大友啓史監督「実は、デビルマンの関係性を投影させている」
主人公・織田信長役に木村拓哉、ヒロイン・濃姫役に綾瀬はるかを迎えた、東映創立70周年記念で制作された大作映画『レジェンド&バタフライ』。1月27日の公開から3日間で37万人を動員し、週末の興行ランキングで1位を獲得する好スタートとなった。
メガホンをとったのは、『るろうに剣心』シリーズで日本のアクション映画史に革命を起こした大友啓史監督。幾度となく映像化されてきた魔王・信長を、これまでとはまったく違う新たな視点で捉え、ダイナミックな映像美と緻密な人間描写に富んだ本作について、映画評論家・ミルクマン斉藤が話を訊いた(ロングインタビュー後編、ネタバレあり)。
※前編インタビューは「こちら」
取材・文/ミルクマン斉藤
「観てる人には伝わらないかもしれないけど」(大友監督)
──やはりあのラストショットでないとね。しかも、信長映画史に残る格好良さ。それは木村拓哉さんのもつカリスマ性もありますが、暗転してしばらくサウンドトラックもなく、ワーッという鬨(かちどき)の声と本能寺が焼け落ちる音で終わるという、あの一連の流れがとにかく素晴らしいんですよ。
ありがとうございます。やっぱりおっしゃるように、「2人は異国に旅立った」で終わっちゃうと、源義経のチンギス・ハーン伝説とか、ヒトラーはまだ生きていたとか、いわゆる「珍説」に準じた映画になってしまうんですよ(笑)。
あそこで終わって欲しかったと言う人も多いんですけど、僕は今のラストこそがハッピーエンドだと思っていて。同じタイミングで2人が亡くなり、離れた場所で2人が同じ「胡蝶の夢」を見ていたというモンタージュにしてるから、実はそんな見事な夫婦ってないよねって。ある意味、これは心中なんで。
──信長が本能寺に赴く前から、2人ともなんとなく感づいていますよね。これが今生の別れになるというのを。
そうです、2人とも完全に覚悟していますから。濃姫が「必ず帰って来なされよ」っていうのも、信長の「帰ってくる」というのも、気休めじゃないけど、それを希望に持たせて、濃姫がちょっとでも長く生きてくれるとめっけものくらいの話ですよ。まあ、そのへんはシビアにやんないと、やっぱりあそこで終わっちゃうのもね。エンドタイトルも信長がかっさばいたあと、変な曲がかかって現実に戻すのもどうかと思うじゃないですか。
──いや、ホントそうです。
やっぱり、ガラガラと崩れて堕ちていく本能寺のお堂とともに、観客のみなさんにその行き先を想像してもらえれば。そこはもう託せばいい。そのあとに中世のリュートの音楽が鳴るんですけど、2人が京都で出会った頃の、異国の円舞をしてるシーンが無意識にお客さんのなかに甦ってくれればうれしい。
最後の佐藤直紀さんの曲は、いちばん2人が蜜月だった時代、岐阜城に行くときと安土に戻ってくるシーンの曲なんです。本能寺の崩れる音がして、伝説の幕が終わったあとにもう1回甦ってくるイメージでやっていますね、クレジットタイトルは。
──やっぱり大友監督は、周到に計算してますね。今回も名コンビ・佐藤直紀さんの音楽が素晴らしくて。オーケストラ曲も壮大ですが、ピリオド楽器を使ったルネサンス期も、クラシック好きの私からすると非常に印象的で。
あそこは直紀さんが作ってるんじゃないんです。音そのものは、元々中世にあった音楽を、当時の楽器を使っていただいて再現して演奏してもらってるんです。
──カテリーナ古楽合奏団ですね。もはや斯界では、老舗の音楽集団。
ただ佐藤さんとは、今回はいわゆるストリングスを使うにしても、ヴァイオリンじゃない、あの2人の関係を考えたらチェロだねって話をしてて。ヴァイオリンよりトーンの低い、ちょっと腹にズーンとくる音色をやろうよと直紀さんに言ったら、「できる限り、チェロを集めます」って。で、32人集めたんですよ。
──え~!それはちょっと、ほかに例が無いかも。
そうなんですよ。ほとんどないですね。日本にいる一流のチェロプレイヤー32人が全部スタジオに集まって、その音は本当に心震えるものでしたね。
──すごいですね! 最初、濃姫が輿入れにくるシーンなどで、そこにパーカッションの音圧がドドーンとくる。あの重厚さはまさしく「東映創立70周年記念作品」らしいというか(笑)、戦国ものというムードで気分を上げますよね。
実は『るろうに剣心』のときの音楽録音は、ストリングスをそんなに集められなかったんですよ。だから本当は24人欲しいところを半分の12人だけ集めて、×2でミックスしてるんです。
──ああ、そうなんだ。
ところがそれを聴くと、やっぱり今ひとつ厚みがでない。やっぱり24人で演奏したものと、12人×2では全然違うんです。素人の僕が聴いても違う。映画のエキストラと一緒で、ある種の信仰というのが現場ではあって、500人集めて撮るのと、50人を10倍にしたCG映像では、500人の方がどうしてもエネルギーが出る。それは音も同じ。これは観てる人には伝わらないかもしれないけども、そこを信じてやらないと映画作りって崩壊すると思うんですよ。
──今どき贅沢な話ですが、エキストラも500人ですか!
そうです。今回、コロナ禍でいろいろな制約があったし、今後は500人とか集めるなんてダメ、全部グリーンバックでVFXでやれって時代が来るかもしれない。これが最後の機会かなと思ってやったんですよ。でもね、木村拓哉も綾瀬はるかも、役者たちもスタッフたちも、その500人がいる現場に足を踏み入れると、「すげえ! こんなところでできるんですか!?」ってなるんです。その目に見えない心の変化とか、そこでしか生まれない空気が画に出るんですよ。
映画『レジェンド&バタフライ』
2023年1月27日公開
監督:大友啓史
出演:木村拓哉、綾瀬はるか、ほか
配給:東映
©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
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