大友啓史監督「実は、デビルマンの関係性を投影させている」
「実はこの信長と光秀の関係には・・・」(大友監督)
──そうですよね? 僕はまったく記憶にない。これほどの大作では。
だからこそ、どうなるのかなって興味はありましたね。で、やっぱり芦澤さんは化学反応としてすごく面白かった。大きいものを敢えて小さく切り取り、小さいものを拡大して見ていく人だなと思っていて。
──ファーストカットもコオロギとカマキリですもんね。
大きいものを小さく撮る芦澤さんが、実際に大きいものに向き合ったときにどうするのか。そこのバランスだけを気をつけましたね。大きいところは大きく撮ってもらわないと、やっぱり仲良し夫婦の話になっちゃうんで、信長と濃姫の背負っている大きなものを見せるために、背景をどんどん変えてるし。
それに付き従う武士の数や衣装のディテールもランクアップさせていって。尾張という狭い地域に籠もっていた信長が、濃姫に刺激されて少しずつ世界を地球儀規模で考えていく過程も描いているので、そこの大きさを出すには少しフレーミングを広げないといけなくて。
──この作品の濃姫って、悪女的な意味ではなく、少しくマクベス夫人的なところがありますよね。
これはひとつの賭けではあったんですね。そのあたりを芦澤さんがどういう風に撮るのか、ちょっと個人的な悪戯心もあって(笑)。そこに、永田さんのちょっと独特な照明テクニックが加わるんですよ。天井に照明フィルターのセロファンを張るんですけど、普通は1色なんですよ。ところが今回はステンドグラスみたいなんですよ(註:監督のスマホから、色彩が散りばめられたフィルターの写真を見せていただく)。
光ってどう反射するか分からないから、色がどんどん変わっていく。そして最後にグレーディング(撮った素材の色調・階調を調整する画像処理)って細かい作業をやったときにいろんな色がひとつの画面のなかに反映してくるんですよ、微妙に。
──では、グレーディング作業を経た、その結果や効果も含めて計算されてると。
どこまで計算しているのか分からないけど、撮影・照明チームには、前半は日本古来の自然由来の色彩、後半は中世ヨーロッパ絵画の色彩というイメージを伝えていましたから、それを実現するためだと思うんです。照明の現場もとにかくいつもと違うことをやろうという想いが強かった。これで照明を当てると、自分たちも思っていないような光になって。だから、今回は実験の現場にもなっていった感じはある。
──「東映創立70周年記念、総製作費20億円」の映画で(笑)。
そうなんです(笑)。
──あと、面白かったのが、宮沢氷魚さんが演じた明智光秀ですね。2020年の大河ドラマ『麒麟がくる』で、謎の多い彼にスポットが当たって以来、光秀考証はいろいろと進んでいるようですが、「第六天魔王」と化した信長に憧れて、比叡山延暦寺の焼き討ちも髑髏杯のエピソードも、さらには徳川家康を饗応する場で叱責されるエピソードも光秀の企みとして描いている。こんなの今までなかったですよね?
古沢さんのホン(脚本)に「見目麗しい」っていう1行があって。その言葉でパッと思いついたのが宮沢氷魚くんだったんですよ。木村さんの信長は決まっていたから、ある意味、木村信長とは違うモノを持ってるんですよ。
──諸説ありますが、今回は信長より若い設定ですものね。
明智光秀って、なんせ素性が分からないので。信長が仏を焼き尽くし、濃姫が危なくなって、信長の心のなかに生まれた弱さに忍び込んでくるデモーニッシュ(超自然的、悪魔的)な存在にしたんです。完全にバイブル的な、中世ヨーロッパ的な香りがする存在でいて欲しかったんですね。キリスト教を受け入れた瞬間に、彼が欲していたエンジェルが来たのではなくて、デヴィルが耳元でささやくという、なんかそこの裏筋が貫徹すると面白いなと思って。
──「それがしが惚れぬいた狂気の魔王はもうおらねぬ。ただの人間に国は治められぬ、あとはお任せを!」みたいな宣言もするし。
「あなたは悪魔になるべきで、そう私が導いたのにあなたは悪魔の心を捨てるのですね。なら私が悪魔になります」っていう光秀の立ち方にしていくと面白い。そこはかなり確信犯的に氷魚くんという存在をもって、木村さんにぶつけるようにしてますね。だから、先ほども言いましたけど、後半は、中世ヨーロッパのトーンにしていきたいと芦澤さんにお願いして。
前半は和の戦国だけど、後半になってくるとだんだん黄金色に近い、中世ヨーロッパの、キリスト教的な世界観にしていこうと企んだんです。それにね、実はこの信長と光秀の関係には、永井豪さんの漫画『デビルマン』の不動明と飛鳥了の関係性も投影させてるんですよ(笑)。
映画『レジェンド&バタフライ』
2023年1月27日公開
監督:大友啓史
出演:木村拓哉、綾瀬はるか、ほか
配給:東映
©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
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