【シネマ批評】ミルクマン斉藤の本音レビュー(3月11・17日)
どうも、ミルクマン斉藤です。今まで月刊誌『ミーツ・リージョナル』で「チコなゼッポはグルーチョでハーポ!」なる関西地区公開の新作映画月評を計115回(同種の前企画含めると200回ほどかな?)連載していたのですが、僕ももう還暦。
昨年から熱中症になるやら入院するやら肝臓悪化するやら、果ては鬱病と診断されるやらで、膨大な公開本数を翌月1日発売の雑誌締め切りのペースで観るのに追いつかず、おおよそ週1でアップする感じでLmaga.jpに引っ越してまいりました(ミーツのほうも新企画を始めますのでご贔屓のほどを!)。・・・というわけで、とりあえず始めてみましょうか。今後ともよろしくお願いいたします。※最低はBOMB、最高は★★★★★
新しい息子が授けられたばかりのNYのエリート弁護士、ヒュー・ジャックマン。そんな折、前妻(ローラ・ダーン)が訪ねて来て、2人の間の息子であるニコラス17歳がどうやら不登校であるという。ヒューは彼を引き取って、行き場のないニコラスの心を晴らしてやろうとするのだが・・・。
どこにでもありそうな、離婚家庭が子どもに与えた闇。あまりに普遍的な題材だが、そこは前作『ファーザー』で朦朧としていく認知症老人の心のうつろいを表現してみせたフロリアン・ゼレール監督・原作脚本、緻密で繊細な登場人物たちの心の動きを台詞とキャメラワークの巧みさで観せきってしまう(ヒューの父親役で『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスも出演!)。
とりわけちょっとティモティー・シャラメに似た雰囲気のゼン・マクグラスの鬱症状、あんなに憎んだ父親と同じ轍を知らぬ間に辿っていると気づくヒューの心情(これもまたThe Son)にも僕などは親近感しか湧かない。相当しんどいけど(3月17日公開)。
次第に単行本の部数は落ちながらも8年間の連載を終えた漫画家(斎藤工)は虚脱症状に陥っていた。売り出し中の新進漫画家にのめりこむ元編集担当者の妻(MEGUMI)には「いつまでも売れてる売れてないってのに付き合うのはもううんざり!」と告げたあと、なんとなく気が合った、猫の目をしたホテトル嬢(趣里)の帰郷の旅に付いていく・・・。
これまた典型的な燃え尽き症候群、あるいは鬱の話(弱りきってるときの女性への甘え方とか分かるなあ)だが、「零落」と自己憐憫するほど絶望的状況ではない。何度か挿入される暗い波のうごめきが主人公の心の転機を示し、かつての猫の目をした初恋の相手(玉城ティナ)の辛辣な言葉が蘇る。
ラブホに入るたびに壁にかかったエロティックな半抽象画とか、とぼとぼひたすら独りで歩く主人公の姿が、かつての『無能の人』や『サヨナラCOLOR』を想起させ、やはり竹中直人は(少なくとも監督作では)コメディよりシリアスなほうが遥かにいい、と確信した次第(3月17日公開)。
主に行定勲作品の脚本家として知られる伊藤ちひろが、数年前に上梓した同名小説を自ら映画化。小説は日記形式で進んでいくが、映画版はまったく趣を異にする。むしろ物語性がそぎ落とされて、映像美と音響(「まるで胎内のコポコポ音」とクレジットされる)がクローズアップされる一種の実験作だ。
歯科医師ススメが、ファム・ファタルといってもいい宮子(馬場ふみか!)にのめりこんでいき、彼女とシスターフッド的な関係にもあるらしい蓉子(河合優実!)にも惹かれていくうち正気を失っていくのだが、そのススメを演じるのがKing Gnuの井口理。これまた独りで始終歩き回るのだけれど、頭を平行に保ったまま、無表情でずんずん進むのが異様でたまらない(3月10日公開)。
なんだかホラーみたいなタイトルだけど、死体役専門・・・になっちゃった売れない俳優のお話。むかし劇団を主宰したこともあるそんな彼が、ひとりのデリヘル嬢と出会ったことから、話は意外な方向に進んでいく。ちょっと森崎東とか初期の山田洋次喜劇を思わせもする、けっこういい話。
主人公の奥野瑛太、ムチャ可愛い唐田えりか、主人公の父母・きたろうと烏丸せつこもほのぼのといい感じ。これは最近たまにいい映画を生み出す「未完成映画予告編大賞」のグランプリから派生したものだが、監督の草苅勲も『ndjc:若手映画監督育成プロジェクト』出身だ(3月17日公開)。
ドン詰まりのインディペンデント女性映画監督ジワンが映画資料室から頼まれたのは、60年代の女性監督ホンによる作品が見つかったものの、途中から音声が欠落しているため修復して欲しいというバイト話。
音声のみならず、検閲による欠落箇所も発見したジワンは、ホン監督の家族やスタッフを訪ね歩く。多少のミステリ風味も交えながら見えてくるのは、当時の韓国映画界における女性の地位の低さ。そして苦難に負けずに映画を作ろうとした先人への、まさにオマージュとなっているのだ(3月10日公開)。
●そのほかの今週公開の映画
『Winny』★★★半
無邪気で朴訥なプログラムオタクっぷりが東出昌大にぴったり。弁護団の三浦貴大らも面白いが、裁判シーンに新味はない(3月10日公開)。
『いつかの君にもわかること』★★★
死期の近づいたシングルファーザーと幼い息子の物語は普遍的ではあるがありきたり(関西:3月10日公開)。
『コンペティション』★★半
映画監督役ペネロペ・クルス、彼女に起用されるアントニオ・バンデラスとオスカル・マルティネス。三者の野望とエゴが映画を無茶苦茶に。役者に不足はないが笑い不足(3月17日公開)。
『デスNS/インフルエンサー監禁事件』★★
なんだか「水曜日のダウンタウン」のクロちゃん企画を思わせる(3月10日公開)。
『二十歳の息子』★★
ゲイの養護施設職員が、少年院帰りのヘテロ青年と養子縁組するが…何故引き取ったのか(わざと?)描かれないのがもどかしい(3月11日公開)。
『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』
今年はどれも面白いが…『うつぶせのまま踊りたい』★★★★半、『ラ・マヒ』★★★★半、『サボテンと海底』★★★、『デブリーズ』★★★★(大阪:3月17日公開)
【ミルクマン斉藤】映画評論家。最新映画について「CINEMA MOON」(@NOON+CAFE)を月イチのペースで配信。京都のグルビ・ショップ「三三屋」で月イチのトーク・ライヴ「ミルクマン斉藤の すごい映画めんどくさい映画」も継続中ですがコロナ禍でお休み中。ツイッター
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