名優の家系に生まれた寛一郎、なぜ「向いていない」と言うのか

2023.4.1 19:00

舞台『カスパー』で、初舞台にして初主演をつとめる俳優・寛一郎

(写真7枚)

映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』や大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など、作品ごとに進化を遂げている、俳優・寛一郎。祖父は三國連太郎、父は佐藤浩市という俳優一家に生まれながら、「あまり舞台をやるとは思われていない」(本人談)という。そんななか、4月に『カスパー』で初舞台を踏むことになった。

しかも「人間というより概念」というほど抽象的な、初舞台には躊躇するような役柄を、あえて志願。本作への熱い思いや役者に対する本音などを、ぶっちゃけトークで語ってくれた。

■ 「自分の人生を反芻(はんすう)させてくれる作品」

──『カスパー』は、16歳まで世界と隔絶した状態で育った実在の人物、カスパー・ハウザーの物語です。でも彼の伝記ではなく、人間が言葉を会得していく過程で、なにが起こるのか? を、カスパーを媒介にして見せつけるような作品ですね。

監禁されて育ったカスパーが、16歳から言語と社会性、公共性を学びはじめ、21歳で死んでいくという4・5年間を見せていきます。(ヴェルナー・)ヘルツォークも映画(『カスパー・ハウザーの謎』)にしていますが、それとは認識が違いますね。実際にいたカスパーではなく、すごく概念的なカスパーです。

役柄を「概念的」と捉えながら、自身の経験とも照らし合わせ役作りをおこなったという寛一郎

──この脚本を使った、別の舞台を映像で観たことがあります。起承転結のあるドラマではなく、周囲の人々が暴力的なほどに言葉を教え込むことで、カスパーが徐々に変化する過程を見せていくという、かなり前衛的で考えさせられる世界でした。

僕らは今こうやって、言語を媒介にして当たり前のように会話をしていますが、0~2歳ぐらいまではそうじゃなかった。どんどん言語を学んでいって、それによって社会の倫理やルールを植え付けられていって・・・そのなかで当たり前にスルーしてきたこともあると思うんです。

『カスパー』はそれに対して「そういえば、これっておかしいよね」と、ハッとさせてくれるというか。自分のなかで見過ごしてきた何かに気づかせてくれる、自分の人生を反芻(はんすう)させてくれる作品でもあるかなあ、と思います。

──「人間はこうやって、社会の一員にされる」という一面を、数十分の間に凝縮して見せる、という感じでしょうか?

俳優デビューは2017年、現在26歳という若さながらにも達観した話し口調で、頼もしい印象を与える寛一郎

人間の根幹とか、本能的な部分・・・「なにをもって人間とするか?」が描かれてるんです。だからお客さまには「カスパーは自分だ」と思って観ていただけたらと思います。難しい話だけど、どこかしら自己投影というか、自分と共鳴できる部分はあると思います。

──となると役作りも、これまでにない感じでしょうか?

キャラクターを付けてしまうと、もう訳のわからないことになっちゃうんです。キャラというか、人かどうかもわからないし(笑)。僕はカスパーのように、言葉を知る前、つまり「人間」になる前にはもう戻れないから、そういうカスパーをイメージして作るのは、どうしても難しい。でも自分と共鳴できるところもあるので、そういうところは自分の感情を乗せていくとか、フラットな状態でやっているところです。

──とはいえ、演出のウィル・タケットさんはダンサー出身で、出演者には「大駱駝艦」(麿赤兒が主宰する舞踏集団)の人たちもいるので、ビジュアル的にも楽しめるものになりそうです。

僕は最初に、大駱駝艦の人たちに操られて、人間の形のオブジェみたいな感じで登場しますしね。ウィルさんは最初から演出を決め切らず、役者たちの肉声を聞いて、どんどん新しいものを取り入れて、構築するタイプ。読んでも難解な台本を、どうすれば観ても楽しんでもらえて、かつ理解ができるか? と。でも稽古はすごくいい雰囲気だし、僕も楽しんでやっています。

舞台『カスパー』

会場:松下IMPホール(大阪府大阪市中央区城見1-3-7)
期間:4月9日(日)
料金:9800円

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