絶妙なバランス、一向宗との激突はフェアに【どうする家康】
古沢良太脚本・松本潤主演で、厳しい選択だらけな徳川家康の人生を描く大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。2月19日放送の第7回『わしの家』では、松平元康がついに「家康」と名前を改めるとともに、三河の一向宗との対決の火蓋が切られるまでが描かれた(以下ネタバレあり)。
■どうする家康、一向宗の寺に潜入
織田信長(岡田准一)から「元康の『元』は、今川義元の『元』だから縁起が悪い」と、改名をうながされた元康。妻・瀬名(有村架純)の「私はここが大好きです。何だかみんながひとつの家におるようで」という言葉から、「三河という家をやすらかなものにしたい」と願いを込めて「家康」という名に決める。
そんななか戦の資金不足をおぎなうために、国内の一向宗の寺々から年貢を取り立てようと考えるも、一向宗の寺には「不入の権」があり武士の力が及ばないことを知る家康。そこで、本多忠勝(山田裕貴)と榊原康政(杉野遥亮)とともに百姓に化けて、とりわけ栄えている本證寺(ほんしょうじ)に潜入した。
家康は身分を隠して、住職の空誓(くうせい/市川右團次)と対面。年貢を収めない理由を聞くが、相手を家康と知ってか知らずか、「あほうに銭を貢いでも、あほうは戦にしか使わん」と、空誓はまったく歩み寄る気配を見せなかった。その後、家康は強奪のような形で寺から米を徴収するという手段に出るが、それが家臣団すら分裂する内戦「三河一向一揆」のきっかけとなり・・・。
■家康改名の間の悪さを嘆く声
前半生でコロコロ変わるため、このコラムを書く際も使い分けにかなり悩まされた、家康の名前問題。この第7回でようやく家康となり、これで注釈もなく全面的に「家康」と呼んでもOKという状態になった(ちなみに姓が『徳川』になるのは、あと数年後)。しかもその名前の由来が、愛妻・瀬名のなにげない一言というのが、いかにもこのドラマらしい。
SNSでも「今日の『どうする』は家康命名で達成」「由来が『ひとつの家』なのも、それが瀬名の言葉からなのも、もの凄く『松本潤の家康』ならそうするだろうな、って大納得」「家康爆誕のシーンがこんなにほんわかするとは」などの言葉が。
しかし、そんなほのぼのとした導入から一転して、家康の三大危機のひとつ「三河一向一揆」の序章といえる、シリアス&ハードな回でもあった。ただ「三方ヶ原の戦い」や「伊賀越え」のように、「一歩間違えば死」という状況に追い込まれたというよりも、家族のように思っていた家臣団が、完全に空中分解するという辛さの方がはるかに大きく、家康個人ではなくて、まさに「わしの家(臣団)」最大のクライシスなのだ。
SNSでも「三河家臣団、分裂しちゃうんだよね。嫌だよ~、一生あのメンツでわちゃわちゃしててくれよ!」「家康が岡崎をひとつの家とすると決めた時一揆が起こるこのやるせなさ」「『三河はひとつの家じゃ!』という回に三河一向一揆編をぶつける古沢脚本、人の心がなさすぎる」と、改名の間の悪さ? を嘆く声も集まった。
■絶妙なバランス感で描かれる「三河一向一揆」
とはいえこの「三河一向一揆」。間違いなく家康の人生最大級の「どうする?」にも関わらず、残っている資料が少ないこともあり、あまりドラマで深く描かれた記憶がない。家康目線の物語であるのなら、一向宗側を「絶対倒すべき悪の集団」というスタンスで描けば、容易に視聴者の同調を得られそうだが、古沢良太が取ったのは非常にフェアな視点だった。
まず本證寺のパラダイスぶりや空誓の人心掌握テクを見せることで「寺を訪れたら楽しくて、愉快で、豊かで、恋人とも巡り合えて、しかも自分の心まで救ってもらえる。これは手ごわいぞ」「完全にカルトのトップとして有能な造形だ。税金払わないけど民の不幸は領主のせいにしてくる完璧なムーヴ」と、現代の私たちにも「こりゃハマるわ」と思わせるレールを巧みに敷く。
一方で家康が、そういった人々を目撃しておきながらも年貢米を強奪し、しかも米のご飯を涼しい顔で平らげるという描写で、家康の浅はかさも一因にあることを示唆。SNSでも「民に寄り添いつつも国全体のことは『こっちは救う側なんで』と知らんぷりする空誓と、それは通らんでしょと年貢を取り立てたあと、山盛りご飯を食べる家康のどっちも正しいけど間違ってる感じがすごく良い」などのコメントが上がっていた。
この絶妙なバランス感で描かれる「三河一向一揆」がどのようなものになるか。SNSでは「一揆に発展してしまったのは若き家康の過ちという解釈かぁ。次回はなかなか辛そう」「三河一向一揆自体をこんなド正面から本格的に尺使ってちゃんと描いてくれる作品はそうそうないので、それだけでもこのドラマの見事な軸と心意気が分かる」などと、不安と期待の声が交錯していた。
『どうする家康』は、NHK総合で日曜・夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夕方6時からスタート。第8回『三河一揆でどうする!』では、家康が三河各地で起こった一向一揆や、周囲の領主たちの反撃に翻弄される姿が描かれる。
文/吉永美和子
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