【シネマ批評】ミルクマン斉藤の本音レビュー(3月第4週)
評論家・ミルクマン斉藤による、本音炸裂のシネマレビュー。週末に関西エリアで公開される邦画・洋画のなかから、「最高は★★★★★、最低はBOMB」で独断と偏見でセレクト。
【近況】3月の大阪といえば「大阪アジアン映画祭」。10日間で45本近く観るという苦行の真っ最中。なので公開作をすべて押さえる時間はないんだけど、いい映画はけっこうあります。
映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』★★★★★
メガホンをとった足立紳は目下、脚本家としてかなりの売れっ子だけど(2023年後期の朝ドラ『ブギウギ』もそう)、本来は監督業含めての「作家」であると思う。ただし前作『喜劇 愛妻物語』は僕にはあまりにマゾヒスティックかつ自虐的でさっぱり笑えなかったが、デビュー作『14の夜』(2016年)の、性欲で頭パンパンになった中坊のアホっぽさ情けなさはなかなかのものだった。
今作はここまでまだサル化してない小学6年生の、やんちゃな4人組を中心とした物語(舞台はともに80年代末)。なにより各人の個性が際立っている。勉強は大嫌いだがやればできる子・瞬(関西ジャニーズJr.の池川侑希弥)、ヤクザの息子でリーダー格の隆造、宗教狂いの母を持ち登校拒否がちなトカゲ、ゲーム好きだが成績優秀なメガネくん・正太郎。ここに映画オタクの西野やら、松田優作気取りだがねずみ男的性格のモデルガンマニアらが加わって、思春期以前の男子の友情を紡いでいく。
足立は亡き相米慎二に師事していたのだけれど、全編に散りばめられた移動長回しは師匠へのオマージュ、とりわけ『ションベン・ライダー』(1983年)からの影響は顕著で、あれほどアクロバティックではないものの充分見ごたえあり。子役時代に『ションベン~』に出演していた永瀬正敏が、隆造の父親役で出てきます(3月24日公開)。
映画『赦し』★★★★★
グループセラピーで出会った夫と安寧な生活を送りはじめた澄子(MEGUMI)のもとに1通の通知が届き、7年前の悪夢が蘇る。前夫・克(尚玄)とのあいだの高校生だった娘が7年前、同級生に殺されたのだ。その加害者の再審請求が受理され、各人各様の葛藤が顕在化していく。
新しい生活に過去からの逃避を図る澄子。過去に囚われたまま復讐に燃える克、かつてやってしまったことの悔いと正当性に苛まれ続ける加害者(松浦りょう)。裁判が進むにつれ、澄子と克は受け入れがたい事実を知ることとなるのだが・・・。インド出身のゲーム・クリエイターながら、真逆ともいえる真摯(で、かなり頭おかしい)な人間ドラマを実写で作ってきたアンシュル・チョウハン監督としてはもっともエンタメ度高し。
少年法という微妙な題材を扱いながらも監督は中立的立場を維持し、なんなら人権派弁護士の胡散臭さのほうが目立ったりするのも面白い。冒頭から、ちょっとアントニオーニあたりを思わせるラストシーンまで、俯瞰の視点が効果を発揮する(関西:3月24日公開)。
映画『メグレと若い女の死』★★★★☆
名匠パトリス・ルコント8年ぶりの新作。出世作『仕立て屋の恋』の原作者ジョルジュ・シムノンの代表作、ご存じメグレ警視シリーズの映画化だ。メグレ役には名優ジェラール・ドパルデュー、ま、いささか巨体すぎる感はあるが、ミステリというより人間ドラマ探求の原作にはぴったり。
ずっと「性」に拘り続けた監督らしく、その裏にはブルジョワ社会の倒錯的なものも潜んでいるのだが。階級間の落差が顕著な1950年代初頭の空気の醸し出しようがまさにルコント的で、色を抑えたノスタルジックで贅沢なムードに酔う(関西:3月24日公開)。
映画『マッシブ・タレント』★★★★☆
ここ15年、仕事を選ばず玉石混交の作品に出まくっていたニコラス・ケイジ。アカデミー受賞者なのにそのあまりに節操のない仕事ぶりに、ある人は失笑し、ある人はニコケイ沼にずぶずぶハマっていった。この映画の監督は間違いなく後者。ニコケイ自身がニコケイを演じるこの映画、もうほとんどファン・ムーヴィである。
借金返済地獄に追い込まれているニコケイ。高額ギャラに傾いて、映画狂である巨大犯罪組織のボスと目される男の豪邸に招かれ、彼のプロデュースで映画を撮ろうと意気投合するが、そこに目を付けたのがCIA、ニコケイをスパイにして証拠を確保しようと目論むが・・・。『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』を傑作と言い切るところに監督の確かな愛を感じます(3月24日公開)。
●そのほかの今週公開の映画
『ロストケア』★★★
安楽死問題もなんか当たり前に正義すぎてインパクトなし。へ、これで終わり?って感じ。
『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』★★半
夢とリピート構造は面白いんだけど、テレビシリーズもそうだったが入江悠にはこういう題材合ってないかも。好きなんだろうけどね。
『エスター ファースト・キル』★★
『エスター』の前日譚だが、ま、予想を超える要素は何もなく凡庸。
【ミルクマン斉藤】映画評論家。上で紹介した『零落』の上映を記念し、「アップリンク京都」での4月6日・夕方6時30分の回(上映前)に主演の斎藤工さん舞台挨拶のお相手いたします。『くまもと復興映画祭』以来の斎藤×斉藤です(笑)。ツイッター
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