長澤まさみ&前田哲監督「映画と社会的テーマは相反しない」

2023.4.13 06:30

映画『ロストケア』の前田哲監督(右)と女優・長澤まさみ

(写真6枚)

松山ケンイチと長澤まさみの、確かな演技力を持つ2大スターが、介護をめぐってそれぞれの「正義」をぶつけ合う話題の映画『ロストケア』が公開されている。いま、私たちが直面する避けては通れない厳しい問題に真っ直ぐに切り込んだ真摯な作品だ。

メガホンをとったのは、大泉洋主演の『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年)や天海祐希が平凡な主婦をコミカルに演じた『老後の資金がありません』(2021年)などの作品で知られる、大阪出身の前田哲監督。来阪した監督と、検事役の長澤まさみに話を訊いた。

取材・文/春岡勇二 写真/Ayami

「誰が松山さんに対抗できるか考えたら・・・」(前田監督)

──原作が出版されたのが2013年で、監督は早い段階で原作と出合い、その後、松山さんとずっと映画化を考えておられたとのことですが・・・。

監督:そうなんです。松山さんとは2007年に『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』でご一緒して以来、ときどき連絡をとっていたんです。10年前、この原作本を読み終えたときに「今、面白い本を読んだんだ」って言ったら、彼もすぐに読んで「やりたいね」と。それで企画は動き出したんですけど、結局10年かかってしまいました。

──監督が原作で惹かれたところはどういったところだったのですか?

監督:松山さんと長澤さんに演じてもらった主人公2人の言葉の応酬に、今の日本が抱えているすべての問題が凝縮されていると感じたところです。僕は以前に『ブタがいた教室』(2008年)という小学生たちのディベートの映画を撮ったんですが、その経験もあって、このやりとりを力のある俳優さんが演じてくれたらすごいことになるな、という思いがありました。

42人の殺害を「救い」と語る介護士・斯波宗典(松山ケンイチ) ©2023「ロストケア」製作委員会

──主人公の介護士・斯波は松山さんが演じていますが、原作の大友検事は男性です。この役を長澤さんに演じてもらうことなったのは?

監督:大友役は女性にして、松山さんに対抗してもらう方が映画的に面白いのでは、というアイデアをプロデューサーからもらって。それはいいなと。今、仕事で男女の分け隔てもないですから。では、誰が松山さんに対抗できるのかと考えたら、「あ、長澤さんだ!」と。スターで演技力があって、なによりお客さんが観たいと思ってくれる人ですから。

──なるほど。検事役の長澤さんは、最初に脚本を読まれたときにはどう思われましたか?

長澤:やはり、松山さん演じる斯波との対話が面白いし、そのシチュエーションもいいなと思いました。なかでもグッときたのは、終盤の、収監されている斯波を大友が訪ねて面会室で話をするシーン。あそこで大友は自分の気持ちを吐露するわけで、そこまでいくことができたっていうのが胸に迫りました。

映画『ロストケア』

2023年3月24日公開
監督:前田哲
出演:松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、ほか
配給:東京テアトル、日活

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