湯道の家元・小山薫堂、「気付き」における人生の楽しみ方

2023.3.20 06:00

映画『湯道』の企画・脚本を担当した放送作家・小山薫堂さん

(写真6枚)

「価値観の多様性を表現したかった」(小山)

──なんかおもしろいものはないかと、日常生活のなかでも目線を変えてモノを見るというのがクセづいている感じですか。

そうですね。子どもの頃から、対向車のナンバーが「8888」だったら当たり、みたいな感じで勝手に妄想しましたね。そしたら、ただすれ違う車がくじをひいてるような気分になるじゃないですか。そういうのは子どもの頃からやってたような気がします。

──時間を見て「1111」だったときも、ラッキーな気分になりますよね。

そうです。僕は誕生日が6月23日生まれなんで、デジタル時計で「623」が並ぶとそうで。あれ、ほかの時間だったら思わないじゃないですか。そういう感覚に近いかもしれないですね。

「行動変容を促すことができれば」と語る小山薫堂さん

──ホントにちょっとしたことで、人って楽しくなれるものなんですね。まさにこの映画『湯道』は、お風呂という日常的な行為のなかにも、人生を豊かにするモノがあることを教えてくれます。

それはすごいうれしいですね。映画を観た方の行動変容を促すことができたら、それがいちばんの価値だと思ってるので。

──今回、企画・脚本を担当されていますが、映画を作るにあたっていちばん大切にされたことは?

ひとつは、鑑賞後の「後味」ですね。いろんな世代の人が一緒に楽しむことができる、お風呂のような作品を目指しました。過度な物語にしないとか、悪い人が出てこないとか。今回、太田与一という温泉評論家が悪いと言えば悪いんですけど、でも、最後には心を改めるので(笑)。

──吉田鋼太郎さん演じた太田与一は、源泉掛け流し至上主義の温泉評論家ですが、「湯道」において温泉と銭湯の違いはあるんですか?

いや、違いはないですね。食に近いと思うんですけど、たとえば無農薬じゃなきゃダメだとか、調味料は認めないとか、養殖モノは食べないとかあるじゃないですか。でも、養殖の刺身もおいしいよねって思える方が幸せなんじゃないかと。太田さんの生き方というより、自分の信じたモノ以外を認めない生き方って、すごくもったいないと思うんですね。価値観の多様性を表現したかったんです。

源泉掛け流し至上主義の辛口温泉評論家・太田与一(左) (C)2023 映画「湯道」製作委員会

──道を究めると、どうしても流儀や作法に囚われがちになりますよね。

それはお茶の家元と接していて思うんですけど、結局、本質が分かっている人は、1杯のお茶をおいしく飲むということにいちばんの価値があるとおっしゃるんですね。僕が入院したときに家元がお見舞いに来てくれて、お茶を点ててくれたんですよ。病室の片隅だし、そこには作法とかなにもないけれど、このお茶おいしいなって思えることがいちばん価値だし、そのために点ててくださったので。

いつも「湯道は作法にあらず、湯に向かう姿勢なり」と伝えているんですけど、こうしなきゃいけない、ああしなきゃいけないってことはないんですよね。最終的には楽しむ、湯に感謝するということがいちばんの作法かもしれないです。作法ばかりに囚われると、本質を見失ってしまいますし。ただ、型があることで人々が夢中になるという側面もあるので、一応、「湯道」にも作法は作ってます。

映画『湯道』

2023年2月23日公開
企画・脚本:小山薫堂
監督:鈴木雅之
出演:生田斗真、濱田岳、橋本環奈、ほか
配給:東宝

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