「上方落語の爆笑王」こと桂雀々、62歳で見えてきた理想って?

2023.3.14 07:00

落語家の桂雀々(2月21日・大阪市内)

(写真4枚)

誰が言ったか知らないが「上方落語の爆笑王」との異名を持つ桂雀々。大きな声で、汗をまき散らしながら、必死のパッチで落語を繰り広げる様は、「飛び出す落語」「3D落語」とも称され、躍動感ある高座で人気を博している。

2011年に51歳で拠点を東京に移して以降は、俳優としても頭角を現し、テレビや映画に出演。2023年1月には出演する映画『嘘八百~なにわ夢の陣~』が公開されたばかりだ。そんな雀々は年に1回、「新歌舞伎座」(大阪市天王寺区)で独演会を開催している。今年もその季節がやってきた。

■ 「60歳を超え、理想と現実が近寄ってきたかな」

——今年の演目は「舟弁慶」「口入屋」。それぞれ、どのように演じようとお考えですか。

「舟弁慶」は「雷のお松」、「すずめのお松さん」と呼ばれるメインキャラクターのおかみさんを、どう見せようかと考えています。「口入屋」は照明を使って夜の場面を描いて、その世界に引き込むところが見せどころやないかなと思います。この二席は、今の雀々、60歳を超えたジジイがやるとこんな感じ、ちょっと理想と現実が近寄ってきたかなというものをお見せしたいですね。

『春爛漫公演 桂雀々独演会』は4月1日に上演される

——新歌舞伎座は舞台装置が使えるので、おなじみの噺でも寄席とはまた異なる世界観で楽しめますね。

そうなんです。廻り舞台やセリ、照明、書き割り(舞台背景)とかを使って毎年、見せ方を変えています。そんな落語会は新歌舞伎座さんならではですよね。ただ、5回もやると形が決まってきて新鮮味がなくなる感じがしますんで、今年は試行錯誤しております。

——今年で6回目ですね。回を重ねるごとに手ごたえも変わりますか?

手応えで言うと、去年の5回目が終わって、劇場の環境にだいぶと自分の落語が近くなったような感じはしました。お客さまが前のめりになって(落語の世界に)入ってくる。僕も「(お客さまが)こっちに来ている」というようなことがわかる。それまで遠くに感じていたのものが、すごく近くなりました。

——そう感じられる1番の理由は何でしょうか?

結局、僕自身の精神的なものでしょうね。最初は「大丈夫かな?」とか、いろいろ半信半疑でやってましたから。

「新歌舞伎座」で上演することへの思いを語る桂雀々(2月21日・大阪市内)

——ゲストは柳家喬太郎さんです。

彼は江戸の古典落語も新作落語もオールマイティで、ないものねだりで憧れています。描き方も写実的で、ドラマを見ているような感じですよね。人情噺をしても、くさくなく、自然と涙を誘って。普段は本当に地味な男なんですけど、舞台に上がったらこないに変わるかという。そのギャップもすごくおもしろくて。彼が新歌舞伎座という大きな箱で、どういうふうに喬太郎ワールドを作るのだろうと、いちファンとしても楽しみです。

■「どのネタも、師匠譲りのエッセンスを残したい」

——「舟弁慶」「口入屋」も桂枝雀師匠から教わったネタですね。

はい。(1977年に桂枝雀に入門後)1993年から1995年にまた稽古に行って、そこで約十席、つけてもらいました。そのうちの二席です。うちの師匠は『枝雀十八番』で夏になったら「舟弁慶」をして、秋には「口入屋」をしていまして。私はそれを舞台袖でも聞いて育ちました。そのとき、「こんな感じでやれるんだな」と大雑把に覚えていたのですが、それがもう大きな勘違いでしたね。聞くのとやるのとでは、やっぱり違いました。

今回の演目「舟弁慶」「口入屋」の見どころを語る桂雀々(2月21日・大阪市内)

——師匠のようにはできなかった。

そうですね。軽いタッチの心地よさとかね、あとは表情。今、表現の仕方は違いますが、師匠の落語に近づけたいなと思いながらやっているので。それが伝承芸能ですよね。この二席だけやなしに、いただいたネタはみんな、師匠譲りのエッセンスを残したいと思っています。

——枝雀師匠のファンの方がご覧になると「そうそう、枝雀もそうやった」と思われるような。

そうなんです。聞いてる方が「(枝雀を)彷彿させるようになってきた、やっぱり師弟だな」と思われるものをどこかに残したいですよね。「そうそうそう、そんなこと言うてた。似てるな~」と思われるようなものを伝えたい。師弟というのは芸の上での親子なので、実際の親子と一緒なんですよね。「そんなとこまで似んでもいいのに」って。それは絶対、芸にもありますから。うちの師匠はお客さまがノッたらもう「いてまえー!」ですからね。それがハマったら、ホールだったら1500人が一斉に稲穂みたいにうわ~!っと揺れる。

——高座からはそんなふうに見えるんですね。

大きい会場だと舞台からそう見えるんですよね。みんな、前かがみで揺れて。ほんで笑いすぎてめちゃくちゃ熱くなるんですよ。「あっつ~」言うて汗かいて。熱気が立ち込めて。うちの師匠はどんな噺でもそれがありましたから。お客さまの熱気が伝わる、伝わる。そら気持ちええやろうなって思いますもん。それが理想です。

『春爛漫公演 桂雀々独演会』は「新歌舞伎座」にて4月1日にひる、よる上演。チケットはS席5000円、A席3000円ほか、現在発売中。

取材・文/岩本

『春爛漫公演 桂雀々独演会』

会場:新歌舞伎座(大阪府大阪市天王寺区上本町6-5-13 YUFURA6階)
日時:4月1日(土)ひるの部・昼12時〜/よるの部・夕方4時〜
料金:S席(1・2階) 5000円、A席(3階) 3000円、特別席 7000円

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