湯道の家元・小山薫堂、「気付き」における人生の楽しみ方

2023.3.20 06:00

映画『湯道』の企画・脚本を担当した放送作家・小山薫堂さん

(写真6枚)

「あえて摩擦を作る努力をする」(小山)

──多様性かつ柔軟的な楽しみ方が小山流、といったところですか。

僕はそうですね。超高級フレンチも好きですし、それが好きだと言うためには、その背景にある文化や食材のこと、ワインの生産者や製造方法を分かった上で接すると、さらに楽しめるじゃないですか。なぜこのワインがいいのか、その情報を知ってて触れるのと、知らずに触れるのとでは感じ方も変わってきますし。

と同時に、B級グルメも大好きで。その店主の思いや背景みたいなものを知って食べるとよりおいしくなる。感情移入が価値の大きさを変えてくれると思うので、そのきっかけが情報であったり、人との出会いであったり、いろんな視点があるなと。好奇心がいちばんの生き甲斐につながるポイントかなと思います。

退職金で自宅に檜風呂を作るのが夢という、小日向文世演じる横山正 (C)2023 映画「湯道」製作委員会

──今回の映画では、銭湯を舞台に人と人の交流が丁寧かつ色濃く描かれてます。湯道を究める、という一方で、人と人との関わり、交流もすごく大事にされていますね。

そうですね。たとえば、みなさん旅は好きだと思うんですけど、その面白さって出会いだと思うんですね。どんな人に出会うか、どんな会話を耳にするか、なので、すんなりいく旅よりも、あえて摩擦を作るというか。その努力をした方が絶対に旅はおもしろいだろうなって。僕はそういうタイプなんで。

──ところで、ご自身を反映した劇中キャラクターはいますか?

「お風呂について深く顧みる」という「湯道」の世界に魅せられた定年間近の郵便局員・横山さんを演じていただいた小日向文世さんですね。自分の人生の夢を、風呂にもっていくというところがいいですね。僕も理想の風呂をどこに作ろうかといつも考えているので。

──まだ実現されてない?

実現はちょっとずつしてるんですけど、究極の風呂はまだ作ってないんで。作りたいなって。

実家である銭湯「まるきん温泉」に浸かる主人公・三浦史朗(生田斗真) (C)2023 映画「湯道」製作委員会

──ちなみにその究極の風呂とは?

究極を言うと、自分の好きな風呂を全国に作って、それを点検して回るような。レストラン「NOBU」のノブ・マツヒサ(松久信幸)さんもそうなんですけど、世界中に自分のレストランがあって、チェックという名目で旅をしながら巡ってるんですね。あれが、すごいうらやましくて。自分の好きな風呂が全国の温泉地、あるいは小さな町にあって、それを渡り歩くような人生っていいなって。

──それって、自分が入りたいというのもあるでしょうけど、みんなに・・・。

そう、入ってもらいたいんです。そして、自分も入る。この前、大分・別府の鉄輪(かんなわ)地区に行ってきたんですけど、改めていいなって思って。いろんなところから湯けむりがあがっていて、小さな公衆浴場が点在してて、その数がほかの温泉地の比じゃないくらい集中してるんですよね。

これまさに「温泉界のベネチア」だなって。そこに「湯道」の道場があって、町のお風呂を巡って、そこで住む人々と知り合って。そこでまたいろんな気付きがあって。町の人も気付きを与えたことが自分の幸福につながったりする、そんな町おこしができたらいいなって勝手に思ってます(笑)。

映画『湯道』

2023年2月23日公開
企画・脚本:小山薫堂
監督:鈴木雅之
出演:生田斗真、濱田岳、橋本環奈、ほか
配給:東宝

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