えていなかった「プチプチうらない」の占い項目を初めて見直しましたが、「こんなのが出てきた」と発信していただいたり、占いに一喜一憂してくださったりしています。
──コロナ禍の影響が、やはりありましたか?
1回目のまん延防止が出たときは、学校が休みになってスーパーについていった子どもが駄菓子を買う機会が増えてちょっと売り上げが上がったんです。ところがそのあと、スーパーは短い時間で少人数で行ってくださいとなると、必需品しか買わないし、めちゃくちゃ売り上げが落ち込みました。
──コロナだけでなく、少子化ですし、駄菓子屋さんも減っていますね。
変形の容器が多いので生産性をあげようと思っても応用が効かず、手加工の部分があるためたくさん供給ができません。単価も低いので、お菓子問屋さんを通してスーパーに並べてもらうのも難しい。なんとかできないかいうことで、配送で直接お客さまに届けることのできる「おうちで駄菓子屋さん」という陳列台付きの駄菓子セットをつくって、それと同時にSNSの発信を始めました。
──おもちゃのお金もついていて、お店ごっこが楽しそうです。
コロナ禍でどこにも出られない、夏祭りも縁日もない、そんななかで「おうちで駄菓子屋さん」が喜ばれました。おじいちゃんおばあちゃんが会えない孫に送って、孫から喜んだ反応が来たり。駄菓子は、大人にとっては懐かしいもので子どもには新しい、世代を超えたコミュニケーションツールになります。たくさんの方が喜んでくださって、あらためてお菓子が持っている力というものを感じました。ありがたいです。
また、2021年くらいから「おうちで駄菓子屋さん」がメディアで取り上げられたり、2022年から八尾市のふるさと納税で使っていただいたりと、駄菓子系がすごく動いてきまして、ようやく売り上げがコロナ前に戻ってきました。
──八尾市のふるさと納税のページを見ると、「おうちで駄菓子屋さん」と「オールシーズンチョコ」のセットが、人気ランキング2位でした(2月12日現在)! 人気ですね。SNSでは、「da−gashi✩」というアイドルを推されています。
(以下、関西ベースの駄菓子メーカー)「オリオン」「コリス」「中野物産」「パイン」「チーリン」の5社が協賛しているアイドルグループで、CDデビューもしています。単独ライブも2月12日に開催したんですよ。
──今回の取材を通して初めて知りました・・・(笑)。
ほかに、全国の駄菓子メーカでつくる「DAGASHIで世界を笑顔にする会」もあります。3月12日は「だがしの日」で、今年は上野動物園でスタンプラリーなどのイベントを開催していたりと、各所で駄菓子界を盛り上げようと、積極的に活動しているんです。
──競合他社をライバル視するのではななく、ほかの駄菓子メーカーさんとの繋がりも大切にされているのですね。
日本の中小のお菓子メーカーっていうのは、共存共栄で、力を合わせて仲良くという雰囲気があります。基本は、お菓子でみんなを喜ばせたいという、共通の想いがありますので。
◇
低単価でどうしても手がかかり非効率になる駄菓子をつくり続けるには、ますます企業努力が必要。これからも横のつながりを大切にしながら、さらなる展開を模索していくと福井(副社長)さんは力強く話した。チャリンチャリーンという小銭の音から名付けられたという「チーリン」製菓は、これからも子どもたちが小銭で買えるお菓子をつくり続ける。
取材・文/太田浩子
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