長澤まさみ&前田哲監督「映画と社会的テーマは相反しない」

2023.4.13 06:30

映画『ロストケア』の前田哲監督(右)と女優・長澤まさみ

(写真6枚)

「知らないことを理解していくことが大切」(長澤)

──大友検事が心の揺れを告白するシーンですね。

長澤:今は誰もが自分の意見を持つことや発言することを怖がって、見て見ぬふりをしていると思うんです。でも、そこを改めて、自分にとって辛いことや苦しいことに向き合っていくことが、自分たちを変えていく一歩になる。それがしっかりと描かれていたので、大友という役に共感を持つことができました。

──あの面会室のシーンは、2人を隔てるアクリル板への写り込みなどを使って、向き合う顔が二重写しになるように撮られていて印象的でした。

監督:教会にある懺悔室をイメージしたんです。大友が一方的に話し、斯波は聴くだけで、大友の告白を斯波が受けるようになってはいるのですが、実は大友の話を聴きながら斯波もまた懺悔している、そういった感じになっていると思います。

映画『ロストケア』のワンシーン ©2023「ロストケア」製作委員会

──あのシーン以外の場面でも、周囲にある鏡やガラスを駆使して、2人の存在が二重写しにする演出が見られます。

監督:2人の存在はいわば合わせ鏡なんです。どちらが表でどちらが裏か、どちらが正義でどちらが悪か、虚像と実像を行き来することで、斯波と大友の立場がどちらにもなりうる、社会の歪みと危うさ、そういった効果を考えました。

──監督の2021年作品に『老後の資金がありません』がありますが、監督は今「老後」や「介護」といったいわゆる社会問題を題材にしようという考えがあるのですか?

監督:社会問題を扱うと言うよりも、青くさいことを言うようですが、未来に向けて映画をつくりたいという気持ちがあるんです。映画を観てくれた人が、感じたことを誰かに話してくれることによって、少しでも世の中がよくなっていったらいいなって。

映画『ロストケア』のワンシーン ©2023「ロストケア」製作委員会

──なるほど。

監督:一部の人の大きな運動で世のなかが変わっていくことも大切だけれど、小さな声がたくさん集まっていく方がいいなって思うんです。大きな声の人が10人いるよりも、小さな、ささやくような10万人の声が世の中を変えていく。映画にはそのきっかけとなりうる力がある、と思っています。

──本作『ロストケア』はまさにそんな思いが込められているわけですが、それについて長澤さんはどうお考えですか?

長澤:私もここ数年、ドラマを含めて関わらせてもらった作品が社会的メッセージを持っているものが多いですし、また、現実はどんどん生きづらい社会になっていってるなあという思いもあって。では、どうしたらいいかと言えば、やっぱり知らないことを理解していくことが大切だと思うんです。

映画『ロストケア』

2023年3月24日公開
監督:前田哲
出演:松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、ほか
配給:東京テアトル、日活

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