大友啓史監督「実は、デビルマンの関係性を投影させている」

映画『レジェンド&バタフライ』のメガホンをとった大友啓史監督
「木村拓哉という役者のスターの貫禄」(大友監督)
──今や、実写の範疇なのかフルCGなのか分からない映画ばかりですものね、ハリウッドは。
そういう想いが強くあって。1人ひとりの作り手の感情が、何かを起こすかも知れないんです。木村拓哉といえども、天皇家ゆかりの霊鑑寺という、信長も足を踏みいった場所で信長を演じるとなったら、やっぱり明らかに変わるわけです。それを大画面で観ると余計に出ちゃう。
京都の昔の時代劇をクランクイン前に観まくって、昔の映画はなんでこんなに力があったんだろうって考えたら、あんまり安い言葉で言いたくないけど、やっぱり作る側の想いとか熱量。たとえ下手クソなものであっても、それを超えて訴えてくるときがある。そういうのが、あのプログラムピクチャーの時代の、東映京都撮影所で生まれた多くの映画に存在している。今回は東映70周年だし、この機会にやってやろうと。
──東映のプログラムピクチャーといえば、そのヘタウマも魅力のひとつですもんね。でもこの映画には、月に何本と上映される娯楽作とは違って、例えば巨匠格の、(「時代劇の父」と呼ばれる)伊藤大輔的な風格がありますよ(笑)。
その名前が出てくるとは(笑)、実はすごい好きなんですよ。伊藤大輔監督の『長恨』(1926年)とかね、留学したときに伊藤さんとかのフィルムをちょろちょろ観たりして。
──『長恨』なんて15分くらいの断片しか現存してませんけど、ちょっと狂気を孕んだすさまじさで。

すごいですよね。日本人はあの時代からどんどん遠のいて、あの時代の武士とか、その遺伝子はスライドできてないと思うんですよ。で、もう戻れないから、そこを羨望してもしょうがないという気持ちと、一方で何をしたらあれに近づくんだろうとも、時代物を撮るときにはその両方がありますね。
大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)のときから思っていたことですが、映画草創期のモノクロフィルムから立ち上がってくる、あのものすごい原初的なパワー。もう大河内傳次郎さん(戦前を代表する時代劇スターのひとり)なんて、一発勝負でセットをぶっ壊しまくって、相手に刀も当てまくってる(笑)。コンプライアンスとは真逆ですよ。
──そもそも自主規制なんて存在しませんしね(笑)。
そんな原初的なパワーをどう取り戻そうかなと考えてたとき、木村拓哉という役者が、ある種のスターの貫禄というか、在り様として感じさせてくれましたね。びっくりしたんだけど、衣装合わせのときに一切鏡を見ないんです。「どうですか?」って訊いたら、「そちらが良ければお任せします」・・・以上なんですよ。
そうなると、すべての判断がこっちに委ねられる。スタッフ皆、下手打てませんよ、そうなれば(苦笑)。例えば、高倉健さんら偉大な映画スターの伝説が数々残っているけど、それと同じ感覚を踏襲しているところがある。「それは私の仕事じゃなくてみなさんの仕事ですよね。そこを信頼してお任せします」ってことを、すとんと言う。
──まさに絶対的なスターとしての在り様ですね。
そうなんですよ。どっから撮られても良いです、という。だから、何がびっくりしたかって、『岐阜信長まつり』での騎馬武者行列ですよ(2022年11月)。あれ、来られたお客さん全員が写真撮影OKだったんです。一般の方がスマホで撮った信長の写真が、SNSなどネット上にバンバン上がってくる。でも、まったく隙がないんですよ。これはホントにあり得ない。
──いや、本当にあれ見て、「なんだかんだ言って、キムタクには誰も勝てません」って(笑)。
僕らが体験できなかった高倉健さんをはじめとするあの時代のスターというのは、そういうことだったんだろうなっていう。やっぱり京都の撮影スタッフとかはね、(高倉健との仕事は)それはもう命がけでやりますよっていう。口説かれちゃってるんですよね、高倉さんに。そのあたりのムードも含めて、やっぱり長い間時代劇やってないから、さすがの京都の撮影所といえども、いろんなノウハウが無くなってきていて。
──正直、僕もそう思います。東映の事務所でこんなこと言うのもなんですけども(笑)。
だから、プロデューサーからの僕へのオファーが、「『龍馬伝』で大河ドラマを変えたように、『るろうに剣心』で邦画のアクションを刷新したように、令和の新しい時代劇を作るための劇薬になってください」だったんですよ。さすがの東映京都撮影所も、テレビ時代劇しかやってないと、どうしてもリアリティよりも流れ作業になっていく。
まぁ、東映70周年だし、久しぶりにちょっとそこを思い切ってやってみましょう、ということで。大友組のいつもの面子も呼びながら、刺激を劇薬として注入したら何が生まれるんだろう、と挑んだ結果がこの映画です。

──さっきの伊藤さんの話を蒸し返すと、僕は『反逆児』(1961年)を思い出したんです。中村錦之助が最後腹をかっさばく。あの激烈で憤死に近い痛烈なラストね。ああいう凄惨美みたいなものがここにはある。さきほど大友組とおっしゃってましたが、撮影の芦澤明子さんと照明の永田英則さんは、2度目のタッグですよね。
そうですね。2020年の映画『影裏』でやってもらいました。
──芦澤さんは間違いなく日本映画のトップを走る撮影監督ですが、どちらかというとインディペンデントのイメージが強くて。室内撮影は最高なんだけど。でも今回はそんなこと微塵も思わせない。モブ(群集)シーンも堂々としてて、エンドクレジットを見て、芦澤さんだと知って、え~!って思いましたもん。
『影裏』のとき、僕も同じことを思っていたんですよ。限定された空間で心の機微をじっくり撮るのは得意ですから、この物語を信長と濃姫のラブストーリーとして考えると、そこはじっくりと撮れる芦澤さんがいいだろうなと。ただ、この規模の作品って芦澤さんはやったことがなくて。
映画『レジェンド&バタフライ』
2023年1月27日公開
監督:大友啓史
出演:木村拓哉、綾瀬はるか、ほか
配給:東映
©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
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