娘を殺された両親と加害者、魂の救済に挑んだアンシュル監督

2023.3.28 21:00

インド出身のアンシュル・チョウハン監督

(写真7枚)

「ここを最後に使おうと決めていました」

──なるほど。話は変わりますが、ラスト近くのショットが衝撃的でした。判決後、夏奈が手錠を解かれるときに小っちゃい窓から克が覗くと夏奈と目が合ってしまう。僕はまだ許してないぞ、というのが暗にあるのじゃないかと、どうしても思ってしまいます。

観客の受け止め方がいろいろあって欲しいと思うので、克が実際に彼女を許したかどうかは明確にはしていないんですね。彼女は後ろを振り向いたときに、かなり長い時間カメラを見ているんですけれども、その状況は実際は克を見ているのではなくて、私のなかでは観客に向けて「あなたはどう思いますか?」と問いかけている瞬間なんです。

実際によく考えていただくと、後ろを振り向いて被害者の父親を加害者があれだけ長い時間見つめるというのはなかなか難しいと思うんですね。で、それからどうなっていくんだということを問いかけている物語になっています。

映画『赦し』 (C)2022 December Production Committee. All rights reserved

──俯瞰に始まって、俯瞰で終わる。随所にも俯瞰が入ってくる。それが結構印象的です。特にファーストショットはすごくサスペンスフルな感じがします。明らかに殺人だと分かるし、何かが起こったという不穏さを我々に投げかけてくる。

そうですね。

──そして、最後の静謐な、古典的ともいえるあの2人のショットですね。あれがやはり素晴らしいなと。ちょっとミケランジェロ・アントニオーニ(世界三大映画祭すべてで最高賞を獲ったイタリアの名監督)みたいな感じもしつつ、これからのあの元夫婦の行く末が観客はどうしても気になってしまう。

その最後のシーンは脚本には細かく書いてなかったんですね。撮影場所を見たとき、ここを最後に使おうと決めていました。ただ、最後にだけ出すと観客に「ここはどこ?」となってしまうので、外のシーンで紹介はしています。この道がジグザグというのは、もし克が真っ直ぐ歩いていった場合は、彼の未来に何も障害がないように思うんですね。

そうではなくてジグザグを歩くことで、克はこれからいろんな問題に直面するんではないかという暗示にはなったかと。その後ろを等間隔で歩いく澄子は、行く末がなんとなく分かっている克に対して、これから彼女が直樹と歩んでいくと決めたとしても、克を守りますよという感覚に、観てるみなさんに思ってもらえるんじゃないかなと。

演出の狙いについて語るアンシュル・チョウハン監督

──克が先に曲がりますよね。で、澄子があとから来ます。澄子が曲がらずにストレートな道を辿るかどうかがかなり大きいところで、ちょっとシンボリックかつサスペンスフルな素晴らしいエンディングだと思います。

最後のシーンは、もしかしたら克の夢だったかも・・・と考えることもできると思うんですね。克の後ろに澄子がいると分かった瞬間、克は振り向きもせず、ちょっと笑っているような顔でそのまま歩き続けます。

それは澄子が追いかけてくるというのが分かっていて微笑んでいたのかも知れません。そういった意味で、克は夢見心地にあって、何か新しいことが起こっているかも知れないという暗示になっているとは思います。

──なるほど、面白いですね。そのあと、『コントラ』でも一緒だった香田悠真さんのストリングスを中心とした不穏な音楽が響きます。ドミソドソミドが「イマヤマニ」と歌っているように聴こえるんですが、あれは意味があるんですか? ただのヴォカリーズ(歌唱法)なんですか?

夏奈のフラッシュバックのシーンを撮る際、都内のある高校を使わせてもらったんですけれども、撮影をしているときに合唱部のみなさんが歌を歌っていたんですね。そのとき、これは映画で使いたい音楽だと思ったんです。

この練習の風景はみなさんにとって学生時代を思い出させるものだと思うので、これがすごくヒントになりました。なので、それを音楽の香田悠真さんにお伝えして、ぜひこれを合唱部のみなさんに歌っていただきました。「イマヤマニ」と聴こえるとすれば、その学校がそういう練習をしていたからです。

映画『赦し』

2023年3月24日公開(近畿エリア)
監督:アンシュル・チョウハン
出演:尚玄、MEGUMI、松浦りょう、藤森慎吾
配給:彩プロ

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