大阪でこんな時代に新しい劇場、地域に愛される商店街での挑戦

2023.4.23 08:15

大阪・福島に「聖天通劇場」を立ち上げた永井秀樹さん

(写真9枚)

■ 演劇・エンタメ界の「底上げ」を図るべく

新型コロナをきっかけに、企業でも芸術でも、東京の一極集中の呪縛から離れて、地方に拠点を移したり、改めて地域密着性を高めるという動きが活発化している。それは関西の小劇場も同じ。少し前の劇場は、演劇をやっている人や観ている人たちに、いかに利用してもらうか? ということに囚われていた観があったが、最近は地域の住民の協力や参加を重視する動きが目立ち始めた。「聖天通劇場」は、まさにその分岐点で生まれたとも言える。

関西での「地域密着型」の先駆けとも言える「ArtTheater dB KOBE」(神戸市長田区)の代表・大谷燠さんは、「聖天通劇場」の誕生を「小規模の商店街は衰退しているのが現状のなか、福島に新しい劇場が生まれることに、地域と劇場の可能性を感じます」と歓迎し「劇場が地域の人たちの居場所になっていくことが大切だと思います。子どもから高齢者、障がい者など多様な人たちが参加できるプログラムを実現してください」と希望を語った。

大谷さんが実行委員長となり2015年に始まったアートフェスが今年も10月に実施。劇場では若手アーティストが稽古をおこなっていた
神戸の新長田エリアにある「ArtTheater dB KOBE」、通年を通したダンサー育成プログラムなども実施する

また、京都の「THEATRE E9 KYOTO(E9)」(京都市南区)は、前身の小劇場「アトリエ劇研」(京都市左京区/2017年閉館)が、地域社会に溶け込めていなかったことを反省。そのため、周辺エリアの住人&勤務する人たちに、割安の年間パスを販売するなど、地域ファーストの取り組みを積極的におこなっている。

芸術監督のあごうさとしさんは「聖天通劇場」に対して、「こけら落としのラインアップが、講談や落語、永井さんの一人芝居と、大阪の街の風情や香りを感じさせるもので、すでに劇場の個性というものが発揮されている」と称賛。「上方の繁華街にある小劇場として、これまでの小劇場にはなかった地域の魅力の発信と創造がされるだろうと、勝手ながら夢想しています。私たちE9とも、いろいろな形で協働できたらありがたいです」と希望を語った。

2019年6月にオープンした「THEATRE E9 KYOTO」の外観
2019年6月にオープンした「THEATRE E9 KYOTO」の外観

3月3日には、こけら落とし公演として、落語家・柳家喬太郎の独演会がおこなわれた。客席のほとんどは、地元の方と思われる年配の人たちで、小空間ならではリラックスした雰囲気に、大いに湧いていた。地域密着型を目指す劇場としては、上々の船出だろう。

数年前から、若いシェフたちの挑戦の場として徐々に飲食店が増え、今では大阪を代表するグルメエリアとなった福島。「聖天通劇場」もまた、まだ無名の演劇・演芸関係者たちの挑戦の場として、あるいは中堅の人たちがこっそり実験を行う隠れ場として、大きな可能性を秘めている。ポストコロナの関西演劇界を盛り上げる、小さな立役者となってくれることを期待したい。

「ArtTheater dB KOBE」代表・大谷燠さん

(コメント全文)聖天通商店街は昔何度か行ったことがあり、歩いていて趣きがあり、好きな商店街でした。概ね小規模の商店街は量販店などの進出によって、或いは店主の高齢化などの理由で衰退しているのが現状です。そこに新しい劇場ができるということは素晴らしいことだと思います。


大阪でいうとミナミやキタではなく、福島に生まれるということに地域と劇場の可能性を感じます。劇場が舞台芸術を鑑賞する場にとどまらず、まず地域の人たちの居場所になっていくことが大切だと思います。子どもから高齢者、障がい者など多様な人たちが参加できるプログラムを実現してください。

「THEATRE E9 KYOTO(E9)」芸術監督・あごうさとしさん

(コメント全文)聖天通劇場、開館おめでとうございます。大阪の福島という大繁華街に小劇場が誕生したことは実に奇跡のような慶事に思います。杮落としのラインアップも、永井さんが所属される青年団の公演のほか、講談、落語、永井さんの一人芝居と大阪の町の風情や香りを感じさせるもので、既に劇場の個性というものが発揮されているように思います。


地域と劇場の関係性というものは、さまざまなあり方があると思いますが、上方の繁華街にある小劇場として、これまでの小劇場には無かった地域の魅力の発信と創造がされるだろうことを勝手ながら夢想しております。私たちTHEATRE E9 KYOTOともJR1本でつながりますから、色々な形で協働できましたらありがたいと思います。重ねて、聖天通劇場の開館をお喜び申し上げます。

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