家康の「if」の姿に重なる、今川の忠誠を貫いた田鶴の存在【どうする家康】

2023.3.24 11:45

引間城のお田鶴(関水渚)(C)NHK

(写真3枚)

古沢良太脚本・松本潤主演で、江戸幕府初代将軍・徳川家康の、厳しい選択だらけの人生を描きだす大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。第11回『信玄との密約』で描かれた、家康に攻められたお田鶴のあまりにも悲しく美しい散りざまに、SNSは感動の声があふれた(以下、ネタバレあり)。

■どうする家康、お田鶴の覚悟

今川家との同盟を破棄した武田信玄(阿部寛)から、同時に今川領を攻め落とすという密約を結ばされた家康。隣国の遠江を攻略するにあたり、妻・瀬名(有村架純)の幼なじみで、「引間城」の女城主となったお田鶴(関水渚)に降伏を勧めた。瀬名も再三文を送るが、お田鶴からはなんの返事もない。家康は引間城を包囲し、夜明けまでに城を明け渡さねば、総攻撃をおこなうと決めざるを得なくなった。

お田鶴の身を案じる瀬名(有村架純)(C)NHK
お田鶴の身を案じる瀬名(有村架純)(C)NHK

その晩、お田鶴は瀬名に向けて「あなたの夫は今川さまのご恩を忘れ、この世を悪い方へ悪い方へと導いておられる。覚えていよう? 誰もが笑顔であったことを。もう一度今川さまのもとにみなが集い、あの幸せな日々を取り戻さねばならぬ」という文をしたためた。そして翌朝、お田鶴は武装して城に火を放ち、家臣たちとともに城門から現れる。

お田鶴の覚悟を察して、制止しようと駆け寄る家康。しかしお田鶴は攻撃の雄叫びを上げて突撃し、家康軍の銃撃を浴びて倒れた。その頃、瀬名が待つ築山殿では、かつてお田鶴が「独りぼっちであろうと、りんと咲く姿に憧れる。世に流されず、己を貫いているようで」と語っていた椿の花が、降りしきる雪のなかで咲きはじめていた・・・。

■本作が選んだのは、ひたむきで哀しい女城主像

大河ドラマで女城主といえば、柴咲コウ主演の『おんな城主直虎』(2017年)が頭に浮かぶ(傑作なので機会があればご視聴を!)。彼女と同じ時代を生きた、もうひとりのおんな城主として知られるのが、「椿姫」の別名を持つ引間城城主・お田鶴の方だ。第11話の後半は、家康に真正面から挑んで戦死した伝説の女傑の生き様に、大きなスポットが当てられた。

夫の飯尾連龍(渡部豪太)亡きあと、代わって城主となったと伝わるお田鶴。ただ、家康に抵抗した事情は明確ではなく、それどころか連龍ともども今川氏真(溝端淳平)に討たれたという説まであって、かなり史実的にはあいまいな立ち位置だ。『どうする家康』が選んだのは、美しい思い出のために、夫を犠牲にしてでも今川家に忠義を尽くす・・・という、ひたむきで哀しい女城主像だった。

最後に瀬名への手紙でその心境を綴るシーンでは、SNSで「田鶴さまが頑張った理由が、実家を滅亡させて兄を殺された恨みでなく、あの美しくて幸せだった祖国への思慕だったというのがせつない」「今川LOVEが過ぎたんやなぁ」などの声が上がっていた。

■自滅したお田鶴、家康の「if」の姿だったかも

遠江の引間城へと兵を進めるも、お田鶴と戦うことに抵抗を感じる徳川家康(松本潤)(C)NHK

今川家が支配する駿府が夢の都だった頃、そして今川義元(野村萬斎)が健在であれば、今もそうだったかもしれない世界に固執した結果、自滅したお田鶴。でもそれは、今でも今川家の家臣であることにこだわり続けていたら・・・、という家康の「if」の姿だったかも、とSNSでは盛り上がっていた。

「過去に囚われていた頃の家康みたいなお田鶴。違うのは家康には三河の家臣がいること」「泣いて泥にまみれ今川と手を切った家康が、その理想をいま生きる地に移し替えようとしてるのに対し、田鶴は結局、今川への忠義を『正解』にする以外の道を知れなかったんだろうな」などの意見が。

そして望んだ通り、己を貫いて椿の花のように散ったお田鶴の最期に「涙が止まらなかった。田鶴の想い、瀬名の想い、家康の想い。悲しくて、切なくて美しい回だった」「自分の夫も、友人とその夫も、どうして裏切ったんだと思いながら椿の花のように潔くパッと散ってしまった。切ない」と、涙や悲しみが止まらなかったという声も上がっていた。

ちなみに田鶴を演じた関水渚は、このクライマックスに向けて乗馬をマスターし、実際に20kg近い甲冑を着て臨んだと、19日に開催されたトークショーで明かしていたそうだ。ここから戦国武将として数多の大戦を重ねていく家康と、ほがらかな妻から歴史に翻弄される「悪女」となる瀬名の、ひとつの分岐点となる存在を堂々と演じきった関水に、大きな退場の拍手を送りたい。

『どうする家康』は、NHK総合で毎週日曜・夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夕方6時からスタート。第12回『氏真』では、武田に攻め込まれ、駿河から掛川に落ち延びた今川氏真と、家康の直接対決が描かれていく。

文/吉永美和子

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