大阪でこんな時代に新しい劇場、地域に愛される商店街での挑戦

2023.4.23 08:15

大阪・福島に「聖天通劇場」を立ち上げた永井秀樹さん

(写真9枚)

■ 難関な「法律」の壁を乗り越え生まれた空間

そんな行き当たりばったり的に始まった、劇場建築計画。資金面以外で1番の難関になったのは「法律」だったそうだ。

3月3日にグランドオープンを迎えた「聖天通劇場」

「劇場を作るには『消防法』とか『興行場法』などの法律があり、定員の制限や、設置しなきゃいけない物とかがたくさんあるんです。防音や明かりの面でも、考えてなかった問題がなにかと出てきて・・・」と言うが、「設計士が、劇場作りに関わった経験のある方だったので、解決方法をいろいろ提案してくれて」なんとかオールクリアにこぎつけた。

俳優として、そして観客としていろんな劇場に通った経験を活かし、小さいながらも開放感があり、水回りの導線までよく考えられた空間に。ほかにこだわった所があるかと問うと「傷がついてもいい状態にしたかった」という、思いがけない答えが。

演者のキャリアがある永井さんだからこそ、実現できた広大な楽屋スペース

「劇場は、使うごとに傷がついていくのは避けられない場所。あまり乱暴に使われても困るけど(笑)、早いうちに傷が付いて、みんなが気楽に使える空間になればいいなあと思います」と、その理由を語る。実際に劇場の床は、すでに内覧に出入りする人たちの足跡で、うっすら汚れが付きはじめていた。劇場が活性化すればするほど、この「名誉の傷」は増えていくことだろう。

■ ヨーロッパの街に憧れ、「日本でも」

劇場の公式サイトには、キムラ緑子や古舘寛治などの著名な俳優たちからも、お祝いのメッセージが多数寄せられた。3月末には、最近は中劇場レベルの公演が続いている青年団の作品を、小空間で体験できる貴重な公演もある。しかし永井さんは、こういった集客力のある俳優や団体に使ってもらうよりも「地域密着型に特化したい」と言い切る。

劇場の生い立ちについて、インタビューに答える永井秀樹さん

「青年団の公演で、ヨーロッパに行く機会がすごく多かったんですけど、向こうの演劇事情に対する憧れが、やっぱりありました。特に(ドイツの)トリアの町の劇場では、毎年『ロミオとジュリエット』を上演するんですが、それは街の人たちの手作りの公演で、終わったあとはみんなでお酒を飲みながら『今年はここが悪かった』『ここは成長した』って話しあってるんです」。

そのノリを想像すると、たとえば地元の飲み屋さんで「昨日のタイガースの試合はここが良かった」「○○選手の調子が悪かった」って言い合うようなもんですかね?・・・と聞くと、永井さんは「もう、本当にそうなんです! 日本でも、この福島でも、普通の人たちがそんな感じで舞台について語れるようになるというのが、この劇場の最終形態です」と語った。

それを実現するためには、まずは地元の人たちが、気軽に劇場に入りやすい環境を整える必要がある。その最初の戦略のひとつは、演劇だけでなく、落語や演芸などの、幅広いジャンルのイベントに対応していくこと。それは偶然にも、福島が落語と馴染みが深い町だったことが、追い風になりそうだと言う。

未就学児が劇場に入る機会を増やし、「将来的には演劇や講談や漫才を観るだけじゃなくて、自分でも挑戦できるような企画ができたら」と語る永井さん

「以前この近くに、月亭八方さんが作った『八聖亭』という寄席があったんですけど、最近なくなったんです。それを残念がってた人たちが『また落語ができる所を作ってくれるんや』みたいな感じで、『落語やってくれるの? あ、演劇もやるの?』という感じでこの劇場に入ってきてくれました」とほほえむ。

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